三重県情報公開審査会 答申第120号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った不存在決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年10月17日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「松阪市内特定地番にかかる自作農創設特別措置法による買収登記嘱託書帳、登記全体の測量図」等の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年10月31日付けで行った不存在決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の不存在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、該当する公文書は存在せず、不存在決定は妥当というものである。
本件開示請求は、松阪地内の特定地番の土地について、不動産登記簿上、昭和20年代から昭和53年にかけて登記されたものに関して、登記手続きの際の地積測量図を開示するよう求めたものである。
このうち、直近の昭和53年の文書を含むいくつかの文書については、当該登記が相続及び民間同士の売買に関するものであるため、県の関与がなく、当該文書を作成、保有していない。
その他、前記以外のものについては、昭和24年から昭和38年に登記された際のものであるが、昭和37年の文書整理編集保存規程によれば、異議申立人が求めている情報については、保存期間が最長10年間であり、さらに、開示請求後に書庫等を調査したところ、存在を確認できなかった。したがって、これらの登記事実に県が関与し、当時は請求内容を満たす文書を保有していたとしても、既に保存期間が経過しているとの理由で廃棄されたものと判断される。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
公文書の保存については、昭和38年頃には文書は5年、図面等については永久保存であり、その後の法律改正により、昭和40年以降は、文書も図面も永久保存であるから、文書が不存在であるはずがない。
また、当該地番の登記については、不明な点が多い。松阪市から入手した図面と実測が一致していない。本件土地については、終戦後の自作農創設特別措置法による国有農地の売り渡しの時点まで遡るが、市、県、農林水産省のいずれにも問い合わせたが、明確な説明がされない
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する
(2)「松阪市内の買収登記嘱託書に係る地積測量図等」の不存在について
本件対象公文書については、昭和37年の文書整理編集保存規程によれば、異議申立人が求めている情報については、保存期間が最長10年間であり、既に保存期間が経過しているとの理由で廃棄されたものと判断される、と実施機関は主張している。
他方、異議申立人は、昭和38年頃には文書は5年、図面等については永久保存であり、その後の法律改正により、昭和40年以降は、文書も図面も永久保存であるから、文書が不存在であるはずがない、と主張している。
異議申立人が主張している根拠法令については、異議申立人も詳細については承知していないとのことであるが、これは不動産登記法の規定を指すものと推察される。確かに同法第20条第1項には、「登記簿並に地図及び建物所在図は永久に之を保存することを要す」と規定されているが、同法第8条第1項に、「登記事務は不動産の所在地を管轄する法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所が管轄登記所としてこれを掌る」旨あわせて規定されていることから、同法第20条第1項の規定は、管轄登記所である法務局等に適用されるものであり、本件事案の実施機関に対して保存義務を課しているものではない。したがって、既に保存期間が経過した文書を実施機関が廃棄していたとしても、違法であるとは言えない。
また、相続及び民間同士の土地取引に基づく登記手続きに関しては、県が関与していないため、該当する地積測量図等を保有していない、との実施機関の説明に説得力に欠ける点はなく、このような文書を実施機関が保有していないことは明らかであると言わざるを得ない。
本件事案において審査会の場における異議申立人の主張を聴取するところ、自作農創設特別措置法に基づく国有地の売渡手続きが適正に行われていたか否かが、異議申立人が本件開示請求にいたった本質的な理由であると考えられる。
そこで、当審査会は、自作農創設特別措置法に基づく国有地の売渡手続きについて実施機関から聴取のうえ調査を実施した。
自作農創設特別措置法は、終戦後、農業の民主化を図るため自作農の創設を目的に、昭和21年10月に公布(昭和27年7月廃止)された。同法に基づく登記を行う際に必要となる嘱託書類の作成については、以下に述べるとおり市町村農地委員会において行われたものと推測される。
自作農創設特別措置登記令(昭和22年3月勅令第79号・昭和27年10月廃止)第3条には、自作農特別措置法の規定により、不動産に関する権利を取得した場合における権利の取得の登記、不動産を売り渡した場合における所有権移転の登記、土地を交換した場合における所有権移転の登記、土地を買い取った場合における所有権移転の登記は、都道府県知事が、職権でこれを嘱託することができる旨の規定があるが、昭和24年2月22日付け農林省農政局長発各都道府県知事及び各農地事務局長あて通達(「農地改革に関する登記事務促進について」)においては、「登記事務は法令上都道府県知事が行うこととなっているが、登記事務促進を図るため、・・・(中略)・・・市町村農地委員会をして嘱託書類の作成を行わしめる等最善の便法を講ずること。」と述べられている。
相当以前の事務にかかるものであり、どのような事務手続きを実際に実施していたかは定かではないが、当時は、農地改革に関して、膨大な筆数の農地について、しかも短期間で所有権にかかる登記事務を完了させる必要があったことから、前述の通達に基づいて各市町村農地委員会が、登記嘱託書類を作成していた可能性が極めて高い、と実施機関は説明している。このような実施機関の説明にはあらためて問題にしなければならないような不自然な点はなく、当時は農林省通達に基づき、図面を含めた登記嘱託書類を市町村農地委員会が作成することとなっていた蓋然性が極めて高いと判断される。
また、仮に実施機関において登記嘱託書類の作成事務が行われていたとしても、当時は今日のように複写機が普及しておらず、該当文書の複写がとられなかったことも推測に難くない。
さらに、複写がとられてあったとしても、当時の文書整理編集保存規程に基づき廃棄処分された可能性が高いという実施機関の説明にも不自然な点はなく、本件事案にかかる公文書が、実施機関において現に保有しているものとは認められない。
(3)結論
よって主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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14. 1.17 | ・諮問書の受理 |
14. 1.22 | ・実施機関に対して不存在理由説明書の提出依頼 |
14. 2. 4 | ・不存在理由説明書の受理 |
14. 2. 6 | ・異議申立人に対して不存在理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼 |
14. 3.22 | ・書面審理 ・実施機関の不存在理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第149回審査会)
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14. 4.23 | ・審議
(第151回審査会)
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14. 5.14 | ・審議 ・実施機関の補足説明 (第152回審査会)
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14. 6. 4 | ・審議 ・答申 (第154回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。