三重県情報公開審査会 答申第104号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った、本件異議申立ての対象となった別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)の部分開示決定のうち、審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年12月14日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「○○町商工会に対する補助金の不正受給に関する一切の情報、不正受給をしていた期間、手口、金額が分かる一切の情報」との開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年1月24日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)及び第3号(法人情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
(1)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件異議申立人の主張する「不正行為を行った職員は、・・・(省略)・・・横領背任罪を構成する」について、本県の検査においてはこれを立証しうる書証を確認できなかった。また、商工会法(昭和35年法律第89号)第50条第3項において、商工会に対する「立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」とされている。
条例第7条第2号を理由に非開示とした情報は、「個人の氏名(姓のみの場合も含む。)」、「当該法人の役職名」、「当該法人主催の講習会で依頼した講師の氏名」、「公務員の役職名」である。これらは、いずれも開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得る個人に関する情報である。また、「当該法人の要職にあった職員の退職金額」は、個人に関する情報である。
(2) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
当該法人の補助金受給に関与していないと判断される「取引先の法人名、その他団体名、事業を営む個人名等」は、これを開示することにより、当該法人の経済事業活動全体に不利益を与えると考えられる。その他非開示とした情報には、「当該法人の取引金融機関の口座番号及び財務状況(借入金残高、本年度赤字額、前期繰越赤字額)」があり、これらは開示することにより当該法人の競争上地位その他正当な利益を害する情報に該当する。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 実施機関は、非開示とした部分は、条例第7条第2号(個人情報)や、第7条第3号(法人情報)に該当すると主張しているが、本件情報は、当該法人が昭和62年当時から簿外の口座を設け、国及び県から交付を受けた小規模事業指導費補助金の一部について、架空の事業実績をあげて振り込むとともに、商工会の収入とすべき手数料、会費、使用料、町補助金等の一部についても入金処理していたものである。これらの簿外資金は、金融機関からの借入金の償還、会の会計に流用資金を提供したと思われる個人等への返済金及び飲食費外に充てるとともに、本会計との間で資金流用を繰り返していたというものであり不正行為を行った職員は、「補助金適正化法」「商工会事務処理規定」「商工会服務規程」に違反したもので、横領背任罪を構成するものである。
当該法人で処罰された役員職や氏名は、秘匿すべき個人情報ではなく、公表することが公益性に合致する。 - 三重県知事は、当該職員や当該法人に対する損害賠償責任を徹底的に追及しておらず、12年間にわたって約640万円の不正処理をしてきたことが明らかとなっているにもかかわらず、平成6年度~平成10年度の5年分約240万円の返還請求しかしておらず、不徹底のそしりを免れないものである。
よって、不正行為を行った職員の氏名を明らかにして、当該個人に対する損害賠償請求を行うべきである。 - 実施機関は、開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報であるとしているが、当該職員の職及び氏名は、すでに報道機関により報道されており、これは秘匿すべき情報にはあたらない。
5 審査会の判断
本件対象公文書である当該法人に対する補助金の不正受給に関する文書については、実施機関は条例第7条第2号(個人情報)及び同条第3号(法人情報)に該当するので部分開示が適当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において個人情報に該当するとして非開示としたのは、大きく分類すると「特定の個人が識別される情報」と「特定の個人の退職金額」である。
まず、「特定の個人が識別される情報」について検討する。
本件対象公文書に記載されたこれらの情報は、姓のみの記載であったり職名のみの記載であったり、あるいはその両方が記載されている場合もあり、記載のされ方はまちまちであるが、特定の個人が識別され、又は識別され得る個人に関する情報であり、本号本文に該当することは明らかである。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討する。
本件対象公文書中で「特定の個人が識別される情報」について個々に分類すると、「個人の氏名(姓のみの場合も含む。)」、「当該法人の役職名」、「当該法人主催の講習会で依頼した講師の氏名」、「公務員の役職名」があるが、個々について以下に検討する。
ア 「個人の氏名(姓のみの場合も含む。)」、「当該法人の役職名」のうち、一部の情報については、当該法人の補助金不正受給問題が既に新聞報道等されており、公表されている。また、法人の代表者あるいはそれに準ずる者(要職にある者)は、一般に周知されており、保護すべき個人情報に該当しないと判断すべきである。したがって、これらの情報については、条例第7条第2号ただし書きイに規定する「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当し、開示すべきである。
イ 「当該法人主催の講習会で依頼した講師の氏名」については、プライバシー性は極めて希薄であり、特に秘匿すべき情報には該当せず、同様に開示すべきである。
ウ 「公務員の役職名」については、そもそも個人情報には該当せず、開示すべきである。
エ 「個人の氏名(姓のみの場合も含む。)」、「当該法人の役職名」のうち、当該法人の補助金不正受給問題に関して懲罰を受けた者については、当該法人内部で行われた処分に関する情報であり、一般に周知されている情報であるとまではいえない。また、同号ただし書ロに規定する「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとまではいえず、非開示が妥当である。
オ 「個人の氏名(姓のみの場合も含む。)」のうち、当該法人の特定口座リストで入金及び出金状況を記した表及びファクシミリ送付状に記載されたもの、「当該法人の要職にあった職員の退職金額」については、本号本文に該当し、ただし書のいずれにも該当しないため非開示が妥当である。
(4)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに順ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書きにより、常に公開が義務づけられることになる。
(5)条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
実施機関は、本件対象公文書には、「法人名、その他団体名、事業を営む個人名等」及び「当該法人の取引金融機関の口座番号及び財務状況」が記載されており、これらは開示することにより当該法人等の競争上の地位その他正当な利益を害すると主張している。
一方、異議申立人は、当該法人が昭和62年当時から簿外口座を設け、国及び県から交付を受けた補助金の一部について、架空の事業実績をあげて振り込むとともに、商工会の収入とすべき手数料、会費、使用料、町補助金等の一部についても入金処理していたと主張している。さらに、当該法人はこれらの簿外資金を、本会計との間で資金流用を繰り返しており、「補助金適正化法」「商工会事務処理規程」「商工会服務規程」に違反したもので、横領背任罪を構成するものであり、公表することが公益に合致する等主張している。
そこで、実施機関が本決定で非開示とした情報が、本号に該当するか個々に検討する。
ア 「法人名、その他団体名、事業を営む個人名等」については、当該法人の補助金不正受給に直接関与していないものであるから、それらを開示することによりそれらの法人等に悪影響を与え、ひいては競争上の地位その他正当な利益を害すると、実施機関は主張している。しかし、当該情報は単に取引のあった法人名等が記載されているだけのものであり、それだけで当該法人及びそれらの法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。よって開示すべきである。
イ 「当該法人の取引金融機関の口座番号及び財務状況」については、法人の内部情報であって公にすることにより、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められ、本号本文に該当する。なお、当該法人の財務状況(借入金残高、本年度赤字額及び前期繰越赤字額)は、当該法人の会員であれば商工会法の規定により容易に入手可能な情報であり、高度な秘密であるとまではいえない。しかしながら、法律上は会員以外の誰もが容易に入手できる情報であるとまではいえず、本号本文に該当すると認めざるを得ない。
次に、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイの「事業活動によって生じ、又は生ずるおそれのある危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」に該当して開示すべき情報とは認められない。
また、異議申立人が主張するように当該法人の補助金の不正受給という不適正な事務処理を行っていたことが事実であったとしても、その影響が県民等の生活又は環境に影響を与えるとまでは言えない。よってただし書きロの規定に該当して開示すべき情報とは認められない。
最後に、ただし書きハに該当するか検討すると、上記イ、ロと同様、公益上公にすることが必要であるとまでは言えない。
よってただし書きに該当して開示すべき情報とは認められないため、非開示が妥当である。
(6)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
本件対象公文書名 | 実施機関の本決定 | 審査会の 判断 |
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非開示とした部分 | 非開示事由 | ||
(平成11年度)○○町商工会に関する 調査結果について(伺い)(H12.1.31) 以下内訳のとおり |
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1 ○○町商工会への指導監査並びに補助金再検査に基 づく調査結果(平成12年1月25日)のうち「2簿外口 座」欄 | 当該法人の要職にあった職員の氏名、当該法人の役職名 | 個人情報 | 開示 |
口座名、口座番号、法人名、団体名 | 法人情報 | 口座番号を除き開示 | |
2 添付資料「特定の口座リストで入金及び出金状況を 記した表」 |
個人の氏名 | 個人情報 | 非開示 |
当該法人の要職にあった職員の氏名、公務員の氏名 | 個人情報 | 開示 | |
法人名 | 法人情報 | 開示 | |
(平成11年度)○○町商工会に関する調査結果について(伺い)(H12.3.2) 以下内訳のとおり |
|||
1 ○○町商工会に関する調査結果について(回答) (H12.2.25) |
当該法人の要職にあった職員の氏名、当該法人の役職名 | 個人情報 | 開示 |
処分を受けた当該法人の職員名及び職名 | 個人情報 | 非開示 | |
2 添付資料「調査内容の相違点等(別紙4)及び(別 紙5)」のうち「科目」欄及び「摘要」欄 |
個人の氏名 | 個人情報 | 非開示 |
当該法人の要職にあった職員の氏名、当該法人の役職名 | 個人情報 | 開示 | |
法人名、借入金額 | 法人情報 | 借入金額を除き開示 | |
3 ○○町商工会調査委員会報告書 |
当該法人の要職にあった職員の氏名、当該法人の役職名、個人の退職金額 | 個人情報 |
退職金額を除き開示 |
法人名 | 法人情報 | 開示 | |
借入金残高、本年度赤字額、前期繰越赤字額 | 法人情報 | 非開示 | |
(平成11年度)○○町商工会への追加調査要求に対する回答について(供覧)(H12.3.9)以下内訳のとおり | |||
1 添付資料「調査を要する事項」 | 法人名 | 法人情報 | 開示 |
(平成11年度)商工会に対する小規模事業指導費補助金の交付決定の一部取消及び返還命令について(伺い)(H12.3.30) 以下内訳のとおり |
|||
1 添付資料「小規模事業指導費補助金返還に至る経緯」 | 当該法人の役職名 | 個人情報 | 開示 |
2 ○○町商工会に対する調査結果の概要(別紙) | 当該法人の役職名 | 個人情報 | 開示 |
FAX文書(実施機関あて) 以下内訳のとおり |
|||
1 FAX鑑文書 | 個人の氏名 | 個人情報 | 非開示 |
2 添付資料「陳謝の申入れ」及び「お詫び」 |
当該法人の要職にあった職員の氏名、当該法人の役職名、公務員の役職名 | 個人情報 |
開示 |
(平成12年度)商工会連合会事務局からの情報提供について(伺い)(H12.4.21) 以下内訳のとおり |
|||
1 ○○町商工会理事会の概要 | 当該法人の要職にあった職員の氏名 | 個人情報 | 開示 |
注意1 上記本件対象公文書中「○○町商工会」は特定の商工会を示している。
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
13. 2. 8 | ・諮問書の受理 |
13. 2. 9 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 3. 2 | ・非開示理由説明書の受理 |
13. 3. 5 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提 出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 4.20 | ・異議申立人の非開示(部分開示)理由説明書に対する口頭での 意見陳述申出書 受理 |
13. 7.17 | ・書面審理 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第135回審査会)
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13. 8.31 | ・審議 ・答申 (第137回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。