三重県情報公開審査会 答申第135号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書のうち「契約金額、処分代金収入額、契約年月日」を非開示とした実施機関の決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年4月30日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「四日市市伊坂土地区画整理組合の解散認可申請のうち特定の2筆分にかかる保留地処分状況表の各筆処分状況」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成14年5月30日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、本件事案は、土地区画整理組合が三重県知事に提出した解散認可申請書に添付された特定の2筆分の処分状況を記載した「保留地処分状況表」(以下「本件対象公文書」という。)にかかる請求であり、本件対象公文書には保留地ごとに、町名・地番 面積、契約金額、買受人氏名、処分代金収入額、所有権移転登記年月日、登記番号及び 契約年月日が記載されている。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
今回非開示とした「契約金額、処分代金収入額、契約年月日」は、財産状況に関する個人情報であり、「面積、買受人氏名」のように土地の地番から法務局の土地登記簿謄本で何人も閲覧でき慣行として公にされている情報(ただし書イ)でもなく、開示することにより私生活上の権利利益を害する恐れがある。
また、今回請求した特定地番の保留地処分状況は、たまたま組合役員が契約したが、保留地処分には公募で申込みした組合員以外の契約者もいることから、組合役員の立場ではなく他の契約者と同様に一個人として非開示の判断をした。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から、実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
○ 非開示とされた「契約金額、処分代金収入額」については、保留地の販売価格として既に土地区画整理組合員全員に通知されたものであり、不正でもない限り、公知の事実であり個人情報として秘密にする必要はなく私生活上の権利利益を害する恐れはない。
当該保留地は、異議申立人が自分と家族の所有地が含まれると土地区画整理組合に警告し、販売中止を求めたにもかかわらず、単に一組合員ではなく土地区画整理組合として重職の役員が取得したものであり、仮に販売価格の値下げが組合上層部で勝手に行なわれ組合員に通知されずにおこなわれたのであれば問題であり、個人情報として保護されてしまえば、情報公開の存在意義がなく、そういう制度自体に問題がある。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第7条第2号(個人情報)に該当するので部分開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示としたうえで、個人の権利利益を侵害せずに非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優先するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において非開示とした「契約金額、処分代金収入額、契約年月日」は、個人所有の土地に関するものであり、当該個人の財産状態をその限りで表示するものである。
一般に土地所有に関しては、土地登記簿が万人に公開され、その評価についても、路線価のように特定土地の価額を示さないにしても公示価額や基準地価のように特定の地点を示した価額さえも公表されていることから個人情報としてのプライバシー性は比較的希薄であると言えなくもない。通常本件事業のような場合は、土地の価額は商取引のような交渉等により左右されるものではなく、一定のルールに基づいて算出された土地の客観的評価に過ぎないため、保護すべき個人情報であるとまでは言えない。しかしながら、本件事案の場合、保留地の価額については、組合員を対象に販売の通知がされておりその後組合員以外にも販売対象を広げて売り出されたが売却に至らなかったことが認められ、最終的に当該土地区画整理組合と買主との交渉により決定されたものである。
したがって、実施機関が非開示とした「契約金額、処分代金収入額、契約年月日」については、保留地を客観的に評価したものではなく、契約当事者間の合意によって決定されたものであり、買主の個人としてのプライバシー性の高い情報であるといえる。
なお、異議申立人は、当該保留地が土地区画整理組合の役員により購入されたのであるから開示すべきであると主張するが、役員といえども、組合業務に関しては組合の執行機関であるものの、土地取得については執行機関ではなく個人としての行為であり、この点に関して異議申立人の主張を認めることはできない。
さらに、保留地の価額は、販売前に土地区画整理組合から販売価格として組合員全員に通知されたものであり、組合側が勝手に販売価格を下げて契約しない限り、同一のものであり公知の情報である、と異議申立人は主張している。確かに当時としては何人も知り得る情報であったと言えるかも知れないが、実施機関が本決定をした時点では相当期間が経過しており何人も知り得る情報とは言えない。また、個人のプライバシーを犠牲にしてまで開示すべきとする公益性も認められない。
よって、実施機関が非開示とした情報は、本号本文に該当するとともに、ただし書きのいずれにも該当しないと判断すべきである。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 8.21 | ・諮問書受理 |
14. 8.23 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
14.10. 1 | ・部分開示理由説明書受理 ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、意見書の 提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14.10.29 | ・異議申立人からの意見書受理 |
14.10.30 | ・実施機関に対して意見書(写し)の送付 |
14.12.17 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・審議 (第165回審査会)
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15. 1.21 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第166回審査会)
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15. 2.21 | ・審議 ・答申 (第169回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。