三重県情報公開審査会 答申第110号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った部分開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年6月5日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成12年度①ダイオキシン類大気環境調査事業委託②ダイオキシン類(水質・土壌・発生源)調査③ダイオキシン類等追加調査事業、上記の設計価格をどのようにして出したのかがわかる一切の公文書」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年6月18日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
本件対象公文書は、平成12年度に実施したダイオキシン類大気環境調査等委託事業についての設計書である。このうち、本決定において実施機関が非開示としたのは、ダイオキシン類大気環境調査事業委託業務設計書の1検体あたりの見積分析単価及び受託可能状況一覧表に記載されている「事業所名」及びダイオキシン類(水質、土壌及び発生源関係)等調査事業委託業務設計書の見積単価に記載されている「事業所名」の部分である。
4 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第3号(法人情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
(1) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関が非開示とした「事業所名」は、以下の理由により条例第7条第3号(法人情報)に該当するものである。
平成12年度ダイオキシン類大気環境調査等委託事業は入札に先立ち、あらかじめ複数の分析事業者から見積書を徴収し、最低見積価格を基に設計価格を算出し予定価格を決定した。入札は見積書を提出した事業者の中から入札条件に合う事業者を選定し、指名競争入札で行われた。
分析単価は、事業者が営業上公表している価格もあるが、見積価格はこの価格と相当異なっており、その格差はあまり公表されていない。
また、入札には県外の大手の事業者が参加するので、他県で同種の事業の入札に重なることが考えられる。この場合、どの事業者がいくらの見積を出しているかが知られてしまうと法人等の営業活動に支障が生じる。
したがって、見積価格は公表を前提とした分析単価とは判断できず、事業所名を開示することにより、法人等の事業活動に対して競争上の不利益を与えるおそれがある。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
実施機関は「事業所名」を非開示としたが、ダイオキシン類検査業務に係る事業者は自らの見積価格を部分的には公表しているのであるから、これを非開示とする理由はない。
また、全国的にダイオキシン類測定分析において談合が行われ、排除勧告を受けた事業者もあり、適正な価格で発注されているかは県民としても関心があるところである。
当該事業者の競争上不利益を与えるおそれがあるというが、価格の高い事業者は不利になるにしても、価格の低い事業者は公表を望むところであり、それぞれの事業者の意向も聞かないで一律に非開示としたのは違法である。よって本決定は取り消されるべきである。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第7条第3号(法人情報)に該当するので部分開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活または環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
異議申立人は、ダイオキシン類検査業務に係る事業者は自らの見積価格を部分的には公表しているのであるから、これを非開示とする理由はないと主張しているが、本件対象公文書に記載されている各事業者の見積価格は、その全てについて公表されているわけではなく、また、仮に公表されていたとしても公表価格とは相当異なっているケースが散見される。商取引上、事業者が顧客や発注数量に応じて価格を設定することは、極めて一般的に行われていることであり、本件事案の場合も、各事業者は、各々の営業戦略に基づき見積価格を設定したものといえ、その価格が全て公になっているものではないと推測される。
よって、本件対象公文書に記載された見積価格が公になっているとまではいえない以上、法人等の営業活動に何らかの支障が生じてくるという実施機関の主張を否定することはできない。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討する。本号ただし書きは法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民等の生活または環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものに開示を義務づけたものであるが、当該情報の開示についてこれらの公益を優先させる必要があるとまでは認められない。確かに、適正な価格で発注されているかは県民としても関心があるところである、という異議申立人の主張も理解できなくはない。しかしながら、実施機関は見積価格については事業者名を除いて全て開示しており、適正な価格で発注されたか否かを検証するうえでの情報は既に開示されていると判断すべきである。
また、異議申立人が主張しているそれぞれの事業者の意向も聞かず、事業者名を一律に非開示としたのは違法であるとの主張については、条例第17条第2項第1号及び第2号に規定されているように、実施機関がそもそも当該情報は条例第7条第3号(法人情報)に該当し、開示する公益性もないと判断すれば意見照会する義務はないものであるため、実施機関の本決定が違法であるとまではいえない。 よって、本件事案については、本号ただし書きに該当しない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会からの提言
県民等の環境問題についての意識の高揚に伴い、県が発注する本件事案のような業務が適正な価格で発注されているかは県民としても関心があることである。
そこで、法人等の事業活動に対して競争上の不利益を与えない開示の手法として、見積を提出した事業所名と当該見積価格が直結しない形で、当該事業所名を別途情報提供する方法も考えられる。
また、条例第7条第3号(法人情報)に該当し、開示する公益性もないと判断すれば第三者に意見照会する義務はないが、今後、できる限り意見照会し開示の可否を検討するよう申し添える。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13. 7. 4 | ・諮問書の受理 |
13. 7. 5 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
13. 7.13 | ・部分開示理由説明書の受理 |
13. 7.18 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 7.24 | ・口頭での意見陳述申出書の受理 |
13.12. 7 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 (第143回審査会)
|
14. 1. 7 | ・異議申立人の口頭意見陳述
(第145回審査会)
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14. 2. 1 | ・審議 ・答申 (第146回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。