三重県情報公開審査会 答申第147号
答申
1 審査会の結論
三重県道路公社は、本件異議申出の対象となった文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申出の趣旨
異議申出の趣旨は、異議申出人が平成14年12月17日付けで三重県道路公社情報公開実施要領(以下「要領」という。)に基づき行った「今回明らかとなった料金横領事件の詳細及び調査結果について、並びに顧問弁護士との契約と今回の事件について弁護士の関与がわかる全ての文書」の文書開示請求に対し、三重県道路公社理事長(以下「公社」という。)が平成15年1月20日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象文書について
本件異議申出の対象となっている文書は、「道路公社独自調査について」「三重県との協議伺い」「出口券改善検討資料」「特定法人よりの調査結果報告書」「三重県への報告書」「三重県の立ち入り検査結果報告書」「事件の全容及び告発の問題の方針」「中部整備局長への報告伺い」「顧問弁護士との契約書」「弁護士協議メモ報告」「弁護士との協議結果報告」である。
4 公社の非開示理由説明要旨
公社の主張を総合すると、次の理由により、本件対象文書中の非開示部分は要領第7条第2号(個人情報)、第7条第4号(公共安全情報)、第7条第6号(事務事業情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 要領第7条第2号(個人情報)に該当
不正嫌疑者名も含む業務委託先の職員氏名等であり、開示することにより特定個人の私生活上の権利利益を侵害するおそれがあり、また公益上開示すべき理由もないことから非開示とした。
(2) 要領第7条第4号(公共安全情報)及び第6号(事務事業情報)に該当
被害額の算定や弁護士との協議記録を開示すると、刑事告発等を行った場合、不正行為者及びその関係人が知りうる場合もあり、事件に関する公社側の対応方針が明らかとなることから、公訴の維持に著しく支障をきたすおそれがある。
また、収受料金の管理方法等業務遂行体制が明らかになり、公社事業の適正な運営に支障をきたすおそれがある。
5 異議申出の理由
異議申出人は、次に掲げる理由から公社の決定は、要領の解釈・運用を誤っているというものである。
本件料金横領事件にかかる犯罪の事実については、すでに新聞報道でも明らかとなっている。公開することによって「公訴」に支障が出るというが、どういった具体的な影響があるかを明らかにしなくてはならない。事件の再発防止や同様事例の摘発について再点検を啓発するためにも、事実関係のすべてを広く県民に公開すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
要領第1条によると、本要領は、三重県情報公開条例(平成11年10月15日三重県条例第42号)第47条第1項の規定に基づき、公社の文書の開示に関し必要な事項を定めること等により、公社の保有する情報の一層の公開を図り、もって公社の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、公正な公社運営の推進に資することを目的としているものである。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、要領を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 要領第7条第2号(個人情報)の該当性について
公社が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、「特定法人よりの調査結果報告書」、「三重県への報告書」及び「三重県の立ち入り検査結果報告書」に記載されている不正行為者の氏名等が特定される内容、その他の従業員の勤務表、委託先等の個人が識別されうる部分である。
確かに、異議申出人の主張するように当該事件については、すでに新聞報道等で明らかとなっているが、不正嫌疑者も含めた委託先業者の職員の氏名、住所までは公表されておらず、すでに公になっているとまでは言えない。これらの情報は、特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当することは明らかであり、開示することにより特定個人の私生活上の権利利益が侵害されるおそれがあるという公社の主張には理由がある。また、公益上開示すべきであると認められる情報であるとまでは言えず、非開示が妥当である。
なお、公社は、非開示理由説明において、「顧問弁護士との契約書」のうち公社と顧問契約を締結している弁護士の「顧問料振込先」及び「印影」が、本号に該当し、非開示が妥当であると説明している。当該部分については、本決定の際には要領第7条第3号(法人情報)に該当するとして決定されたものであるが、いずれにしても「顧問料振込先」については、個人のものであるか否かが判然とせず、当該弁護士の個人情報であるという側面も否定することができないため、非開示が妥当である。ただし、「印影」については、弁護士個人としてのプライバシーを侵害するおそれも、事業を営む個人としてその事業活動に支障を及ぼすおそれも想定し難く、非開示とすべき理由はなく、開示すべきである。
(3) 要領第7条第4号(公共安全情報)の該当性について
公社は、「道路公社独自調査について」「三重県との協議伺い」「特定法人よりの調査結果報告書」「三重県への報告書」「三重県の立ち入り検査結果報告書」「事件の全容及び告発の問題の方針」「中部整備局長への報告伺い」「弁護士協議メモ報告」「弁護士との協議結果報告」のうち、開示することにより公訴の維持に支障をきたすため、要領第7条第4号に該当し、非開示とすべき部分があると主張している。
本号は、犯罪の予防や捜査、刑の執行、公訴の維持など、刑事法の執行や公共の安全と秩序を維持するために必要な活動については、相当な理由がある場合、非開示とすることを定めたものであり、その適用については限定的に解釈しなくてはならない。
今回の事案においては、公社が本決定を行った時点では刑事告訴を行っておらず、一般論としては、このような時点に行われた決定が本号に該当するケースがあることも否定できない。しかしながら、本件事案の場合、捜査機関ではない公社が調査等をして得た情報に過ぎず、仮に調査の目的が刑事告発の是非について検討することも視野に入れられていたとしても、これらの情報を開示することが公社にとって公訴の維持に支障を生じるという説明は、説得力がないと言わざるを得ない。よって、公社が非開示とした部分について本号を適用することは適当ではないと判断すべきである。
(4) 要領第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
公社は、「道路公社独自調査について」「三重県との協議伺い」「出口券改善検討資料」「特定法人よりの調査結果報告書」「三重県への報告書」「三重県の立ち入り検査結果報告書」「事件の全容及び告発の問題の方針」「中部整備局長への報告伺い」「弁護士協議メモ報告」「弁護士との協議結果報告」のうち、開示することにより、収受料金の管理方法等業務遂行体制や当該事件への処理方針が明らかとなって公社の適正な事業運営に支障を来たし、また、当該事件に関する公社の方針が明らかとなり、事件の処理に支障をきたし財産上の不利益を被るおそれがあるため、本号に該当して非開示とすべき部分があると主張している。
公社が非開示としたこれらの情報のうち、収受金の保管や収納方法等現金の保管・移送といった詳細な流れが具体的に記載されている部分については、犯罪に利用されかねないため適正な事業運営に支障があるとする公社の主張には理由があり、本号に該当すると認められ、非開示が妥当である。
一方、その他の部分については、訴訟に当たり当事者としての地位を不当に害するかどうかで判断すべきであり、刑事事件として公社が当事者として争っているわけでないことから、公社の事務事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすとまでは言えないため、本号には該当せず、開示すべきである。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
15. 1.31 | ・諮問書の受理 |
15. 1.31 | ・公社に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 5.20 | ・非開示理由説明書の受理 ・異議申出人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 6.24 | ・書面審理 ・公社の非開示理由説明の聴取 ・異議申出人の口頭意見陳述 ・審議 (第177回審査会)
|
15. 7.22 | ・審議 ・答申 (第179回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。