三重県情報公開審査会 答申第150号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年2月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定土地改良区の「土地改良法」違反の運営に関し、指導改善の経過について分る文書の全て」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成15年3月7日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、本件異議申立ては、本請求に基づき特定された特定土地改良区の「総会議事録」及び「換地計画書」(以下「本件対象公文書」という。)について実施機関が一部非開示としたことに対するものであり、実施機関は他の公文書については開示している。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
対象公文書である当該土地改良区総会議事録に記載している出席名簿、委任状及び議長等の個人名は、登記所等の公の機関で他者が確認することのできない特定の個人が識別される情報であり、また、換地計画書における等位、価格、精算金額等の記載内容については、平成6年(行コ)六号公文書非公開決定等取消請求控訴事件の判決趣旨より個人情報に該当すること、また、これらの情報は公益上開示することが必要と認められないことから、非開示とした。
4 異議申立て理由
土地改良法に基づく土地改良事業の原資は、その多くが国費等の公費で施行されているのだから、当該文書は原則全面公開とすべきである。請求者の意図は対象法人の違法な運営の実態を解明し、法に照らして是正させることにあるのだから、当該決定は構造改善事業の構造的な不正、蓄財を県民の目から覆い隠すための不当な決定である。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。
そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
まず、本件対象公文書中の換地計画書における、評価額、等位、価格、換地交付基準額、精算金額についてであるが、実施機関は類似の判決から本号(個人情報)に該当し、非開示が妥当であると主張している。
確かに換地計画書における評価額等の記載内容は、個人所有の土地に関するものであり、既に所有者の住所・氏名が明らかとなっていることから、同所有者の財産状況を示す情報として、「個人に関する情報」に該当すると判断した実施機関の主張も理解できないわけではない。
しかし、換地計画書に示された評価額等は、土地改良事業において、適正な換地処分を行うためになされたものであり、実際の取引価額(取得原価)や当時の実勢価格を示したものではない。仮に当時の実勢価格を知る手掛かりとなるものであったとしても、このような実勢価格の参考となる価格であれば、相続税評価額、公示価格等でも広く知ることができ、これを開示すれば個人のプライバシーが侵害されるという情報とは思われない。従って、換地計画書の記載内容は、仮に個人に関する情報と解する余地があったとしても、極めてプライバシー性は低いものといわざるを得ない。
一方、換地計画書に記載されたこれらの情報は、土地改良事業が適正に行われたか否かを確認するために必要不可欠な情報であり、開示の必要性は高い。
よって、本件のような、土地改良事業において、同事業を適正に行うために、一定の基準に従って評価された金額等を記載した換地計画書を、同土地所有者の個人に関する情報と解し、非開示とすることは相当ではない。以上のことから、条例第7条第2号(個人情報)には該当しないというべきである。
次に、本件対象公文書中の総会議事録に記載されている出席者氏名や委任状の氏名、不換地処分申出書及び特別換地同意書に押印された個人の印影についてであるが、これらの情報は明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当する。また、他ですでに明らかになっている情報とまでは言えず、これらの情報を開示すべき公益上の理由もないことから、非開示が妥当である。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 3.18 | ・諮問書の受理 |
15. 3.19 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 4. 3 | ・非開示理由説明書の受理 |
15. 4. 4 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 7.11 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第178回審査会)
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15. 8. 8 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第180回審査会)
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15. 9.11 | ・審議 ・答申 (第182回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。