三重県情報公開審査会 答申第154号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年3月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「県立病院での医療事故またはその疑いのある案件で示談金を支払った内容がわかる文書(平成9年度から14年度分)」の開示請求に対し、三重県病院事業庁長(以下「実施機関」という。)が平成15年3月27日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「総合塩浜病院における医療行為に係る損害賠償請求事件について」(以下「本件対象公文書」という。)に関する部分である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書には、患者、患者の家族及び代理人氏名等が記載されており、これらは、個人に関する情報であり、特定の個人を識別することができる。また、損害賠償請求内容については、原告の感情を金銭に換算して意思表示したものであることから、個人の内心に関する情報であり、開示することで個人の権利利益を侵害するおそれがある。県が行なった治療内容、損害賠償請求内容のうち患者の診療経過の記述は、個人の人格と密接に関係する情報であり、個人識別性がない場合であっても、これらの情報を公にすることは、個人の権利利益を侵害するおそれがある。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
県立病院で患者に行った治療内容は行政行為に該当するため隠す必要はなく、どのような原因で患者が入院し、県立病院がそれに対しどのような治療を行ないその結果どうなったのかは、公立病院として明らかにすべきである。
しかしながら、本決定の内容は、部のみの開示であり、これでは全部非開示と同じである。原告名、原告側の弁護士名、弁護士勤務地、原告の妻の氏名が非開示とされている以上、行政行為である治療内容等を公開しても個人が特定されるとは考えにくく、開示すべきである
6 審査会の判断
本件の本決定について、異議申立人は、原告名、原告側の弁護士名と弁護士勤務地、原告の妻の氏名及び損害賠償請求内容の開示の是非を問わないとしている。
そこで、当審査会では異議申立人が開示を請求した内容のうち、上記以外の情報について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。 そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示とした情報のうち、本件異議申立ての対象となっている実施機関が行なった治療内容及び診療経過等の記述である。個人の識別性の有無で判断したとしても、確かに必ずしも特定の個人が即座に識別されるとまでは言えないものの、個人の病状等が記載されていることから、個人の人格と密接に関係し、極めてプライバシー性が高い情報であると認められる。仮に氏名等明らかに個人が特定できる情報のみを非開示としたとしても、記述内容から特定の個人が推測される可能性がないとは言い切れず、また、特定の個人が識別され得る情報を容易に抽出、分離することは困難であると判断される。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとは言えず、ただし書きイに該当して開示すべき情報とは認められない。また、ただし書きロに該当し、公益上公にすることが必要であると認められる情報には該当しない。
よって、本号(個人情報)に該当するとして実施機関が非開示とした部分は、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 4.11 | ・諮問書の受理 |
15. 4.11 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 5. 8 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 5.12 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 5.30 | ・異議申立人からの意見書の受理 |
15. 8.19 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第181回審査会)
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15. 9.30 | ・審議
(第183回審査会)
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15.10.28 | ・審議 ・答申 (第185回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。