三重県情報公開審査会 答申第127号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書のうち「開設者の住所及び休止理由の一部をのぞく部分」を開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成14年4月3日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定医院の休業における理由」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる「診療所休止届(以下「本件対象公文書」という。)」を、開示請求者に対して部分開示すると平成14年4月30日付けで行った決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
実施機関は、本請求に際し本件対象公文書に異議申立人の情報が含まれているため、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対して意見照会を経て部分開示する旨の本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、情報を開示する旨の通知をしたところ、本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成14年5月14日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を部分開示決定したというものである。
本件対象公文書は、医療法第8条の2の規定により平成14年3月25日付けで異議申立人から提出された診療所休止届である。
医療法上において、医療機関は国民の健康保持に寄与することを目的としており、適切な医療提供の確保を行っていくことを前提として開設していくこととなっている。
このため、医療機関の開設者は一時的であれ当該地域での医療機関として医療提供が行えなくなったときは、地域住民の健康保持及び適切な医療提供体制の確保のうえからも地域に与える影響が大きいため、休止後10日以内に届け出を行うよう医療法で規定されているものである。
当該休止届には休止の予定期間、休止の理由等が記載されているが、地域住民が安心して暮らすうえで、医療機関の担う役割は大きくこれらの観点からも医療機関の責務としてもこれらの情報をできるかぎり公開すべきである。
ただ、休止届には個人情報となる開設者住所や休止の理由の一部に非開示にすべきと判断される情報が含まれているため、そのような部分を非開示として本決定を行ったものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈 運用を誤っているというものである。
休止届の開示は今後の当医院の運営に著しい障害を生じる。特に休止の理由の開示は自分の評価に関する個人情報であり社会的な評価を損なう。
休止の予定期間の開示は医局の人事で不利益を被る可能性がある。
また、再開すると近くに遊技場があり風俗営業法等の規制から遊技場営業に支障が生じることとなり、事前に休止の予定期間を開示すると利害関係で不利益を被り、ひいては土地利用、財産保護に支障をきたす。個人情報保護条例が全面施行されるまえに開示されるのは納得いかない。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、一部分について条例第7条第2号(個人情報)及び条例第7条第3号(法人情報)に該当し本決定が妥当であると主張している。一方、異議申立人は、本件対象公文書は全てが条例第7条第2号(個人情報)または条例第7条第3号(法人情報)に該当すると主張している。そこで、審査会においては、実施機関が非開示とした部分以外、つまり開示しようとした部分についてのみ以下のとおり判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記載されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示としたうえで、個人の権利利益を侵害せずに非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優先するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書である診療所休止届には、開設者住所・氏名、名称、所在地、開設許可年月日、休止の理由、休止の年月日、休止の予定期間が記載されているが、そのうち、実施機関は、開設者住所及び休止理由の一部を除き開示しようとした。
実施機関が開示しようとしたこれらの情報は、異議申立人が主張するように個人的な事情によるものであるかもしれないが、事業を営む個人の当該事業に関する情報として判断すべきであり、原則として本号本文の個人情報からは除外されると解すべきである。したがって、本号に該当するのではなく、条例第7条第3号(法人情報)に基づき判断すべきであり、後述する。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康または財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に公開が義務付けられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件事案の対象となっている医院が既に休止状態であることは地域において周知の事実となっており、休止しているという事実そのものについては、これを明らかにしてもただちに今後の当該医院の運営に支障をきたすとは言い難い。
異議申立人は休止の理由の開示は、当該医院の社会的な評価を損なうと主張しているが、実施機関が開示しようとした部分については、特に社会的な評価を損なうような記述はみあたらず、競争上の利益その他正当な利益を害するおそれがあるとは言えない。
また、休止の予定期間の開示が事業活動上不利益を被るとの主張については、当事者間の問題であり、何人にも知る権利を保障した情報公開制度の趣旨からすると審査会としては採用することはできない。また、休止の予定期間は、むしろ地域住民等には積極的に明らかにされるべき情報であって、競争上の利益その他正当な利益を害するおそれがあるとは言えない。
これら医療情報は、医療機関の地域住民の健康保持に担う役割から勘案すると非常に公益性の高い情報である。したがって、当該医院の競争上の地位その他正当な利益を害さないと認められる以上、医療機関の責務としてもこれらの情報をできるかぎり開示すべきである。
したがって、本件対象公文書のうち実施機関が開示しようとした部分は、条例第7条第3号(法人情報)には該当しないと判断すべきである。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 5.21 | ・諮問書の受理 |
14. 5.22 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
14. 6.10 | ・開示理由説明書の受理 |
14. 6.12 | ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
14. 7. 2 | ・書面審理 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第156回審査会)
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14. 8. 6 | ・審議
(第158回審査会)
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14.10. 1 | ・審議 ・答申 (第160回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。