三重県情報公開審査会 答申第12号
答申
1 審査会の結論
「別紙公文書目録記載の公文書」について、実施機関が部分開示にしたことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人(以下「申立人」という。)が平成4年5月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「別紙公文書目録記載の公文書」(以下「本件対象公文書。)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成4年6月5日付けで行った部分開示決定処分の取消を求めるというものである。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
1 三重県廃棄物適正処理民間監視員制度(以下「監視員制度」という。)について
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書を部分開示にしたというものである。
本制度は、三重県内における廃棄物の不法投棄等の不適正処理を未然に防止するとともに、早期に発見し、適切な措置を講じるため、平成3年5月に三重県廃棄物適正処理民間監視員設置要領(以下「要領」という。)に基づき、関係市町村の協力を得て設置された。
具体的なシステムとしては、市町村長の推薦に基づき知事の委嘱を受けた廃棄物適正処理民間監視員(以下「監視員」という。)が、日常生活において担当する区域(原則として居住する市町村)で発見した廃棄物の不法投棄等を自らが市町村等の行政機関に通報することを想定しており、一般住民が廃棄物の不法投棄等についての情報を監視員に通報し、それを監視員が行政機関に通報するシステムにはなっていない。
なお、一般住民の通報方法としては、従来からおこなわれているように監視員を経由せずに行政機関に直接通報する方法が通常の形態である。
さらに、現在の監視員の設置は北中勢地区が中心であるが、将来的には県下全域に監視員を設置する予定にしている。
2 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
監視員の氏名、住所等は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得る。
なお、これらの情報は、同号ただし書イ、ロ、ハのいずれにも該当しない。
3 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
監視員制度の根幹をなす監視員の選任は、要領に基づくとはいえ、あくまでも関係市町村及び候補者の任意の協力のもとに行なわれており、その委嘱に当たってはその氏名を公表しないことを約束している。
したがって、それを無視して県が一方的に氏名を開示すると、県と関係当事者との間の信頼関係が損なわれたり、さらに、業務の性格上、監視員個人に対し不当な干渉やいやがらせが行われることが十分に予想されるところであり、その結果、事業の実施に必要な協力を得られなくなり、ひいては当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。
以上により、監視員の氏名、住所等は条例第8条第1号及び第5号に該当する。
4 異議申立ての理由
申立人が、異議申立書、実施機関の部分開示理由説明書に対する意見書及び口頭による意見陳述で主張している意義申立ての主たる理由は、次のように要約される。
○○(注:原文は法人名)こと○○(注:原文は個人名)は、申立人が住んでいる場所から約400m離れた上野市大野木地内の土地で、昭和62年頃から産業廃棄物の搬入、保管及び野焼きを行っており、そこから生じる悪臭・ばい煙・粉塵等の影響により申立人の健康に被害が出ていた。
現在、その土地で野焼きは行われていないため、これによる被害はなくなったが、そこへの産業廃棄物の搬入及び保管は相変わらず続けられており、野積みされた産業廃棄物から発生する悪臭及び粉塵による被害は改善されていない。さらに、申込人は井戸水を利用しているが、野積みされた産業廃棄物による地下水汚染も心配される。
そのため、監視員に直接その場所での監視を依頼するため、その氏名を教えるよう実施機関に対して要望したが、監視員は不法投棄を見つけて自らが市町村等の行政機関に通報することを業務にしているという理由で、その氏名については教えてもらえなかった。
実施機関がどういう趣旨で監視員制度を創設したかによるが、違法を発見した住民が近くの監視員に通報し、その人に監視してもらうとか、さらにその人が県や市町村に話しをもっていくというシステムで考えているのであれば、そもそも氏名は人権擁護委員や民生委員のように公開するのが本来の姿であると考える。そうではなく、いわゆる密告ということで考えているのであれば、制度趣旨がおかしい。
実施機関は、監視員の氏名を公表すると、その人に対してどこからか不当な圧力やいやがらせが行われるから公表できないというが、人権擁護委員は様々な問題が起こる中、氏名を公表して頑張っていることから、何故監視員の氏名が非公開なのか解せない。
5 審議会の判断
1 本件対象公文書の内容について
本件対象公文書は、桑名・四日市・上野保健所管内の市町村における監視員の委嘱にかかる起案文書であり、そこには監視員の氏名、自宅の住所・電話番号、年齢、生年月日、職業、勤務先の名称・電話番号、健康状態及び主な経歴(以下「監視員の氏名等」という。)が記載されている。
2 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を保障するとともに県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示規定を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
3 本件審査の中心争点について
申立人は、監視員制度自体の問題点を主張しているが、当審査会は、本件対象公文書に係る実施機関に係る実施機関の部分開示決定処分が妥当であるか否かを審査する場であって、これら問題点の審査にはなじまないものである。したがって、当審査会は、本件対象公文書について、条例第8条第1号及び第5号の該当性の有無をそれぞれ順次判断するものとする。
4 条例第8条第1号(個人情報)の該当性の有無について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に対する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることを定めたものである。
本件対象公文書に記載されている監視員の氏名等は、個人に対する情報であって、特定の個人が識別され、または識別されうる情報であることは明らかである。
ところで、申立人は監視員の氏名は人権擁護委員や民生委員のように公表するのが本来の姿であると主張していることから、その争点について判断する。
同号ただし書は、「イ 法令の規定により、何人でも閲覧できるとされている情報」、「ロ 公表を目的として作成し、または取得した情報」、「ハ法令又は条例の規定に基づく許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報であって、公益上開示することが必要であると認められる情報」については、同号本文に該当する場合であっても開示することができると定めている。
監視員の氏名等が、ただし書イ及びハに該当しないことは明らかであると認められることから、ただし書ロについてのみ判断する。
ただし書ロの趣旨は、実施機関が従来から慣行上公表しており、公表しても社会通念上、個人のプライバシーを侵害するおそれがないと認められる情報については開示するということである。しかし、制度上、民生委員や人権擁護委員が日常生活で生じる様々な問題解決のための、いわゆる一般住民への窓口という性格もっているのに対して、監視員制度における監視員は自らが市町村等の行政機関へ通報することを業務としており、一般住民からの通報窓口としては考えられておらず、したがって、制度目的を達成するために公表の予定すらないことが認められることから、ただし書ロに該当しない。
以上により、実施機関が条例第8条第1号を適用し、監視員の氏名等を非開示にしたことは妥当である。
5 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性の有無について
本号は、事務事業の内容及び性質からみた、開示をすることにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行が出来なくなるおそれのある情報は非開示とすることを定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とすることとするものである。
ところで、実施機関は、委嘱が氏名の非公表を前提に行われたこと、業務の性格上、その者に対して不当な干渉やいやがらせが行われることが十分に予想できることから、監視員の氏名等を開示した場合、実施機関と関係当事者との間の信頼関係が損なわれ、その結果、事務事業の公正または適正な執行に著しい支障が生ずると主張し、それに対し、申立人は民生委員や人権擁護委員を例にだすなどして、そのようなことは起こらないと主張している。
そこで、監視員の氏名等を開示した場合、当該又は将来の同種の事務事業の公正または適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあるかどうかについて判断する。
氏名の非公表が委嘱の前提条件の場合、これに実施機関が配慮して当該部分を非開示にしなければならないか否かであるが、本号の趣旨は実施機関の行う事務事業が多くの関係当事者との信頼関係で成り立っていることに鑑み、実施機関がそれを損ねると判断した場合に当該部分を非開示にするということである。
実施機関からの聴取によれば、委嘱に際して、氏名は公表しないとの約束があったこと、監視員自らも氏名の非公表を期待していることが認められることから、監視員の氏名等を開示すると実施機関とその者との信頼関係を損ね、結果として今後の同種の事務事業の実施に必要な理解や協力を得ることができなくなり、ひいては当該又は将来の同種の事務事業の公正または適正な執行に著しい支障が生ずるおそれがある。
次に、氏名の公開によりその者に対し不当な圧力やいやがらせが行われるか否かであるが、前述の理由により本号に該当すると認められるため、この点については判断する必要はないと考える。
以上により、実施機関が条例第8条第5号を適用し、監視員の氏名等を非開示にしたことは妥当である。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙審査会の処理経過のとおりである。
別紙
公文書目録
- (平成3年度)廃棄物適正処理民間監視員の委嘱について(平成3年6月26日決裁)
- (平成3年度)廃棄物適正処理民間監視員の委嘱について(平成3年7月1日決裁)
- (平成3年度)廃棄物適正処理民間監視員の委嘱について(平成3年8月23日決裁)
- (平成4年度)廃棄物適正処理民間監視員の委嘱について(平成4年5月13日決裁)
別紙
審査会の処理経過
4. 7.23 | ・諮問書受理 |
4. 8. 5 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出要求 |
4.11.16 | ・部分開示理由説明書受理 |
4.11.27 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出要求 |
5. 1. 7 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
5. 5.13 | ・部分開示理由説明書に対する意見書受理 |
5. 5.17 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書に対する意見書(写)の送付 |
5. 5.25 | ・書面審理 (第29回審査会) |
5. 7.19 | ・実施機関からの部分開示理由説明等の聴取 ・審議 (第30回審査会) |
5. 8.23 | ・実施機関からの部分開示理由説明等の聴取 ・審議 (第31回審査会) |
5.10. 6 | ・異議申立人からの口頭陳述の聴取 ・審議 (第32回審査会) |
5.11.12 | ・実施機関からの部分開示理由説明等の聴取 ・審議 (第33回審査会) |
5.12.28 | ・答申 |