三重県情報公開審査会 答申第137号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を部分開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年9月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「宗教法人法に係る特定神社の全ての文書」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成14年10月9日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
非開示とした情報を開示すると宗教法人法に基づき提出されるべき書類の存否を明らかにすることとなり、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため、非開示が妥当と判断した。
(2) 条例第7条第6号(事務事業情報)に該当
当該公文書を公開すると、不活動法人の解散を推進し、法人格の悪用防止といった不活動法人対策事務に著しい支障が及ぼす恐れがあり、条例7条第6号(事務事業情報)にも該当するので、非開示理由の追加をする。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当該神社については、ある公共工事の施行に関連して、憲法で定める政教分離の原則に違反している疑いがあり、また、公金の適正支出を確認する上でも、それを明らかにするという公益上の理由から、当該神社に係る公文書の開示請求を行ったところ、実施機関は、信教の自由や宗教法人法をたてに開示を拒否した。県は真相究明を拒んでいるが、公金の支出が適正に行われているのか、政教分離が確保されているのかを判断する基準となる資料であるから、「公益優先」の見地から全面開示とすべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例第7条第3号(法人情報)及び同条第6号(事務事業情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。
なお、実施機関は本決定で条例第7条第3号(法人情報)に該当するとして部分開示決定としたが、審査会での説明等で条例第7条第6号(事務事業情報)にも該当するとして非開示理由を追加したいとしている。非開示理由の付記が行政手続きの一環として条例上規定されているにもかかわらず、異議申立ての段階で非開示理由の追加を無制限に認めると、非開示理由の付記を求めた条例の趣旨が没却され、信義に反する結果となる。したがって、異議申立人の攻撃防御の機会を実質的に奪うような理由の追加は許されないと解すべきである。
しかし、本件事案の場合、追加した理由についても十分異議申立人に意見陳述の機会が付与されているので、本件事案について再度異議申立てと再決定が繰り返されることなく、紛争の一回的解決が可能となり、迅速な最終決定に資すると考えられるので、これを認めるものとする。
そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(法人情報)に該当するとして非開示としたのは、宗教法人法第25条4項の規定に基づき提出されるべき書類から転記することとなる「提出年月日」、「資産」、「負債」、「正味資産」、「信者数」のそれぞれの欄である。
実施機関が非開示としたこれらの情報は、一般に入手し得る情報とは言えず、当該法人の内部情報であると認められる。したがって、これらの情報を開示することにより当該宗教法人の信教の自由が損なわれるおそれは否定できず、当該法人の正当な利益を害すると認められ、本号(法人情報)に該当する。
また、異議申立人は、宗教法人法により提出を義務付けられている以上、公益性があり、関係文書は全面開示すべきと主張しているが、本号ただし書きに該当するほどの公益性は認められないと判断すべきである。
なお、実施機関の本決定の主旨は、非開示とした部分を明らかにすることで、本来存否を明らかにすべきでない情報を開示することとなるというものである。実施機関の説明を総合すると、本号(法人情報)よりも、むしろ第7条第6号(事務事業情報)の該当性を強調していると思われるため、同号の該当性についてもあわせて下記のとおり検討する。
(4) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(5) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
当該情報を明らかにすることによって、当該宗教法人が不活動法人かそうでない法人かという情報が開示されることとなり、このような事実を明らかにすると、当該法人の代表役員の名義変更や法人格が売買されることにより、宗教行為に名をかりた犯罪行為を引き起こすために利用される危険性があるため、不活動法人の解散を推進し、法人格の悪用防止といった、不活動法人対策事務の適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがある、と実施機関は主張している。
確かに、不活動法人であることが公にされると、未然に所轄庁として解散の手続をすすめる等の事務に支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。不活動法人であるという事実が判明すると、法人格の売買等により悪用されるおそれから、事務執行上支障があるとする実施機関の主張には理由があり、事例は少ないとはいえ、実際に法人格の売買が行われている例がある以上、実施機関の主張には理由があると認められるため、本号(事務事業情報)に該当すると判断すべきである。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14.10.16 | ・諮問書の受理 |
14.10.17 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14.11.11 | ・非開示理由説明書の受理 |
14.11.12 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 1.28 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議
(第167回審査会)
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15. 2.18 | ・実施機関の追加非開示理由説明の聴取 ・審議 (第168回審査会)
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15. 3.11 | ・審議 ・答申 (第170回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。