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平成25年06月01日

情報公開・個人情報保護

三重県情報公開審査会 答申第109号

答申

1 審査会の結論

実施機関が非開示決定を行った本件対象公文書のうち、当該教職員の「氏名(印影を含む。以下同じ。)」及び職員団体における「役職名」並びに当該教職員の「職名」、「旧所属」及び職員団体の活動の内訳である「大会・会議名」のうち特定の教職員が識別される部分を除き、開示すべきである。

2 異議申立ての趣旨

異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成13年1月26日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「勤務実態調査にかかる給与返還の基となる申告書」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成13年3月9日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。

3 本件対象公文書について

本件対象公文書は、平成9年度から11年度の間、教職員が勤務時間中に職員団体のための活動を行った実態を、実施機関として把握するために作成された勤務実態調査票である。その内容は、各教職員個人の「職名」「氏名」「現所属」「旧所属」職員団体役員の「区分・役職名」「活動時間数」「活動年月日」「活動時間帯」職員団体の活動の内訳である「大会・会議名」等が記載されており、全ての記載内容は教職員個人の申告によるものである。

4 実施機関の非開示理由説明要旨

実施機関の主張を総合すると、次の理由により、非開示決定が妥当というものである。

(1) 三重県情報公開条例第7条2号(個人情報)に該当

開示請求された文書は、各教職員ごとに勤務時間中の職員団体のための活動について日時・内容を記入したものであり、特定の個人が識別され得、かつ、これを公にすることによ り当該個人の私生活上に影響を及ぼすおそれがある。

(2) 三重県情報公開条例第7条第5号(審議検討情報)に該当

勤務実態調査の結果、地方公務員法第55条の2(職員団体のための職員の行為の制限)違反として最終的に決定に至らなかった36,044件について、給与の返還対象となり得る か否かの確認作業中であり、これを公にすることにより、意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり、また不当に県民等の間に混乱を生じさせるおそれがある。

(3) 三重県情報公開条例第7条第6号(事務事業情報)に該当

給与返還を求める教育委員会と、「返還に応じず、第三者機関の裁定をも視野に入れた運動を幅広く展開する」ことを臨時大会において決定した三重県教職員組合との見解が大き く異なることから、この問題については今後争訟に及ぶ可能性があり、これを公にすることにより事務の遂行に著しい支障となり得る。

5 異議申立ての理由

異議申立人の主張を総合すると、次に揚げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。

  1. 「当該公文書は、特定個人が識別され得、かつ、個人の私生活上の権利利益を害するおそれのある三重県情報公開条例(以下「条例」という。)第7条2号に該当するものである」としている。しかし、①違法行為をしている者について秘匿するとまでも条例は想定してない。従って、違法行為者については氏名も開示し、その他の者については氏名を伏せて開示することもできる筈である。②仮に、違法行為者とそうでない者を精査中であって現時点では峻別できないとしても、少なくとも全員の氏名を伏せて開示できる筈である。
    したがって、本理由については、最低限、部分開示であって当然である。
  2. 「給与実態調査に基づく給与返還については、その取り扱いについては検討中であり、これを公にすることは、意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあり、条例第7条第5号に該当する」としている。しかし、その主張は、次のとおり非論理的である。 ①「中立性」というが「誰が中立」なのか。本件請求に係る公文書は、県民の付託を受けて教育行政に携わる教育委員会が、県民の付託を受けて現場で教育に携わる教員らの違法性と返還を主張し、教員らが正当性を主張するものである。教育委員会と教員との間に中立という概念は当てはまらない。つまり、県民の視点での判断、県民の納得こそが唯一最高のものである筈である。教育委員会は、「中立」という言葉の響きで、何となく尤もらしく県民を誤魔化しているに過ぎない。敢えていうなら、「中立」なのは「主権者たる県民」である。教育委員会は、自分が何者かを分かっていないのではないだろうか。②かかる理由から、「検討中」という主張は、全く意味をなさない。さらに、教育委員会と教員との間で確定した後、開示するということでは県民の視点を無視することになる。検討過程で県民に公開すべきである。
  3. 「今後、争訟に及ぶ可能性もあり、情報公開が事務の遂行に著しい支障となり得、条例第7条第6号に該当する」としている。しかし、教育委員会が、「違法な行為でない」と明言するならよいが、「違法な行為だ」と認定しているものを県民も看過するわけにはいかず、争訟して当然ではないか。違法なものを「曖昧」に妥協することは、県民との間に、今後の教育に大きな不信を残すことになる。条例の趣旨は、曖昧な解決を図るために「非開示」できる規程を設けたものではない。

6 審査会の判断

(1) 基本的な考え方

条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協動により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利害が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。

当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。

(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について

本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。

しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。

(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について

一般論として、公務員が勤務時間中に行った活動は、当然に「公務員の職務に関する情報」であると推定され、当該公務員の氏名を含めて条例上非開示とはできない情報である。 しかしながら、 単に勤務時間中であるという理由だけで、その活動全てが条例上の「公務員の職務に関する情報」と解されるものではなく、活動そのものが実質的に職務に関連しているかどうかを解釈し、公開するか否かを判断すべきである。

本件対象公文書には、勤務時間中に公務員が行った職員団体のための活動が記載されているが、職員団体への加入は任意であること、また、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善や経済的地位の向上を図ることを目的として組織する団体活動の本質、そしてさらに、こうした団体活動については憲法上の労働基本権としての保護が与えられていることを考慮すれば、その活動内容等は、たとえ正規の勤務時間中に行われたものであったとしても、本来の職務とは直接関係のない、当該公務員個人の私的な情報として保護されなければならない側面を有することは否定できない。

したがって、本件対象公文書に記載された情報のうち、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報は、本号(個人情報)に該当し、非開示が妥当である。

そこで、本件対象公文書の個々の情報について以下に検討する。

ア.教職員の「氏名」について 当該情報は、明らかに特定の個人が識別される情報であり、非開示が妥当である。

イ.職員団体における「役職名」について 当該情報については、職員団体の活動の中で誰がどの役職を担っているか周知の事実であり、一般に公表されている情報と考えられなくはない。そういった側面からすると、本号ただし書きイの「・・・(省略)・・・慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当し開示されるべきと判断する余地がある。
 しかし、当該情報は、職務に直接関連した情報であるとはいえず、また、本件対象公文書に記載されている他の情報と組み合わせることにより、上記アで非開示妥当と判断した教職員の「氏名」が容易に特定されるおそれがある。
よって、当該情報についても、非開示が妥当である。

ウ.「職名」、「旧所属」、職員団体の活動の内訳である「大会・会議名」について 「職名」のうち、当該所属あるいは当該地域に1人しか配置されない学校事務、学校栄養士、学校司書、養護教諭、現業職員等である場合、現所属名と職名が開示されるだけで、特定の教職員が容易に識別されることとなる。また、「旧所属」と現所属をあわせて開示すると、当該教職員の人事異動の経過から特定の教職員が識別される場合がある。さらに、学校司書、養護教諭、現業職等特定の職種の教職員や支部長、副支部長等職員組合の特定の役職者が出席することとなっている「大会・会議名」についても、一般に公表されている情報と組み合わせることによって特定の教職員が容易に識別されることとなる。
 したがって、「職名」、「旧所属」、職員団体の活動の内訳である「大会・会議名」が、特定の教職員を識別することを可能とする場合に限っては、その該当部分を非開示とすることもやむを得ない。

(4) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性に関する少数意見

本件事案については、一部委員から第7条第2号の該当性について、多数意見とは異なる、次のような見解が示された。

本条例が、「公務員の職務に関する情報」を個人情報から除外し、個人情報の場合とは逆に、原則開示としているのは、仮に公務員個人が識別され、公務員個人のプライバシーが問題となり得る余地があったとしても、職務の公益性からできるだけ開示すべきであると解されるからである。

従って、「職員団体のための活動は、本来の職務とは直接関係のない公務員個人の私的な活動である」と、狭く厳格に解釈することは、公務員の職務に関する情報を広く開示すべきとした本条例の趣旨に反し妥当ではない。

また、公務員が職務時間中、本来の職務を行っていた場合には、これに関連した情報は、原則開示とされるのに、職務時間中、本来行ってはならない私的な活動を行っていた場合には、原則非開示とされることとなると、公務員の活動が適正に行われているか否かを監視する目的も有している情報公開制度の役割が十分達成されないことになってしまう。

したがって、公務員にとって原則開示とされてもやむをえないような情報すなわち、勤務時間中の活動、あるいは公金が支出されている活動に関する情報は、広く「公務員の職務に関する情報」に該当すると解し、公務員個人の権利利益が害されるおそれがある場合に限り、非開示とするのが妥当である。

そして、勤務実態調査票の記載内容は、加入が任意である職員団体のための活動ではあるが、勤務時間中「公然」と「長期にわたり」行われてきた活動である以上、通常、他人に知られたくないような、公務員個人の私的な活動として、特に保護すべきプライバシー性が認められると解することは、困難である。

したがって、本件対象文書は、特に保護すべき公務員個人のプライバシーに関する情報でない以上、当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるとはいえないから、「公務員の職務に関する情報」として全面的に開示するのが、相当である。

(5) 条例第7条第5号(審議検討情報)の意義について

本号は、行政における内部的な審議、検討又は協議の際の自由な意見交換や公正な意思形成が妨げられたり、歪められたり、特定の者に利益や不利益をもたらすことなく、適正な意思形成が確保される必要から定められたものである。

(6) 条例第7条第5号(審議検討情報)の該当性について

確かに、実施機関としては、給与の返還対象の範囲等について検討中であったかもしれないが、本件対象文書は勤務時間中の活動について記入されたものにすぎず、実施機関の意思決定過程の情報を記載したものではなく、これを開示しても、実施機関の意思決定に不当に影響を及ぼすものとはいえない。

よって、本件対象公文書中に記載されたいずれの情報も、本号には該当しない。

(7) 条例第7条第6号(事務事業情報)の意義について

本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。

(8) 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について

実施機関は、将来給与の返還をめぐり争訟となる可能性があり、そうなった場合には、本件対象公文書は同争訟において、重要な資料となる可能性があることから、これを開示することはできない旨主張する。

しかし、そもそも情報公開制度は、原則として請求の目的や開示された情報の使途を問わず、広く何人に対しても認められた制度であり、将来訴訟上の資料として利用されるおそれがあるとの理由で、非開示とすることはできない。

情報公開制度は、住民の知る権利に基づき、認められた制度であるのに、もし実施機関の主張するような理由で非開示とすることが認められることになれば、ほとんどの開示請求は、将来、訴訟資料として利用されるおそれがあるとして非開示にすることができることになって、実施機関の恣意的運用が可能となり、住民の権利として認められた、本情報公開制度の存在意義自体が全く失われてしまう。

よって、本対象公文書が、将来訴訟資料となる可能性のあることを理由に非開示とした実施機関の決定には理由がなく、本号に該当しない。

(9) 結論

よって、当審査会は、多数意見にしたがい主文のとおり答申する。

7 審査会の処理経過

当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。

審査会の処理経過

年月日 処理内容
13. 4.27 ・諮問書受理
13. 5. 1 ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼
13. 5.24 ・非開示理由説明書受理
13. 5.29 ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認
13. 9. 7 ・書面審理・実施機関の非開示理由説明の聴取
・異議申立人の口頭意見陳述
・審議
(第138回審査会)
13.10. 5 ・審議
(第140回審査会)
13.12. 7 ・審議
・答申
(第143回審査会)

三重県情報公開審査会委員

職名 氏名 役職等
会長 岡本 祐次 三重短期大学法経科教授
委員 早川 忠宏 弁護士
委員 丸山 康人 四日市大学総合政策学部教授
委員 豊島 明子 三重大学人文学部助教授
会長職務代理者 樹神 成 三重大学人文学部教授
委員 渡辺 澄子 松阪大学短期大学部教授
委員 山口 志保 三重短期大学法経科助教授

本ページに関する問い合わせ先

三重県 総務部 情報公開課 情報公開班 〒514-0004 
津市栄町1丁目954(栄町庁舎1階)
電話番号:059-224-2071 
ファクス番号:059-224-3039 
メールアドレス:koukai@pref.mie.lg.jp

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