三重県情報公開審査会 答申第134号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書のうち「本換地における従後地の価格、清算金」を非開示とする旨の部分開示決定を取消し開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年4月30日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「四日市市伊坂土地区画整理組合の行なった仮換地計画と本換地の実施状況」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成14年5月30日付けで行った部分開示決定及び不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
本件事案は、平成6年度換地計画の事前協議に添付された各筆各権利別精算金明細書(以下「本件対象公文書」という。)にかかる開示請求であり、権利者の住所・氏名、従前の土地の町又は字、地番、地目、地積、権利価額、換地処分後の土地の町・丁目、地番、地目、地積、権利価額及び清算金が記載されている。なお、異議申立人は、従前の土地の権利価額については、当初から開示を求めていない。
3 実施機関の部分開示及び不存在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、部分開示決定が、並びに「仮換地計画の実施状況」についての文書を保有していないとする不存在決定が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書は、平成7年に土地区画整理法に基づき異議申立人も関係者として縦覧できた情報であるが、現時点では事業が完了し、組合も消滅しているため、条例に基づき開示・非開示の判断を行なった。
今回非開示とした「本換地における従後地の価格、清算金」は、財産状況に関する個人情報であり、組合が消滅した現在においては「面積、地目、所有者」のように土地の地番から法務局の土地登記簿謄本で何人も閲覧でき慣行として公にされている情報(ただし書イ)でもなく、開示することにより私生活上の権利利益を害する恐れがある。
(2)不存在決定の妥当性について
異議申立人が請求した内容のうち、「仮換地計画の実施状況」は、平成2年制定の県事務処理要領に基づき報告する旨指導しているが、当該土地区画整理事業については昭和63年に仮換地指定がおこなわれているため、同要領が制定されておらず、報告義務もなかったため報告されておらず、不存在である。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から、実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
○ 土地区画整理組合員として仮換地の際,換地方法の詳細について土地区画整理組合に教示をもとめたところ、詳細について記載された冊子の閲覧は認められたが複写については認められず、同じ組合員として納得できるものではなかった。
また本換地についても、土地区画整理組合に教示をもとめたところ、異議申立人自身の換地場所、面積は公開されたが、他の所有者の換地場所、面積は法律上禁止されているとし公開されなかったが、あとでそのような法律は存在しないことを知ることになった。
以上のように、土地区画整理組合の運営には明らかに不透明な点が多く、役員が不正な利益を上げているとの疑念を抱かずにはいられず、適正な換地が実施されたか確認したく、所有者全員の情報公開が私生活上の権利利益を害するおそれがあるなら、当時の組合の主要な役員5名について非開示部分である「本換地における従後地の価格、清算金」の情報公開を望む。
○ 仮換地計画に関する文書は、当該土地区画整理組合より徴収していないとした実施機関の不存在決定は監督官庁である県の職務怠慢であり、再度早急な調査を実施し情報公開を要請する。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、第7条第2号(個人情報)に該当するので部分開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示としたうえで、個人の権利利益を侵害せずに非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優先するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において非開示とした「本換地における従後地の価格、清算金」は、個人所有の土地に関するものであり、当該個人の財産状態をその限りで表示するものであり個人に関する情報であるとみることもできる。
一方、本件事業は都道府県知事の設立認可を要する土地区画整理組合が事業主体となった公共性の高い事業であり、これらの情報は、本換地が適正に行われたか否かを確認するという意味から、公共性が高い情報であるとも言うことができる。
一般に土地所有に関しては、その社会的な性格に鑑み,土地登記簿が万人に公開され、その評価についても、路線価のように特定土地の価額を示さないにしても公示価額や基準地価のように特定の地点を示した価額さえも公表されている。
本件事案の場合、「本換地における従後地の価格、清算金」は、商取引のような交渉等により左右されたものではなく、一定のルールに基づいて算出された土地の客観的評価に過ぎず、個人のプライバシーに関する情報ではなく、保護すべき個人情報であるとは言えない。
以上のことから、条例第7条第2号(個人情報)には該当しないというべきである。
(4)不存在決定の妥当性について
実施機関が不存在を主張する「仮換地計画の実施状況」は、仮換地指定に関する文書であり、三重県としては平成2年以降は事務取扱要領に基づき報告するように土地区画整理組合に指導しているところであるが、当該土地区画整理事業については,仮換地指定が昭和63年に行なわれたため、土地区画整理組合から報告書が提出されていないという実施機関の説明にも不自然な点はなく、異議申立人の主張を認めることはできない。
また、異議申立人は、不存在であるなら再度調査しなんらかの方法で文書を入手して情報公開することを要望しているが、土地区画整理組合自体が既に解散しており実施機関として調査するにも限界があると言わざるを得ない。
以上のことから、当該請求内容に該当する公文書が存在しないとする実施機関の決定は妥当である。
(5)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 8.21 | ・諮問書受理 |
14. 8.23 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
14.10. 1 | ・部分開示理由説明書受理 ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、意見書の 提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14.12.17 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・審議 (第165回審査会)
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15. 1.21 | ・実施機関の補足説明の聴取 ・審議 (第166回審査会)
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15. 2.21 | ・審議 ・答申 (第169回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。