三重県情報公開審査会 答申第156号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年6月26日付けで三重県情報公開条例平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定土地改良区の土地改良法に基づく全ての文書及び行政指導処分、県下の同様不適法な土地改良区の改善措置が分かる文書(以下「本件対象公文書」という。)」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年7月9日付けで行った2件の公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
土地改良区に対する検査は、当該改良区に法令、法令に基づいてする行政庁の処分、定款、規約、土地改良事業計画、換地計画等を遵守させ、合法性、合目的性及び合理性の観点からも検証し、役職員の運営に対する責任感を助長するとともに、不正・不当行為、合目的性からの遊離、合理性の欠如等が認められる場合には、速やかにその是正または改善の確保に努め、土地改良事業の円滑な施行に資するよう、行政庁の監督行為の一環として実施している。特に、総会議事録の写しは、土地改良区内部の運営に関する情報であり、開示することによって今後の適正な業務遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるものである。また、検査結果と関係書類には、次のとおり条例上非開示情報が記録されている。
個人の氏名、年令及び印影は、特定の個人を識別することができると認められ、条例第7条第2号(個人情報)に該当する。
検査結果と関係書類は、土地改良区の信用失墜に属する事項を含め、事業運営体制、財務及び業務の全般にわたる土地改良区の内部の運営上に関する情報であって、開示することにより、土地改良区の事業活動や名誉、社会的評価が損なわれる等、土地改良区の正当な利益を害するおそれがあると認められるため、条例第7条第3号(法人情報)に該当する。
検査結果等に関する情報であり、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるとともに、検査に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるため、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当する。
4 異議申立て理由
土地改良区に対する検査は、土地改良法規定の知事の監督権の行使であり、同法規定の適正な管理運営がなされているかどうかを立入検査するもので、その結果は当然公表されるべきである。土地改良区の状態が「不適法」な実態を伴うものである限り、その検査結果、それに基づく改善指導の報告文書を部分開示、非開示とすることは、土地改良事業についての信用失墜、説明責任の回避にほかならない。
多額の公金を支出する土地改良事業が公正適法に施行されているかどうかを検証し、その結果を全面公開することは、事業の原資である税の公正な負担消費について国民に説明責任を果たすうえで公益がある。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。
なお、本件異議申立ては、異議申立人からの一つの請求に対して、担当所属が異なることから2件の本決定がなされた結果、それぞれの決定に対して提起されているが、年度の異なる同種の公文書を対象にしており、また、実施機関からも一つの事案として諮問された経緯があることから、当審査会としてもあわせて審議することとし、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示としたは、本件土地改良区役員の年齢、役員以外の個人名、個人の印影である。これらの情報は、個人に関する情報であり本号本文に該当することは明らかである。また、他法令や慣行により公にされている情報とは認められないとともに、当該個人の権利利益を侵害してまで公にすべきであるとの公益上の理由も認められず、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして本件対象公文書のうち非開示としている情報は、以下のとおり分類することができる。
ア.実施機関が行った当該土地改良区に対する検査結果のうち総合判定及び事項別判定の部分
イ.当該土地改良区の預金残高証明書
ウ.当該土地改良区の取引先と認められる法人名(法人名が推測できる記述を含む。)
エ.当該土地改良区理事長の印影
オ.当該土地改良区の総会議事録
なお、このうちアについては、実施機関は本決定において条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するため非開示としているが、非開示理由説明書や当審査会における説明を総合すると、本号にも該当すると主張しているものと見受けられる。したがって、アを含めた前述のそれぞれの情報について、本号の該当性を以下のとおり判断する。
まず、アについて検討する。検査結果については、当該土地改良区の事業運営体制等について改善を要する事項が記載されており、一般的には、これらの情報を開示すると、実施機関が主張するとおり当該土地改良区の事業活動や名誉、社会的評価を損なう可能性がないとは言えない。しかし、他方で土地改良区の監督官庁である実施機関が適正に検査を実施しているかどうかについて説明責任を果たす必要があることも事実である。土地改良区の場合、実施機関が同様に検査を行っている農協や漁協のように金融機関としての役割があるわけではなく、検査の結果が明らかになったからといって、直ちに不利益を被ることは想定しがたい。本件事案の場合、実施機関は検査結果のうち総合判定及び事項別判定の部分を非開示としているが、本決定においてこれらのもととなる細目毎の判定は既に開示していることから判断すると、総合判定及び事項別判定の部分を非開示とすべき積極的な理由は認められない。したがって、これらの情報は本号に該当しないと判断すべきである。
次に、イの預金残高証明書については、当該土地改良区がどの金融機関とどのような内容の取引があるかという内部管理に関する情報であり、本号本文に該当する。また、ただし書きに該当し開示すべきとする公益上の必要性も認められず、非開示が妥当である。
ウの法人名について検討する。実施機関は、当該土地改良区と取引関係にあることを理由に本号に該当すると判断しているものと見受けられるが、当審査会がインカメラ審理により記述内容を見分したところ、これらの情報を開示することによって、当該土地改良区、あるいは当該法人の正当な利益を害するとは認められず、開示すべきである。
エの当該土地改良区理事長の印影については、理事長個人の私印ではなく法人としての印影であると認められる。これを開示することによって、当該土地改良区の正当な利益を害するとは認められず、開示すべきである。
オの総会議事録について検討する。本件事案に関して総会議事録の提出を必要としているものではなく、検査回答書添付の説明書として当該土地改良区から提出され、保管されていた特殊なケースである、と実施機関は説明している。このことをもって即座に総会議事録を非開示妥当と断定することは適当ではないが、当審査会がインカメラ審理により記述内容を見分したところ、本件対象公文書中の総会議事録は、当該法人の組織運営に関する事項が議題として提案されていることが認められる。
したがって、これらの情報は当該土地改良区の内部情報に属するものであり、本号に該当するとして非開示とした実施機関の本決定に誤りはないものと判断する。また、ただし書きに該当し開示すべきとする公益上の必要性も認められない。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして本件対象公文書のうち非開示としている情報は、実施機関が行った当該土地改良区に対する検査結果のうち総合判定及び事項別判定の部分である。これらの情報は検査結果に関する情報であり、開示すると正確な事実の把握を困難にするなど、事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある、と実施機関は主張している。また、これらの情報は、検査官である実施機関の職員の主観的な要素も大きく、本号に該当して非開示が妥当である旨、あわせて説明している。
何らかの特別な理由により検査目的を当初から明らかにせず、着眼点を秘密にしたまま検査を遂行する必要があるのであればともかく、本件事案の場合は、検査の細目や留意事項については既に開示されている。さらに、上述のとおり、本決定においてこれらのもととなる細目毎の判定は既に開示していることから判断すると、総合判定や事項別判定が細目毎の判定から大きく乖離していることは想定しがたく、これらの部分を非開示とすべき積極的な理由は認められない。したがって、これらの情報は本号に該当せず、開示すべきである。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 8.11 | ・諮問書の受理 |
15. 8.15 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 8.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 8.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15.10.28 | ・書面審理 ・実施機関の補足説明 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第185回審査会)
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15.11.25 | ・審議 ・答申 (第187回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。