三重県情報公開審査会 答申第148号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成15年1月30日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「中空アクセス建設に係る漁業補償及び同事業の内容について分かる全ての文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成15年2月13日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「平成14年度県単港湾改修第45240-01分2002号津松阪港(贄崎地区)埋蔵文化財試掘調査業務委託」、「贄崎地区港湾整備事業に関する関係漁組代表者への説明について(H14.12.26報告事項)」、「贄崎地区港湾整備事業に関する関係漁組への補償金額提示について(H15.1.10報告事項及びH15.1.21報告事項)」(以下「本件対象公文書」という。)である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)及び第7条第3号(法人情報)、第7条第6号(事務事業情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
当該事業に関する技術者としての必要な情報は、技術者本人が当該事業を担当するにあたって必要な資格を有しているかどうかの情報及び現在在籍している会社での実務実績と判断でき、技術者本人の学歴、現在在籍していない会社での職歴については、直接当該事業には関係がない個人に関する情報であり、住所等が記載されており、特定の個人を識別することができるとともに、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがある。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
漁業補償額の算定に関する内容については、漁業協同組合(以下「漁協」という。)からの任意提供情報を含んでおり、補償契約締結後においても、当該情報を開示すれば各漁協内部での組合員の間で混乱を招き、各組合員の財産上の利益を不当に害するおそれがある。
(3) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
補償交渉中で補償契約が締結されていない段階での情報であり、当該情報を開示することにより、組合員同士での混乱を招くおそれがあり、補償交渉、契約に係る事務の遂行に著しい支障を及ぼすおそれがある。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
公共事業に係る漁業補償は、その内容が常に不明瞭で、疑惑の温床とされてきた。
しかしながら、部分開示された内容は、交渉に係る説明概要及び説明資料の一部分のみであり、全部非開示と同じである。一旦報道等で補償額の提示がなされた事が周知されており、提示額などの積算根拠は、開示すべきである。
また、調査を受託した建設コンサルタント会社の技術者情報は、その代価が極めて高額となる委託料の支出対象である成果品の品質に直結し、責任技術者の責任は重大であることから、学歴、職歴、業務経歴については、公金の支出対象を明確にする義務からいって当然全面開示されるべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。 当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示とした部分は、当該調査委託事業に係る技術者の住所、本籍、生年月日、最終学歴、取得している免許等の名称(取得年月日を含む。)、実務経歴及び実務経験年月日、並びに報告事項における当該漁協の出席者名である。
まず、技術者に係る箇所について検討する。実施機関は技術者の氏名を既に開示しているが、住所、本籍、生年月日及び最終学歴は、当該技術者本人のプライバシーに関する情報であると判断される。他の法令等の規定により、または慣行として公にされている情報ではなく、また公益上開示すべきであると認められる情報であるとまでは言えないため、非開示が妥当である。
一方、技術者に係る情報のうち上記を除く部分については、実施機関が当該事業を委託するにあたり十分な資格、経験を有するか否かを判断するために提出されたものであると認められ、プライバシー性が高い情報であるとは言えない。実務経歴及び実務経験年月日については、当該技術者の履歴が詳細に記録されているわけではなく、開示することにより当該個人の権利利益を侵害するとも言えないため、開示すべきである。
次に、報告事項における漁協側出席者氏名についてであるが、当審査会でインカメラ審理を行ったところ、出席者には組合長などの役員と一般の組合員が記載されていると認められる。ここで、出席者が組合の役員であれば、これらの氏名については登記簿で閲覧できる情報であるので非開示とする理由はない。したがって、出席者のうち、漁協の役員名については開示すべきである。
なお、一般の組合員の氏名については、他の手段では知り得ず、また、公益上開示すべきであると認められる情報であるとはいえないため、非開示妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書には、法人からの任意提供情報を含んでおり、これを開示することにより、当該漁協の各組合員の財産上の利益を不当に侵害するため、補償契約締結後でも非開示が妥当であると主張している。そこで当審査会で確認したところ、当該漁協の税に関する数値であり、他の方法では知り得ない当該漁協の内部情報であるといえる。
また、本号但書きにも該当しないことから、非開示が妥当である。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関が本号に該当するとして非開示とした部分は、報告事項中の主な質疑応答要旨と漁協組合員に対して行われた説明資料の2点であると認められる。
ここで、異議申立人は現時点では本補償契約がすでに締結されていることから、これらの交渉に係る記録を開示すべきであると主張しているが、開示請求時点では未だ契約が締結されておらず、当審査会としては本決定の時点における実施機関の判断の是非を検討するものとする。
まず、質疑応答要旨であるが、個別具体的な発言が記載されており、補償交渉中に当該情報を開示すると、県の補償交渉・契約に係る事務に支障を及ぼすおそれがあり、今後の交渉に影響を与えるとする実施機関の主張には理由があり、本号に該当し非開示が妥当である。
次に、漁協に示された説明資料であるが、基本となる補償基準は変わらないが、漁業実態にあてはめてることにより、個々に変化しうるものであり、これを明らかにすると、組合内部で無用の混乱が生じてしまい、交渉段階では支障が出るとして、非開示が妥当である、と実施機関は主張する。
確かに、説明資料の中には漁業補償の算定基準となる箇所があり、今後の補償関係が継続していく中で、第三者に開示されると過去の実績等の情報が公開されることにより、漁協との交渉の中で不満が出る可能性は否定できなくもない。
しかしながら、公金の支出を伴う補償交渉において、県がいかなる根拠にもとづいて交渉を行ったかを明らかにする説明責任を果たす必要があると認められ、当該資料は交渉中であっても非開示とすべき理由があるとは認められず、開示すべきである。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 3. 6 | ・諮問書の受理 |
15. 3.11 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 7.10 | ・非開示理由説明書の受理 ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 7.22 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第179回審査会)
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15. 8.19 | ・審議 ・答申 (第181回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。