三重県情報公開審査会 答申第128号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成14年4月3日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「産業廃棄物処理業(特定法人)の平成12年度操業実績報告書」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「産業廃棄物処理実績報告書(平成12年度 埋立処分)(以下「本件対象公文書」という。)」を、開示請求者に対して開示すると平成14年5月17日付けで行った決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
実施機関は、本請求に際し本件対象公文書に産業廃棄物処理業者の情報が含まれているため、条例第17条第2項の規定に基づき、産業廃棄物処理業者53社に対して意見照会を経て開示する旨の本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、産業廃棄物処理業者に対して条例第17条第3項の規定に基づき、情報を開示する旨の通知をしたところ、異議申立人(産業廃棄物処理業者3社)から本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成14年5月30日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
3 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を開示決定したというものである。
本件対象公文書は、産業廃棄物の最終処分業者から提出された処理実績報告書で排出事業者、廃棄物の種類、搬入者の名称、処分量等が記載されている。
平成6年同種の情報を部分開示決定した処分について、三重県を被告とした情報公開請求事件が提訴され、平成9年6月津地方裁判所において、その処分を取り消す判決があった。判決の要旨はこれらの情報が法人の競争上の利益を害するおそれがあるが、住民等の健康その他の利益に関する情報であり公益上開示すべきであるというものである。本決定はこの判決を踏襲したものである。
産業廃棄物処理業の及ぼす社会的影響や責任は大きくこれらの情報を住民に明かにすることで住民の不安を取り除き、ともすれば抱かれがちな当該事業への社会的偏見を払拭し正しい理解を得る必要がある。
当該情報を開示することにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることは認められるが、住民等の健康その他の利益を保護するため公益上公にすることが必要と認められ、また、住民からの理解を醸成することで、法人にとっても利益になると考えている。
よって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きハに該当し、本決定を行ったものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人(産業廃棄物処理業者3社)の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
産業廃棄物処理業という事業の性質上、情報公開を積極的に行い利害関係人とのコミュニケーションを図ることが重要であると考えており、原則開示を拒むものではない。
しかしながら、開示請求目的が不明であるため、排出事業者名が開示されると当社の取引競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれがあるので、全面開示には異議がある。排出事業者名を非開示としても、産業廃棄物の発生場所、種類、搬入者の名称・県名及び許可番号、受託量、最終処分量、処分方法などが開示されることとなり、産業廃棄物の処分内容を把握・確認するうえでは客観的に充分その目的が達成されるものである。排出事業者名が開示された場合は、当社の損失発生に伴う地域経済への影響が発生することが確実で、さらに、一部の悪質業者に当該産業廃棄物が取引されることとなった場合には、三重県の産業廃棄物行政への影響が出てくることが予測される。
また、当社が取り扱っている産業廃棄物は三重県県外産業廃棄物の適正処理に関する指導要綱(現:三重県生活環境の保全に関する条例)の搬入承認を受け「人の健康及び生活環境保全上問題がない。」と認められたものである。実施機関の説明にある平成9年6月津地方裁判所の処分取消判決の住民等への不安、危険、影響等はすべて公的にクリアーしており、公益上開示すべき理由はなくなっているものである。
なお、当社としては、競争上の地位や正当な利益が害されることのないよう三重県当局により担保されるか開示請求者と利用制限などの協定が締結されるならば、全面開示に異議はないものである。
5 参加人(開示請求者)の意見陳述要旨
開示請求者から口頭意見陳述の申出があったので行政不服審査法第48条において準用する同法第24条の規定により実施機関の許可を得て意見陳述を行ったものである。
産業廃棄物中間処分業者と同最終処分業者の処分実績を調べているが整合が取れていない。本件対象公文書は従来は全面開示されてきたものである。
水源地の上流に立地している産業廃棄物処理業者が事故で汚水を流出させるなど産業廃棄物をめぐる諸問題は住民の健康に深い関係がある。排出事業者や産業廃棄物処理業者はこれらの一切の情報を公開することで住民に不安を与えないようすべきであり、業界全体の信用回復のためにも必要であると考えられる。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は条例第7条第3号(法人情報)ただし書きハに該当するので開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務付けられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書の排出事業者名等の情報を開示することにより、具体的に法人のどのような利益が損なわれるかは不明確な部分があるが、一般的に法人の取引先は重要な営業情報であり、同業他社の努力しだいで不利益を被る危険性は具体的になりえるものといえる。この点については実施機関も認めるところであり、当審査会としても法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを否定することはできない。
よって、本条本号本文に該当すると判断すべきである。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討する。本号ただし書きは法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものである。産業廃棄物処理業という事業の特殊性からこれらの情報は、人の生命、身体、健康に深く関係し、環境問題に対する住民の関心が日増しに高まっていることを勘案すると、非常に公益性の高い情報といえる。異議申立人は同社が取り扱っている産業廃棄物は三重県の搬入承認を受け「人の健康及び生活環境保全上問題がない。」と認められたものであり、平成9年6月津地方裁判所の処分取消判決にある住民等への不安、危険、影響等はすべて公的にクリアーしており、公益上開示すべき理由はなくなっていると主張している。しかし、地域住民の不安等を払拭するためには、たとえ県が搬入を承認した産業廃棄物であっても、具体的な搬入の実態等を明かにすることが求められる。上述のとおり、当該情報を開示することによって当該法人をとりまく市場環境に影響を及ぼす可能性は否定できないものの、産業廃棄物処理という事業には、事業者の運営によっては地域住民の生活環境等に重大な影響をあたえる危険性があることも事実であり、当該事業の特質から非開示により保護すべき利益よりも地域住民の健康等の公益が優先されると判断せざるを得ない。
したがって、条例第7条第3号(法人情報)ただし書きに該当し、開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 6.18 | ・諮問書の受理 |
14. 6.20 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
14. 7.16 | ・開示理由説明書の受理 |
14. 7.17 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14. 8. 6 | ・書面審理 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・参加人(開示請求者)の口頭意見陳述 (第158回審査会)
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14.10. 1 | ・答申
(第160回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。