三重県情報公開審査会 答申第157号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を実施機関が作成、管理していない以上、実施機関が行った不存在決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年6月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定土地改良区の土地改良法に基づく全ての文書及び行政指導処分、県下の同様不適法な土地改良区の改善措置が分かる文書)」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年7月10日付けで行った公文書不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
土地改良区に関する主要な業務は、設立認可の審査、事業計画、変更等に係る認可、役員の就退任の届出、定款変更の届出などに対する審査、受け付けなどが所管業務である。土地改良区から提出される各種申請書、届出書を関係法令に照らし合わせた結果、不適法な記載事項があれば、その都度、口頭で助言及び指導を行なうとともに、速やかにその是正または改善を要求する。仮に、口頭指導にも従わない団体があれば、土地改良区の設立認可、計画変更などを認可しないことから、そのような不適法な団体の存在自 体があり得ない。
行政処分とまではいえない申請書類の誤記、記入もれなどは、口頭指導で十分対応可能であり、異議申立人が主張する文書による指導は存在しない。
4 異議申立て理由
土地改良区に対する土地改良法規定の知事の監督権の行使に係る「行政指導」が口頭で行なわれ、公文書が存在しないという不思議な態様は理解できない。県が、指導を口頭で行ないながら、土地改良区に自主的な判断を促すなどして書面での通知を行なわないのは職務怠慢の極みであり、情報公開を進める行政の建前からもその記録は文書で残すべきである。過去の事例の積重ねや不適法な実態に即しない行政庁の不作為があり、直ちに法に基づく適法な処分が為されなければならない。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 本決定の妥当性について
本件事案について、異議申立人は実施機関が行った本決定の取消しを求めているが、異議申立ての主旨は、実施機関が行ったとされる土地改良区に対する指導が口頭でなされ、公文書として記録を残していない点であると認められる。
ほ場整備を目的として設立された土地改良区には、施設の整備に伴い、多額の公金が拠出され、事業の適正な執行を確認する検査も実施されているのが現状である。このことから、土地改良区が限られた地域の特定の受益者で構成される法人であるとはいえ、比較的公益性を有する法人であることには変わりはない。関係法令に基づく県の監督権限下にある土地改良区が、行政処分を受けるまでには至らないまでも、県が土地改良区の健全な運営に直接係わるような口頭指導を行ない、少なくとも改善を求めたものについて明らかにすることは、土地改良区の監督官庁である実施機関が適正に指導を行なっているかどうかについて説明責任を果たすうえで求められていることも事実である。
このような観点からは、口頭指導の内容についても何らかの形でできるだけ記録を残し、情報公開の対象とすることが望まれるのは言うまでもない。しかし、本件事案の場合、異議申立人が主張するような記録が残されていないことの適否はともかく、重要な法令違反に該当するものではないとして、文書を作成、保有していないという実施機関の説明に不自然な点があるとは認められず、本請求に該当する公文書が存在しないとする実施機関の本決定は妥当であると言わざるを得ない。
(3) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 9.17 | ・諮問書の受理 |
15. 9.18 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15.10.2 | ・非開示理由説明書の受理 |
15.10.2 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15.10.28 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第185回審査会)
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15.11.25 | ・審議 ・答申 (第187回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。