三重県情報公開審査会 答申第140号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書のうち「法人の出席者名」を除き開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年5月29日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の踏切の取り扱いに関する県と特定鉄道法人との協議内容及び県内部検討の記録、手元資料その他一切の文書外」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成14年7月10日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、本件異議申立ては、本請求に基づき特定された「特定鉄道法人と伊勢建設部との協議記録」(以下「本件対象公文書」という。)について実施機関が非開示としたことに対するものであり、実施機関は他の公文書については開示している。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第3号(法人情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
なお、実施機関は当初本決定における非開示理由として条例第7条第5号(審議検討情報)にも該当すると付記していたが、その後非開示理由説明の過程で撤回している。
(1)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書は、道路法31条の規定による鉄道法人と協議した三重県が作成した打合せメモであって、三重県の主観に基づき作成された法人の真意と異なる部分も含まれると考えられ、開示することにより鉄道法人の社会的評価を損なうおそれがあり競争上その他正当な利益を害すると認められる。
なお、異議申立人が主張しているような本件対象公文書以外の県内部検討記録、手元資料は作成しておらず不存在である。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当該踏切の取扱いについては、実施機関である伊勢建設部から地元説明会で、鉄道法人との協議の結果、地元嘆願書を踏まえ自動車については通行不可とするが歩行者自動車は通行可にできるようにするとの協議結果の報告をうけており、その説明会で地元住民からも了解を得て結論が出ている。にもかかわらず、実施機関が本件対象公文書を、行政として意思決定されていないことや鉄道法人の事業活動が損なわれるおそれがあるとして非開示にしたことは理由にはならない。
また、開示請求した内容について、本件対象公文書以外の県内部検討の記録、手元資料の一切の文書についても開示を改めて請求する。
5 参加人の意見陳述要旨
当該鉄道法人は、行政不服審査法第48条において準用する同法第24条の規定により不服申立手続への参加を実施機関の許可を得たのち、申し出により審査会での口頭意見陳述を行ったが、その内容は次のとおりである。
本件対象公文書は、三重県と協定を締結する前の担当者レベルでの単なるメモであり、協定の締結後であるならともかく、締結前の現段階では鉄道法人としては会社代表の決裁を受けたものでもなく、対象公文書とされること自体問題である。
また、内容的にも三重県が一方的な認識に基づいて作成し事実と異なる部分もあり開示されることにより社会的評価を損ねるおそれや、今後同種の事業における協議において、お互いに率直な意見交換ができなくなるおそれもある。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、 実施機関は条例第7条第3号(法人情報)に該当するので非開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 本件対象公文書について
参加人である当該法人は、本件対象公文書は、三重県と協定を締結する前の担当者レベルでの単なるメモであり、協定の締結後であるならともかく、締結前の現段階では鉄道法人としては会社代表の決裁を受けたものでもなく、対象公文書とされること自体問題である旨主張している。
しかしながら、本件対象公文書は、実施機関が既に条例上の公文書に該当するとしたうえで本決定を行っており、そもそも対象公文書とすべきでないとの参加人の意見を認めることはできない。
確かに、本件対象公文書の中には、「打合せメモ」と題した文書も含まれており、開示対象になる文書とすべきでないとの疑義が生じ得ることは理解できなくはない。しかし、本県条例は、県民の「知る権利」、県の「説明責任」を目的として明記し、決裁・供覧の手続きを経たものに限らず、組織的に共用している文書にまで対象にしていることの意義にかんがみると、開示・非開示の判断は別途検討するとしても、本件対象公文書をそもそも対象とすべきでない旨の参加人の意見は失当と言わざるを得ない。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が非開示とした本件対象公文書の内容は「件名、打合せ日、場所」「三重県職員の出席者名」「決裁印影」「法人の出席者名」「打合せ内容」である。実施機関は当該法人の社会的評価を損なうおそれがあり競争上の地位その他正当な利益を害すると認められると主張しているので個々について以下のとおり検討する。
ア)「件名、打合せ日、場所」については、実施機関が主張するような県側の一方的な認識で記載された情報ではなく客観的な情報であり、鉄道法人の社会的評価が損なわれるものではなく、これを開示することによって,当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認めらず開示すべきである。
イ)「三重県職員の出席者名」「決裁印影」については、公務員に関する情報であ り法人情報には該当せず開示すべきである。
ウ)「法人の出席者名」については、法人の代表として打合せを行なった一社員にすぎず、当該法人の代表者や役員のように商業登記簿等により慣行として公にされている情報でもなく、法人としての人事管理情報であると言える。したがって、当該法人の正当な利益を害すると認められ、本号本文に該当するとともに、ただし書きのいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
エ)「打合せ内容」については、当審査会がインカメラ審理により内容を見分したところ、実施機関が主張するような当該法人の社会的評価が損なわれるような内容が記載されているとは考えられない。また、実施機関及び参加人の双方からも具体的な支障についての主張がなされなかったことからも、これを開示することによって、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認めらず開示すべきである。
なお、異議申立人が開示を主張している本件対象公文書以外の文書については、実施機関の不存在の説明にも不自然な点はなく、この点に関する異議申立人の主張を認めることはできない。
(5) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14.8.21 | ・諮問書の受理 ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14.9.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
14.9.26 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15.1.21 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・参加人の口頭意見陳述 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第166回審査会)
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15.2.21 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第169回審査会)
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15.3.18 | ・審議 ・答申 (第171回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。