三重県情報公開審査会 答申第146号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年12月13日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成12年度、13年度、特定農協に対する検査書(農協法第94条によるもの)と検査書に基づく指示、命令、行政命令の文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成14年12月27日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件異議申立ての対象となっている公文書は、「農業協同組合検査復命及び検査書交付について(伺い)」(平成12年度、平成13年度)のうち検査書(以下「本件対象公文書」という。)に関する部分である。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書中の非開示部分は条例第7条第2号(個人情報)及び第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
検査結果と関係書類には、個人の氏名及び住所等が記載されており、特定の個人を識別することができるとともに、当該個人が債務者となっている状況が記載されており、個人のプライバシーを侵害するおそれがある。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
検査結果と関係書類は、組合の信用失墜に属する事項を含め、事業運営体制、経営、財務及び業務の全般にわたる当該法人の内部の運営上に関する情報であって、開示することにより、当該法人の事業活動や名誉、社会的評価が損なわれる等、当該法人の競争上の地位その他正当な利害を害するおそれがある。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
自分は当該農協の組合員であるので、経営状況等がどのようになっているのか関心があるのは当然である。しかしながら部分開示された内容は、抽象的な文言の部分のみであり、これでは全部非開示と同じである。具体的な数値等はともかく、少なくとも検査書における指摘事項の内容は開示すべきである。
6 審査会の判断
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、大きく分類すると「特定の個人が識別される情報」、「特定の個人の財産状況」である。
本件対象公文書に記載されたこれらの情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得る個人に関する情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報であるとは言えず、ただし書きイに該当して開示すべき情報とは認められない。また、ただし書きロに該当し、公益上公にすることが必要であると認められる情報には該当しない。
よって、本号(個人情報)に該当するとして実施機関が非開示とした部分は、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書には、当該農業協同組合(以下「農協」という。)人の事業運営体制、経営、財務及び業務の全般にわたる当該農協の内部の運営上に関する情報が記載されており、これらは開示することにより当該農協の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。
そこで、実施機関が本決定で非開示とした情報が、本号に該当するか検討する。
本件対象公文書は、農業協同組合法に基づき実施機関が実施した常例検査の結果、当該農協に交付された検査結果の指摘事項であり、全体の総括である「総評」、合法性・合目的性・合理性の観点から理事会の協議を経て回答を徴している「主要指摘事項」、事務的なミス等で常勤役員及び担当部署等での改善が可能な事項を簡潔に記載した「現地指摘事項」、並びに検査にあたり当該農協から提出、または実施機関が作成した「検査結果取りまとめ資料」より成っている。
そのうち、「現地指摘事項」及び「検査結果取りまとめ資料」については、一般に公表されていない当該農協の資産の状況や当該農協の経営情報が具体的かつ詳細に記載されたものであり、公にすることにより、当該農協の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、本号本文に該当する。また、ただし書きに該当して公益上開示すべき情報とまでは認められないため、非開示が妥当である。
次に「主要指摘事項」であるが、当審査会がインカメラ審理により見分したところ、必ずしもすべてに当該検査結果による個別具体的な数値・金額等が記載されているわけではなく、一般的な指摘であると見受けられる箇所もあり、直ちに当該農協の信用失墜を引き起こすほどであるとまでは言えない。
しかしながら、実施機関が説明するとおり、指摘事項は当該農協の内部の運営に関する情報について詳細に記載されているものであり、利用者が金融機関を選ぶという最近の金融情勢では、これらの部分について開示することによって顧客の獲得などで不利益を被り、金融機関としての役割を果たしている農協が、他との競争においてその地位が損なわれるおそれがあることは否定できない。また、ただし書きに該当して公益上開示すべき情報とは認められないため、非開示が妥当である。
同様に「総評」についても、当該農協の検査結果による個別具体的な数値・金額等が記載されている部分は、これを開示することによって当該農協の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断される。なお、「総評」の部分のうち、最近の農協を取り巻く環境や社会情勢など一般的な記述については、検査に直接もとづくものではなく、非開示とする理由はない。したがって本件検査によって実施機関が得た当該農協に対する事項が個別具体的に記述されている部分を除き、開示すべきである。
なお、異議申立人は、自身が当該農協の組合員であることを本件異議申立ての理由として強調するが、情報公開制度は開示請求者が誰であるかなどの個別的事情によって開示決定等の結論に影響を及ぼすものではなく、当審査会としても異議申立人のかかる主張については斟酌していない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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15. 1.24 | ・諮問書の受理 |
15. 1.27 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
15. 2.14 | ・非開示理由説明書の受理 ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 2.20 | ・異議申立人からの口頭意見陳述申出書の受理 |
15. 5.27 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第175回審査会)
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15. 6.24 | ・実施機関の追加補足説明の聴取 ・審議 (第177回審査会)
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15. 7.22 | ・審議 ・答申 (第179回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 元三重短期大学長 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 冬木 春子 | 三重短期大学生活科学科助教授 |
なお、本件事案にについては、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。