三重県情報公開審査会 答申第159号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成15年8月12日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成14年度特定法人の操業実績(産業廃棄物の実績報告)」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「平成14年度産業廃棄物処理実績報告書(特定法人)」(以下「本件対象公文書」という。)を対象公文書として特定し、平成15年9月25日付けで開示請求者に対して行った開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件異議申立てについて
実施機関は本請求に際し、本件対象公文書中に異議申立人を含む事業者の情報が含まれていることから、条例第17条第2項の規定に基づき、関係事業者109社に対して意見照会を行い、それを経て本件対象公文書を開示する旨の本決定を行った。実施機関は本決定を行うと同時に、関係事業者に対して条例第17条第3項の規定に基づき、情報を開示する旨の通知をしたところ、異議申立人(2事業者)から本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成15年10月10日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
4 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を開示決定したというものである。
本件対象公文書は、産業廃棄物の最終処分業者から提出された処理実績報告書で排出事業者、廃棄物の種類、搬入者の名称、処分量等が記載されている。
確かにその記載事項の一部は、記載されている法人の顧客に関する情報であって、公にすることにより、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められるが、平成6年に産業廃棄物処分業に係る同種の情報を非公開とした処分について、三重県を被告とした情報公開請求事件が提訴され、平成9年6月、津地方裁判所において、その処分を取り消す判決があった。
また、平成14年に同種の情報を公開とした決定について、対象となった第三者からの異議申立てを受けて開催された三重県情報公開審査会において、平成14年10月1日付け答申第128号で、実施機関の開示決定が妥当であると答申が出されている。
このことからも、産業廃棄物処理業の一般的性質上、当該事業の及ぼす社会的影響やその責任において、取り扱う廃棄物の種類、量、処分方法、搬入社名、受託事業者名等を公にすることで、住民等への不安感を取り除き、ともすれば抱かれがちである当該事業に対する社会的偏見を払拭し、正しい理解を得る必要があるものと判断し、本決定に至ったものである。
5 異議申立ての理由
異議申立人(2事業者)の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
開示請求者が誰であるか、あるいは開示請求の目的が明らかにされないまま、事業者としての情報が公開されると、将来どのような不利益が及ぼされるのかも予想がつかず、入手された情報が悪用されないという保障がないまま公開されることは、開示請求者のみプライバシーが保護され、事業者が保護されないという不公平な事態となってしまう。
入手された情報が、周辺住民の健康、その他の利益を保護する目的に限って使用され、さらに事業者に損害が生じた場合の保障が約束されるのであれば、情報公開されることもやぶさかではないが、周辺住民の健康に影響を及ぼすおそれに関しての詳細な説明等がないまま、情報が公開されていくことは、事業者にとって一方的に不利益となる。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第7条第3号(法人情報)ただし書きハに該当するので開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関の説明によれば、平成9年6月の津地方裁判所における判決以降、本件対象公文書と同種の情報については、常に開示しているものと認められる。同種の情報を常に開示している運用の結果として、特定の法人に多大な不利益を及ぼしたとの事例が顕在化した事実には接していないものの、一般的に事業者の情報は当該事業者にとって重要な営業情報であり、同業他社の努力次第で不利益を被る可能性が全くないと断言することはできない。この点については実施機関も認めるところであり、当審査会としても、どのように事業者の利益を損なうかについて具体的には不明確な部分があるが、本件対象公文書に記載された情報を開示することにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを否定するものではない。よって、本号本文に該当すると判断される。
次に、本号ただし書きの該当性について検討する。本号ただし書きは法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものである。
異議申立人は、開示請求者の属性や目的が不明なまま情報が開示されることについて危惧しており、確かに事業者として誰がどのような目的で自らの事業情報にアクセスしようとしているか、また、その情報がどのように利用されるかが明らかにされないまま情報が開示されることに不安感を覚えることは理解に難くない。しかしながら、情報公開制度は目的を問わず何人でも行政機関が保有している情報に対する開示請求権を認めた制度であり、この点に関して異議申立人の主張を認めることはできない。また、当審査会での口頭意見陳述において、異議申立人は、自らがあたかも不適法な事業活動を行っているかのような誤解を与えかねない旨の発言をしているが、実施機関においては、本件対象公文書に記載された100社以上の関係事業者に等しく意見照会をしていることが認められ、この点について異議申立人の危惧はあたらないと言わざるを得ない。
本件対象公文書に記載された情報は、産業廃棄物処理に関する情報であり、住民の関心が日増しに高まっている環境問題に関する情報であることから、人の生命、身体、健康に深く関係した非常に公益性の高い情報といえる。地域住民の不安等を払拭するためには、たとえ県が搬入を承認した産業廃棄物であっても、具体的な搬入の実態等を明らかにすることが求められる。上述のとおり、当該情報を開示することによって当該法人を取り巻く市場環境に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、産業廃棄物処理という事業には、事業者の運営によっては地域住民の生活環境等に重大な影響を与える危険性があることも事実であり、当該事業の特質から非開示により保護すべき利益よりも地域住民の健康等の公益が優先されると判断される。
したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きに該当し、開示することが妥当と判断すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15.10.28 | ・諮問書の受理 |
15.10.29 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
15.11.12 | ・開示理由説明書の受理 |
15.11.13 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15.11.25 | ・書面審理 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第187回審査会)
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15.12.16 | ・審議 ・答申 (第189回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。