三重県情報公開審査会 答申第158号
答申
1 審査会の結論
実施機関が当初の部分開示決定を一部を取り消したうえで行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年6月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定宗教法人(2法人)の宗教法人法に基づく全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年7月9日付けで行った部分開示決定の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「(1)「規則認證申請の受理について」(2)「特定宗教法人の規則認証について」(3)事務所備付け書類の写し(役員名簿・財産目録)(4)「宗教法人台帳」」(以下「本件対象公文書」という。)である。なお、本件対象公文書である宗教法人法第25条第2項の事務所備付け書類については、当初の決定において、存否を答えることにより、当該法人及びその関係者の信教の自由が害されるおそれがあり、また、宗教行政の適正な遂行に支障を来すおそれがあるためとの理由で存否応答拒否(平成15年7月9日付け)としたが、平成15年7月11日付け答申第144号の判断を踏まえ、存否を明らかにしたうえで、改めて部分開示決定(平成15年8月21日付け)を行っている。また、宗教法人台帳においても、この決定に伴ない明らかになる部分について、改めて部分開示決定を行っている。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)、第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
個人の氏名、生年月日、住所及び印影については、登記し、公にされている代表役員の氏名、住所以外の個人に関する情報である。そのため、特定の個人が識別され、当該個人の信教が公にされることなり、憲法で保障された信教の自由が侵害されることとなるため非開示が妥当と判断した。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人が所轄庁に提出する書類(以下「提出書類」という。)は、同条第2項により宗教法人が事務所に備えなければならない書類の写しであり、事務所備付け書類の閲覧については、同条第3項により、信者その他の利害関係人であって、閲覧することに正当な利益があり、かつ、その閲覧の請求が不当な目的によるものではないと宗教法人が認める者のみに、閲覧が許されているものである。
したがって、土地、建物にかかる種別や数量、基本財産の総額といった登記事項等の公知の事項を除く、資産の増減、預貯金等の法人の財産にかかる情報については、公にすると正当な利益を損なうおそれがあり、また、憲法で保障された信教の自由に基づく当該法人の権利を害するおそれがあるため、非開示とした。
なお、宗教法人台帳は、当実施機関が任意に作成しているものであり、提出書類から転記した資産、負債、賞味資産についても同様の理由により非開示とした。
また、信者数についても、非公知の情報であり、開示した場合は、当該法人の自由な宗教活動が損なわれるおそれがあるため、非開示とした。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
財産の範囲の特定について、市から払い下げを受けた公共用財産(簡易水道水源地)が、正当に宗教法人の土地として管理・保全されているのかどうか公益上開示するべきであり、改選された新たな責任役員について、宗教法人法に関して適法であるか否かを確認できない。この開示内容は、知事の監督権の不作為をも示すものと言える。なお、宗教法人台帳は「台帳」の体をなしていない。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
なお、本件異議申立ては、実施機関が平成15年7月9日付けで行った部分開示決定に対するものであるが、上述のとおり、同年8月21日付けで当初の部分開示決定を一部取り消し、改めて部分開示開示決定(以下「本決定」という。)を行っていることから、当審査会として本決定において一部取り消された非開示決定を除いた部分について判断するものとする。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、規則認證申請書類及び宗教法人法第25条4項に基づき提出される役員名簿の責任役員の氏名、住所、生年月日、印影、代表役員の生年月日のそれぞれの欄である。
これらの情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされているとは認められず、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号に該当すると認められる。
また、異議申立人は、責任役員が宗教法人法に関して適法であるか開示すべきであると主張しているが、特定宗教に属することは、個人の信仰に関する情報であり、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあることは明らかであり、これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。 法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示としたのは、宗教法人法第25条4項の規定に基づき提出される財産目録の土地、建物にかかる種別、数量、基本財産計を除く法人の財産にかかる情報、提出書類から転記し任意に作成された宗教法人台帳の資産、負債、正味資産、信者数のそれぞれの欄である。
これらの情報は、宗教法人法第25条3項において、宗教法人の事務所備付け書類に対する閲覧請求権者を「信者その他の利害関係人」に限定しており、公にされている情報とは言えず、当該法人の内部管理情報であると認められる。また、提出書類から転記された宗教法人台帳の非開示部分においても、同様である。
したがって、これらの情報を開示することにより当該法人の信教の自由が損なわれるおそれは否定できず、当該法人の正当な利益を害すると認められ、本号に該当する。
また、異議申立人は、公益上開示すべきであると主張しているが、これらの情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 7.22 | ・諮問書の受理 |
15. 7.29 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 8.22 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 8.22 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15.10.10 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第184回審査会)
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15.12.12 | ・審議 ・答申 (第188回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。