三重県情報公開審査会 答申第129号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった非開示決定を取り消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成14年1月11日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「公立学校の教員採用試験問題(平成10、11年度分)」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成14年1月21日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件対象公文書は、平成10、11年度に実施した平成11、12年度公立学校教員採用選考試験の筆答試験の問題であり、「筆答試験B」問題(一般教養、教職教養、人権・同和教育)、「筆答試験A」問題(専門科目)から構成されている。
4 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第6号(事務事業情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
- 本件対象公文書を公開すると、情報公開請求をした者にだけ情報が手に入ることになり、受験者相互の間に不公平が生じ、当該又は将来の試験事務の公正又は適正な執行に著しい支障を生じるおそれがある。
- 問題作成者に試験問題は公開しないという前提で作成依頼しているため、これを開示すると、問題作成者との信頼関係が大きく損なわれるばかりでなく、今後の問題作成への理解と協力が得られなくなり、平成15年度実施以降の問題作成事務に著しい支障が生じる。
なお、平成4年に同様の開示請求があり、上記理由で当審査会から将来の試験事務の公正又は適正な執行に著しい支障を生じるおそれがあり、実施機関の非開示決定は妥当であるとの答申第8号(平成4年12月17日付け)を受けていると、説明して いる。
5 異議申立ての理由
異議申立人は、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈・運用を誤っているというものである。
実施機関は、試験問題を公開すると今後の試験問題作成に負担がかかる等と難色を示しているが、それはあくまで内部の事情であり、非開示の理由に当たらない。むしろ改善や批判が加えられることにより、総じて試験内容の一層のレベルアップになり、よりよい人材確保につながる。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第7条第6号(事務事業情報)に該当するので非開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(3) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
実施機関の非開示理由は、本件対象公文書を開示することにより、1)情報公開請求をした者にだけ情報が手に入ることになり、受験者相互の間に不公平が生じること、2)問題作成者との信頼関係を損ねることにより、今後の問題作成への理解と協力が得られなくなることの二点であることが認められる。
まず、1)受験者相互の間に不公平が生じるとする理由について検討する。
確かに、情報公開請求者が、過去の問題を入手できることとなれば、過去の出題傾向等を知りうるという意味では、情報公開を請求していない他の受験者より有利になるかも知れない。
しかし、情報収集力に差異があり、その結果受験者相互の間に有利、不利となる可能性があることは、いかなる試験においても生じることであり、当選考試験だけに限ったことではない。
そして、情報公開が特定の受験者だけに認められているのであれば格別であるが、開示請求の機会は「何人」にも平等に与えられている以上、受験者相互の間に不公平が生じるとはいえない。
むしろ、実施機関は、試験問題を公開することによって、教員採用の選考過程の透明性を確保することが期待できる。
よって、本件対象公文書を開示することで、受験者相互の間に不公平が生じるとはいえず、実施機関の上記主張を採用することはできない。
次に、2)問題作成者との信頼関係を損ねるという理由について検討する。
確かに試験問題作成については、実施機関は秘密保持の面から、公開しないことを前提として、公立学校に勤務する教員等に平常業務を行いながら試験問題を別途に作成するよう協力依頼しており、過去の問題を開示すれば、これまで以上に試験問題の傾向の偏りや過去の試験問題に類似した出題を避ける配慮をしなければならなくなり、問題作成者の負担が増大すると実施機関は主張している。
しかしながら、問題作成者はすべて実施機関の職員であり、実施機関にとっては、試験問題作成が一時的に問題作成者の負担を増大するとしても、教員としてふさわしい資質を有する人材を確保するための当然の業務である。また、非公開が前提というのも実施機関内での約束であり、仮にそのことにより問題作成者との間に信頼関係を損なう可能性があっても、情報公開制度の意義等を問題作成者に説明し、信頼関係を損なうことを回避するよう実施機関内部で解決すべき問題である。
よって、本件対象公文書を開示することで、必ずしも将来の試験問題が作成できなくなり、以後の試験問題作成事務に著しい支障が生じるとは認められず、昨今、行政側に求められている説明責任の観点からも、もはや実施機関の上記主張を採用することはできない。
なお、確かに実施機関が説明するとおり、当審査会において過去同種の事案を審議した際には、非開示妥当の判断を示したところである。一方、実施機関においては、情報公開制度の趣旨を踏まえ、条件整備に努め、平成12年度実施の教員採用選考試験から、試験問題の公開を段階的に進めてきており、今年度実施の試験からは、全面的に公開している。このような実状をかんがみると、非公開としていた過去の試験問題を開示したからといって、将来の問題作成事務に著しい支障が生じるとは認められない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 3.26 | ・諮問書の受理 |
14. 3.28 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
14. 4.25 | ・非開示理由説明書の受理 |
14. 5. 1 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14. 9.17 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 (第159回審査会)
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14.11.26 | ・審議 ・答申 (第163回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。