三重県情報公開審査会 答申第106号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件異議申立ての対象となった公文書(以下「本件対象公文書」という。)を開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成13年6月22日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成4年度北勢沿岸流域下水道朝日幹線(第6工区)埋設工事委託工事施行計画表」」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる本件対象公文書を、開示請求者に対して開示をすると平成13年7月4日付けで行った開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
実施機関は、本請求に際し、異議申立人の情報が含まれる本件対象公文書を特定のうえ、条例第17条第1項の規定に基づき、異議申立人に対して任意の意見照会を経て、情報を開示する旨の本決定を行った。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、情報を開示する旨の通知をしたところ、本件異議申立てが提起されたものである。
なお、本請求を行った開示請求者には、平成13年7月18日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
3 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を開示決定したというものである。
本件対象公文書は、県が流域下水道事業の実施にあたり下水道管渠と鉄道線路が交差する箇所の下水道管埋設工事に伴う軌道防護工事、立会いを委託するために、県と法人が協定を締結するための事前協議資料として下水道管埋設工事により鉄道の軌道がどれぐらい沈下するかを理論上算定したデータを記載したものである。
これらの情報は、県と法人の両者で協議し合意したものであり特に条例第7条第3号で規定する競争上の地位、その他正当な利益を害する法人情報に該当しないと判断したものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 本件対象公文書は、特定の場所・特定の地盤条件において鉄道横断部分推進工法による軌道の沈下量を理論的に推定したデータであるが、沈下量算定については、理論計算式が数種類文献等から提案されているため、どの式を適用するかは技術的な判断が必要である。このことから、本件対象公文書には法人が蓄積した技術的知見を含むものであり、一民間事業者(法人)にとっては企業秘密に関する部分であり、これらの情報が開示されることにより不利益を被ることが予想される。
- 最近では情報公開制度を利用した権利濫用行為が急増しており、訴訟費用の支出等法人にとって多大な出費並びに労力の浪費を強いられている。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、条例第7条第3号(法人情報)に該当しないとの理由により本決定が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記録されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。 法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号の該当性について
本件対象公文書に記載されている情報は、異議申立人が主張するように沈下量算定の計算式にどの式を適用するかは技術的判断が必要で、法人が蓄積した技術的知見を含む情報ではあるかもしれないが、本件事案の事業は、公金が支出された公共工事であり、県民に対して説明する責務がある。実施機関が開示しようとした部分については、たとえば製品の製造上のノウハウのような法人独自で開発して公にされていない情報でもなく、特に競争上の地位、その他正当な利益を害する情報であるとまでは到底いえず、実施機関の本決定について誤りがあったとは認められない。
また異議申立人は、本件対象公文書が開示されることで、この情報に基づき訴訟が提起され、多大なコストが必要となる可能性を主張している。しかし、情報公開制度は原則としてその請求目的を問わない制度である。仮に開示請求者が、開示された情報に基づき訴訟を提起したとしても、制度の主旨から見て適正な使用の範囲内であるといえる。したがって、この点について異議申立人の主張を認めることはできない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13. 7.24 | ・諮問書の受理 ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
13. 7.27 | ・開示理由説明書の受理 ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 8. 3 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・審議 (第136回審査会)
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13. 9. 7 | ・審議 ・答申 (第138回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。