三重県情報公開審査会 答申第136号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年9月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定神社(宗教法人)に関する全ての文書」の開示請求 (以下「本請求」という。)に対して平成14年9月18日付けで行った部分開示決定(公文書の存否を明らかにしない決定を含む。以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)に該当
本件対象公文書に記載の個人の氏名、住所及び印影については、登記し公にされている代表役員以外は個人に関する情報である。そのため、特定の個人が識別され、当該個人の信教が公にされることなり、信教の自由が侵害されることとなるため非開示が妥当と判断した。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)に該当
法人を代表する者の印影については、商業登記法第12条により印鑑証明の交付を請求できるものが限定されている。宗教法人についても、宗教法人法第65条に商業登記法の準用が規定され、同様に何人でも知り得る情報ではないため、非開示が妥当と判断した。
なお、法人の境内地や境内建物等の面積、用途等の情報は財産に関する情報として、非開示とし、また、法人の氏子数や崇敬者数についても、非公知の情報であることから、非開示とした。これらの情報が明らかになると、当該法人及びその関係者の信教の自由が害されるおそれがあり、条例第7条第3号(法人情報)に該当すると認められるので、非開示理由の追加をする。
(3) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人が所轄庁に提出するとしている書類提出制度は、宗教法人がその目的に沿って活動していることを把握することを目的としているため、不活動状態にある宗教法人については書類が提出されていない。そのため文書不存在である旨回答すると、どの法人が現在不活動状態にあるかとの情報を開示する結果となる。このことは、不活動法人の法人格を買収して悪用する契機を与えることになりかねず、不活動法人の解散を推進し、法人格の悪用防止といった不活動法人対策に支障をきたす恐れがあるため、文書の存否を回答しないとすることが妥当と判断した。
4 異議申立て理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当該神社については、ある公共工事の施行に関連して、憲法で定める政教分離の原則に違反している疑いがあり、また、公金の適正支出を確認する上でも、それを明らかにするという公益上の理由から、当該神社に係る公文書の開示請求を行ったところ、実施機関は、信教の自由や宗教法人法をたてに開示を拒否した。県は真相究明を拒んでいるが、公金の支出が適正に行われているのか、政教分離が確保されているのかを判断する基準となる資料であるから、「公益優先」の見地から全面開示とすべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例7条第2号(個人情報)、第7条第3号(法人情報)及び条例第11条(公文書の存否に関する情報)に該当するとの理由により本決定が妥当であると主張している。
そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は、当該公文書中の個人の印影及び個人の住所、氏名については、特定個人が識別され、当該個人の信教が公にされることにより、信教の自由が侵害されるおそれがあるとして、個人情報に該当し非開示としている。
当該情報は、明らかに特定の個人が識別される情報であり、本号に該当すると認められる。
これらの情報は、法令等の規定により又は慣行として公にされているとは認められず、また、特定個人の信教はプライバシー性が極めて高い情報であり、これを公にすることにより、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあることは明らかである。異議申立人は公益優先を理由に開示を求めているが、このようなプライバシー性の高い情報を開示すべき公益性があるとまでは認められず、本号ただし書きにも該当しないため、非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、「法人代表者の印影」、「法人の境内地、境内建物等財産に関する情報」、「祭儀及び行事に関する情報」、「法人の氏子数、崇敬者数」について、公にすることにより自由な宗教活動が妨害され、当該法人及びその関係者の信教の自由が害されるため、法人情報に該当するとして非開示が妥当としている。
「法人代表者の印影」については、確かに何人にも知り得る情報とはいえないが、公にすることにより当該法人の正当な利益を害するとまではいえず、非開示とすべき理由はないため、開示すべきである。次に「法人の境内地、境内建物等財産に関する情報」について検討する。確かに、当該法人の施設の面積・用途等は、当該法人の財産に関する情報であるが、土地・建物については外観は誰でも見られるものであり、実施機関が主張するように当該法人の正当な利益が害されると認められるほどの情報であるとはいえない。実施機関は、本件神社の配置図を既に開示していることから、非開示とすべき理由は認められず、開示すべきである。
また、「祭儀及び行事に関する情報」についても、例祭がいつ行われるか等は、境内に掲示してあることが極めて一般的であり、当該法人の正当な利益を害するとは認められず、開示すべきである。
なお、「法人の氏子数、崇敬者数」については、非公知の情報であって、公にすることにより当該法人の宗教活動が損なわれるとする実施機関の主張には理由があると認められるため、法人情報に該当する。また、異議申立人が主張するような開示すべき公益性も認められないため、本号ただし書きにも該当せず、非開示が妥当である。
(6) 条例第11条の意義について
開示請求に対する決定は、本来、請求文書を特定した上で、①不存在を理由とする非開示、②非開示情報該当性の判断に基づく開示・部分開示・非開示、③非開示情報について公益上の理由による裁量的開示、であることが原則である。しかし、例外的に開示請求に係る公文書の存否自体を明らかにすることによって、非開示情報の規定により保護しようとしている利益が損なわれる場合がある。本条は、この決定の枠組みの例外を定めたものである。
(7) 条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
宗教法人法第25条第4項の規定に基づき宗教法人から提出される当該書類が、その存否を答えるだけで、当該法人が不活動法人かそうでない法人かが開示されてしまうことになり、不活動法人対策事務を行う上で著しい支障を及ぼすと認められるため、その情報の存否自体が条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するとして、当該文書の存否を明らかにできない、と実施機関は主張している。
一方、異議申立人は、政教分離の原則、公金の適正支出の確保の意味から、開示する公益性があると主張している。
確かに、当該文書については、当該法人からの書類の存否を明らかにするだけで、不活動法人であるかどうかがわかり、不活動法人であることが公にされる前に、所轄庁として解散の手続をすすめる等の事務に支障を及ぼすおそれがあることは否定できない。不活動法人であるという事実が判明すると、法人格の売買等により悪用されるおそれから、事務執行上支障があるとする実施機関の主張には理由があり、事例は少ないとはいえ、実際に法人格の売買が行われている 例がある以上、実施機関の本条による存否応答拒否は妥当であると認められる。
なお、異議申立人は、公益上開示すべきである旨主張するが、条例上公益による開示は、当該法人の事業活動に起因して、現に発生しているか、又は将来発生することが確実である危害や影響から人の生命・健康、県民等の生活・環境などを保護する必要がある場合に認められるものと解するべきであり、本件事案の場合、公益上開示が必要であるとまでは認められない。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 9.20 | ・諮問書の受理 |
14. 9.24 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14.10.28 | ・非開示理由説明書の受理 |
14.10.29 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
15. 1.28 | ・書面審理・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述・ ・審議 (第167回審査会)
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15. 2.18 | ・実施機関の追加非開示理由説明の聴取 ・審議 (第168回審査会)
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15. 3.11 | ・審議 ・答申 (第170回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。