三重県情報公開審査会 答申第103号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年11月6日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「市立の小学校教諭(特定個人)の平成11年度及び12年度の教職員評価(勤務評定)」との開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成12年11月15日付けで行った非開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、非開示決定が妥当というものである。
(1) 三重県情報公開条例第7条第1号(法令秘情報)に該当
本県の条例はその第1条に規定するように、「県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、三重県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県の協働により、公正で民主的な県政の推進に資することの目的」で制定されている。しかしながら、その場合においてもすべてに開示するものではなく、同条例第7条各号において一定の場合に非開示とすることができる規定をおいている。
すなわち、同条例第7条第1号において、「法令若しくは他の条例の定めるところにより又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示により、公にすることができないと認められる情報」は除かれている。地方公務員法(以下「地公法」という。)第40条第1項において、「任命権者は、職員の執務について定期的に勤務成績の評定を行い、その評定の結果に応じた措置を講じなければならない」と規定しており、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)第46条においても、「県費負担教職員の勤務成績の評定は、地公法第40条第1項の規定にかかわらず都道府県委員会が樹立した計画の下に市町村委員会が行うものとする」とされている。これらの規定に基づき三重県市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則(昭和33年4月30日三重県教育委員会規則第21号。以下「規則」という。)が定められており、同規則第8条第3項により、「勤務評定書は公開しないものとし、その取扱いは慎重にしなければならない」と明示されている。
(2) 三重県情報公開条例第7条第2号(個人情報)に該当
「公務員の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれのあるもの」は除かれている。教職員の勤務評定は、個人の能力や性格及び適正が評価されるものであり、これらが公開されることにより内容によっては私生活上も関係者及びその他の者との間に無用の紛争軋轢等を生じさせ、ひいては権利利益を害するおそれがある。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 実施機関の決定は開示すると特定の個人が識別されるとして非開示にしているが、当該個人は公務員(公人)であり、公務遂行に当たっての勤務評定は開示するべきである。
- 当該小学校には昨年から娘が世話になっているが、トラブルのためほぼ一年間不登校となった。請求の目的は、当該教諭が教員として適正な資質を備えているか否かを知ることであり、また教育委員会等へ改善を求めるための資料とするためである。
- 当該教諭は転勤する学校毎で問題を起こしており、本人に問題を解決する意欲がないとしか思えず、よって、学校、教諭、保護者が共同で問題を解決するよう提案している。親としては6年間も世話になる小学校教諭の評価は気になって当然であり、悪い評価しか得られない教諭ならば、教育委員会は教育や研修の体制を整えるべきである。
- 教諭個人だけを非難しているのではなく、教諭に不足している部分があれば、保護者が協力すれば、より開かれた学校づくりができる。また、校長(管理職)が適正な評価を下しているか否かも知りたい。
5 審査会の判断
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2) 条例第7条第1号(法令秘情報)の意義について
本号は、法令若しくは他の条例の定めるところによる、又は実施機関が法律上従う義務を有する各大臣その他国の機関の指示による場合の非開示を定めたものである。法令若しくは他の条例の定めるところにより公にすることができない情報は、この条例によっても開示できないことを確認的に規定するとともに、各大臣その他国の機関からの法的拘束力を持った指示により公にすることができない情報については、非開示とすることを定めたものである。
(3) 条例第7条第1号(法令秘情報)の該当性について
地方自治法第138条の4第2項では、「普通地方公共団体の委員会は、法律の定めるところにより、法令又は条例に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規程を定めることができる。」と規定されており、教育委員会においては、地教行法第14条第1項で教育委員会規則を制定することができると規定されている。
地教行法第46条において教職員の勤務評定に関する事務については、教育委員会の権限に属するものと規定されている以上、当該事務に関する規則を制定する権限も教育委員会に属しているのであり、「勤務評定書は、公開しないものとし、・・・(省略)・・・」と規定している規則第8条第3号を根拠として、条例上の法令秘情報に該当すると判断した、というのが実施機関の主張の趣旨であると認められる。
本来、条例第7条第1号(法令秘情報)の規定は、条例上の実施機関に当該情報を開示するか否かを判断する裁量の余地が認められていないことを規定したものである。本件事案の場合、規則は情報公開制度創設時点より相当以前に制定されたものであり、実施機関である教育委員会の権限に属する事務であることを否定するものではないが、同制度が定着した現在において、教育委員会が規定した規則を根拠として、条例上の法令秘情報に該当し非開示とすることの合理性を積極的に認めることはできない。
勤務評定書の持つ情報の性格を考えると、後述するように実施機関が非開示とした決定に誤りがあったとは認められないが、本号に該当するとして非開示とした実施機関の主張を当審査会として採用することはできない。
(4) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示するべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(5) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関は、「教職員の勤務評定は、個人の能力や性格及び適正が評価されるものであり、これらが公開されることにより内容によっては私生活上も関係者及びその他の者との間に無用の紛争軋轢等を生じさせ、ひいては権利利益を害するおそれがある。」としているのに対して、異議申立人は、「当該個人は公務員(公人)であり、公務遂行に当たっての勤務評定は開示するべきである。」としている。
確かに、勤務評定書に記載されている内容は、当該教職員が行った職務を通じての公務に対する貢献度を、評定者(本件の場合、学校長)が評価したものであり、このような観点からは、異議申立人が主張するとおり公務に関する情報であるといえる。 しかしながら、他方では教職員個人が個々に評価された当該個人に関する情報であるという側面があることも事実である。特に本件対象公文書は、公務上とはいえ当該個人を評価した情報であり、この点を考慮すると、公務員の職務に関する情報であるとともに、教職員個人に関する情報でもあり、実施機関が個人情報に該当するとして非開示とした決定について誤りがあったとは認められない。
したがって、本件対象公文書は、開示することにより、個人の権利利益を侵害するおそれのあるものに該当し、非開示が妥当である。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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12.12. 8 | ・諮問書受理 |
12.12.11 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 1.31 | ・非開示理由説明書受理 |
13. 2. 2 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 2. 5 | ・口頭意見陳述申出書の受理 |
13. 6.19 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第133回審査会)
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13. 7.17 | ・審議
(第135回審査会)
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13. 8. 3 | ・審議
(第136回審査会)
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13. 8.31 | ・審議 ・答申 (第137回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |