三重県情報公開審査会 答申第111号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った、本件異議申立ての対象となった別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)の非開示決定のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年6月1日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の農業協同組合の県常例検査」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年6月15日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
現地指摘事項には、「個人の氏名」及び「個人の財産に関する情報」が記載されており、これらはいずれも開示することにより特定の個人が識別されるとともに、当該個人が債務者となっている状況が記載されており、個人のプライバシーを侵害すると認められる情報である。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
指摘事項は、当該農業協同組合(以下「当該法人」という。)の事業運営体制、経営、財務及び業務の全般にわたる当該法人の内部の運営上に関する情報であって、開示することにより、当該法人の事業活動や名誉、社会的評価が損なわれる等、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害する情報に該当する。
(3) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
検査結果に関する情報であり、正確な事実の把握を困難にする、又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするとともに、検査に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす情報に該当する。
なお、従来、検査書は、協同組合検査実施要項(平成9年10月1日付9組検第3号大臣官房協同組合検査部長通達)により、「都道府県の情報公開等の条例が制定されていても、公開することは出来ない性格のもの」とされていたが、情報公開法(平成11年法律第42号)の制定により、①行政文書は、原則開示との考え方に立ちつつ、②開示することの利益と開示しないことの利益とを適切に比較衡量する必要があるとされたことから、平成13年4月からの同法の施行に伴い、同実施要項の一部改正により、「検査書等は、組合等の運営に影響を及ぼすおそれのある内容が含まれていること等から、情報公開の請求があった場合には、情報公開法第5条各号(特に第1号、第2号、第4号及び第6号)、第6条第1項等の規定の趣旨に照らして適正に対応する必要がある。」とされたことから、これらの改正の趣旨に即して開示(部分)、非開示について検討した結果、上記のとおり非開示とすることとした。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
実施機関は、非開示とした部分は、条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)及び第6号(事務事業情報)に該当すると主張しているが、本来、経営主体である我々農民の経済代行機関でなければならない当該法人が、合併により肥大した組織を維持するために、農家の利益より法人の利益を最優先している。一般企業と全く同じ独立した経営主体となっている状況では、我々農民は当該法人を利用する魅力、価値が無くなってきている。
又、営農、金融に対しても全く有能な人材がなく、それ故に、最近、多くの不祥事が発生している。不祥事を無くし、又、農民の法人離れをなくす為には、監督官庁として法人の利益を優先させるのではなく、徹底したディ゙スクロージャーを推し進めるべきと考える。個人情報が問題であれば、リストからその個人名を削除して開示すればよい。し、常例検査の指摘事項公開が法人の損害につながるとは考えられない。また、 金融マンなき金融機関で杜撰な資金運用、(迂回融資、限度枠以上の有価証券投資)による多額の損失が発生している状況は公にされるべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書である「当該法人に対する県常例検査指摘事項書」に関する文書については、実施機関は条例第7条第2号(個人情報)、同条第3号(法人情報)及び同条第6号(事務事業情報)に該当するとして非開示が適当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において本号(個人情報)に該当するとして非開示としたのは、大きく分類すると「特定の個人が識別される情報」、「特定の個人の財産状況」である。
本件対象公文書に記載されたこれらの情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得る個人に関する情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイに該当して開示すべき情報とは認められない。又、ただし書きロについても公にすることが必要であると認められる情報とは認められない。
よって、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
(4) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに順ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書には、当該法人の事業運営体制、経営、財務及び業務の全般にわたる当該法人の内部の運営上に関する情報が記載されており、これらは開示することにより当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。
そこで、実施機関が本決定で非開示とした情報が、本号に該当するか検討する。
本件対象公文書は、農業協同組合法(以下「農協法」という。)に基づき実施機関が実施した常例検査の結果、当該法人に交付された検査結果の指摘事項であり、合法性、合目的性、合理性の観点から理事会の協議を経て回答を徴している「主要指摘事項」と、事務的なミス等で常勤役員及び担当部署等での改善が可能な事項を簡潔に記載した「現地指摘事項」より成っている。これらの情報は、当該法人に対して運営上是正若しくは改善の必要性を指摘したものであるため、公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、本号本文に該当する。
「主要指摘事項」は、理事会の付議事項となっていることから、当該法人の組合員にとっては、農協法の規定により容易に入手可能な情報である理事会の議事録から、その内容については推測が可能であり、高度な秘密であるとまではいえない。しかしながら、「主要指摘事項」が議事録の中に詳細に記載されているわけではないと推測され、また、組合員以外の誰もが容易に入手できる情報であるとまではいえず、本号本文に該当すると認めざるを得ない。
なお、異議申立人は、当該法人の組合員に対する情報の公開の必要性を強調するが、組合員に対する積極的な情報開示は、当該法人の自主的な取り組みに任せられるべきものであり、「何人」に対しても一様に適用すべき情報公開制度とは切り離して論じられるべきものであることから、この点について当審査会は意見を述べる立場にない。次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイの「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当して開示すべき情報とは認められない。
また、異議申立人が主張するように不適正な事務処理を行っていたことが事実であったとしても、その影響が県民等の生活又は環境に影響を与えるとまでは言えない。よってただし書きロの規定に該当して開示すべき情報とは認められない。
最後に、ただし書きハに該当するか検討すると、上記イ、ロと同様、公益上公にすることが必要であるとまでは言えない。
よってただし書きに該当して開示すべき情報とは認められないため、非開示が妥当である。
ただし、本件対象公文書に記載されている「主要指摘事項」の項目及び「現地指摘事項」のうち本店の事業に係る部分の項目については、これらを開示することにより直ちに当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害するとは考えにくい。
よって、本件対象公文書の「主要指摘事項」及び「現地指摘事項(本店に係る部分のみ)」の項目については開示すべきである。
(6) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。
(7) 第6号(事務事業情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されている内容は、検査結果に関する情報であり、正確な事実の把握を困難にする、又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするとともに、検査に係る事務の適正な遂行に著しい支障を及ぼす情報に該当すると実施機関は主張している。
確かに、県の農業協同組合(以下「農協」という。)の検査事務の適正な遂行には、当該農協の協力が必要である。しかしながら、常例検査は、農協の任意の協力に基づき実施されるものではなく、監督官庁である県が農協法に基づき実施しているものである。さらに、農協法上、常例検査を拒み、妨げ又は忌避した者に対して罰則が規定(農協法第100条)されていることを勘案すると、本件対象公文書を開示することにより、故意に検査対象資料が隠蔽される等農協の協力が得られなくなるおそれがある、との実施機関の主張を認めることはできない。したがって、今後の検査事務の適正な執行に対し、著しい支障を及ぼすとまではいえず、第6号(事務事業情報)には該当しない。
(8) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
本件対象公文書名 | 実施機関の本決定 | 審査会の判断 | |
---|---|---|---|
非開示とした部分 | 非開示事由 | ||
県常例検査による平成12年度分産政第 19-5-14号検査書(主要指摘事項、現地指摘事項)検査先○○農業協同組合 以下内訳のとおり |
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1 「主要指摘事項」 | 指摘事項 | 法人情報 事務事業情報 |
項目は開示 その他非開示 |
2 「現地指摘事項」 | 個人の氏名 | 個人情報 | 非開示 |
指摘事項 | 法人情報 事務事業情報 |
本店の事業にかかる項目は開示 その他非開示 |
注意1 上記本件対象公文書中「○○農業協同組合」は特定の農業協同組合を示している。
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
13. 8.13 | ・諮問書の受理 |
13. 8.13 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 9.20 | ・非開示理由説明書の受理 |
13. 9.21 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13.12.14 | ・異議申立人の非開示理由説明書に対する意見陳述書受理 |
13.12.18 | ・書面審理 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・審議 (第144回審査会)
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14. 2.14 | ・審議 ・答申 (第147回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。