三重県情報公開審査会 答申第138号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年9月20日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「最近の談合情報とそれに関わる指名停止措置に至るまでの手続について分かる全ての書類」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成14年10月2日付け及び平成14年10月3日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
談合情報報告書、事情聴取書、委任状、誓約書等の個人の氏名、住所、役職名等については、開示することにより私生活上の平穏を乱されるおそれがあるため、個人情報に該当すると認められ、かつ、ただし書きのいずれにも該当しないことから非開示とした。談合情報報告書に記載の情報提供者所属の法人名及び落札予定業者名、また、事情聴取書及び委任状に記載の入札参加(予定)業者名については、開示することにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため法人情報に該当し、かつ、ただし書きのいずれにも該当しないことから非開示とした。
4 異議申立ての理由
談合情報は公共工事の根幹に触れる問題であり、談合情報の確認のための手続が部分開示されていることは、透明性の確保の観点からも全く不当である。談合情報を寄せられた案件に対して県が公明正大に行うのであれば隠す必要は何も無いはずであるから、単に個人や法人の名前が出ているだけで非開示とせず、業者間の自由な競争を促進し、県民の利益に繋がるようにしていくためにも開示すべきである。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は、談合情報報告書、事情聴取書、委任状、誓約書等に記載の個人の氏名、住所、役職名、その他特定の個人が識別される情報については、当該会社の従業員として入札業務に関わったため、会社に代わり事情聴取に応じたにすぎないにもかかわらず、世間から会社の担当者として談合に関わったとの疑惑を抱かれ、これにより私生活上の平穏が乱されるおそれがあるとして、非開示が妥当と主張している。
実施機関が非開示としたこれらの情報は、特定の個人が識別される情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
一方、異議申立人は、入札に参加する業者の担当者は県に対して名前を出さなくてはならないのだから、すでに公になっているものであり、個人情報として非開示とすべきではなく、談合という犯罪を撲滅するためにも、情報公開を一層推進するためにも、全面公開をすべきであると主張しているので、本号ただし書きの該当性について以下のとおり判断する。
確かに、談合は犯罪行為であり、適正な公共工事を監視するために当該公文書の開示を求めることは、本条例の趣旨目的に沿うところであり、異議申立人の主張する全面開示も透明性確保の一手段ではある。
しかしながら、各会社の担当者は、当該会社の従業員として実際に入札業務に関わり、最も情報を知り得る立場にあるため、会社に代わって事情聴取に応じているにすぎない。また、談合に関わったのではないかと世間から疑惑を抱かれること自体不名誉なことであり、私生活上の平穏が乱されるとする実施機関の主張には理由があると認められ、現実に事情聴取を受けた担当者を識別できる情報まで公開する公益上の必要があるとまでは言えず、ただし書きにも該当しないと判断すべきである。
よって、非開示が妥当である。
なお、事情聴取を受けた担当者の氏名等については、法人の役員であるものが含まれていると認められるが、法人の役員名は、法令等の規定により又は慣行により公にされている情報であるため、非開示とすべき個人情報には該当せず、条例第7条第3号(法人情報)に該当するか否かを検討すべきであり後述する。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに順ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、情報提供者所属法人名、落札予定業者名入札参加(予定)業者名、法人の役員名については、営業等の情報であって、公にすることにより社会的評価・名誉・社会活動の自由が損なわれ、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり、かつ、本号ただし書きにも該当しないことから、非開示が妥当と主張している。
一方異議申立人は、入札に参加することは、公金の支出を伴う公共事業への契約の申し込みであり、法人を保護するために非開示としている理由は一切ないはずである。談合を撲滅し、業者間の自由な競争を促進させ、県民の利益に繋がるようにするためにも開示すべきであると主張している。
確かに、談合は犯罪行為であり、適正な公共工事を監視するために当該公文書の開示を求めることは、本条例の趣旨目的に沿うところであり、異議申立人の主張する全面開示も透明性確保の一手段ではある。
しかしながら、実施機関に寄せられた談合情報に基づく調査は、入札参加予定業者の任意の協力に基づき実施しているものであり、実施機関が非開示とした法人に関する情報を開示すると、当該法人があたかも談合に関与しているとの不名誉な疑惑を抱かれるおそれは十分に考えられるところである。したがって当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるとする実施機関の主張には理由があり、本号(法人情報)に該当すると言える。
また、談合の疑惑があるというのみで、これらの情報まで公開すべきとする公益上の必要があるとまでは言えず、本号ただし書きにも該当しない。
よって、非開示が妥当である。
(6)結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14.10.17 | ・諮問書の受理 |
14.10.18 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14.11.15 | ・非開示理由説明書の受理 |
14.11.19 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼 |
15. 2.18 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第168回審査会)
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15. 3.11 | ・審議 ・答申 (第170回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。