三重県情報公開審査会 答申第102号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件異議申立ての対象となった公文書(以下「本件対象公文書」という。)で開示する旨の決定をした部分のうち、「個人の印影」及び「確約書」は非開示とすべきである。その余の部分(「個人の住所、氏名」及び「個人が識別できる写真」)を開示する旨の実施機関の決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、開示請求者が平成13年3月8日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成11年地先(伊勢市内特定地番)番地に通じる赤道用途廃止申請全ての書類及び平成6年地番(伊勢市内特定地番)番地隣接する赤道(官民境界)確定に関係する全ての書類」の開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が、異議申立人(開示請求者ではない者)の情報が含まれる本件対象公文書を、開示請求者に対して部分開示をすると平成13年4月27日付けで行った決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
実施機関は、本請求に際し、異議申立人の情報が含まれる本件対象公文書を特定のうえ、公益上の理由により、異議申立人の「個人の住所、氏名」、「個人の印影」及び「個人が識別できる写真」を含む情報を開示すべきとの判断から、条例第17条第2項の規定に基づき、異議申立人に対する意見照会を経て、当該部分を含む情報を開示する旨の本決定を行った。なお、実施機関は、本決定において、「戸籍の附票の写し」、「実印の印影」及び「印鑑登録証明書」については、条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして、非開示としている。
実施機関は本決定を行うと同時に、異議申立人に対して条例第17条第3項の規定に基づき、当該部分を含む情報を開示する旨の通知をしたところ、本件異議申立てが提起されたものである。
また、本請求を行った開示請求者には、平成13年5月11日付けで、本件異議申立てに係る決定に至るまで開示を停止する旨の通知がなされている。
3 実施機関の開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を部分開示決定したというものである。
今回実施機関が条例第10条に該当するとして開示しようとしたのは、「個人の住所、氏名」、「個人の印影」及び「個人が識別できる写真」である。
本件事案については、本件対象公文書の対象である里道には約40世帯の地区全住民へ水を供給する水道管が埋設され、舗装もされた生活道路となっている。また、この里道の通行をめぐって、仮処分事件の紛争が起きており、地区住民全体の問題に発展していた。
今回の開示請求に関しては、特殊な事情、状況を考慮し、上記情報を開示することの公益性がより高いという行政判断をし、条例第10条に規定するとおり、公益上の理由による開示をする必要があるとの判断から本決定を行ったものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
当場所とは無関係であるが、個人資産の件で、別途裁判中である。裁判終結後の開示については問題はないが、本件対象公文書そのものが部分的にであれ公開されてしまうと、再度裁判所へ書類等の提出があり、裁判そのものが長引くだけである。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は、異議申立ての対象となっている部分は、個人情報ではあるが、条例第10条に該当し、公益上開示することが適当と認められるため、本決定が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
一方、開示請求に係る公文書に第三者に関する情報が記録されているときに、当該第三者の権利利益を保護し開示の是非の判断の適正を期するために、開示決定等の前に第三者に対して意見書提出の機会を付与すること、及び開示決定を行う場合に当該第三者が開示の実施前に開示決定を争う機会を保障するための措置についても定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)条例第10条(公益上の理由による裁量的開示)の意義について
本条は、第7条各号により開示が禁止されている情報について、実施機関の高度な行政的判断により裁量的開示を行うことができることを明確にしたものである。
(3)条例第10条の該当性について
実施機関が本決定において、公益上開示する必要があると判断したのは、「個人の住所、氏名」、「個人の印影」及び「個人が識別できる写真」である、と説明している。
これらの情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報ではあるが、本件対象公文書の対象である里道には約40世帯の地区全住民へ水を供給する水道管が埋設され、舗装もされた生活道路となっているとともに、この里道の通行をめぐって、仮処分事件の紛争が起きており、地区住民全体の問題に発展していたことから、公益上開示すべきであるとの判断をしたものであると、実施機関は主張している。
実施機関が公益上開示する必要があると判断した部分は、確かに特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報ではあるが、開示されることにより、里道の用途廃止手続き等に関与したことが判明するだけであり、それだけでは、一般にプライバシー性が高く、特に保護すべき情報であるとは到底いえない。また、異議申立人も、自身のプライバシー保護を理由として本件異議申立てを提起しているわけではない。特に本件事案の場合、実施機関が主張するとおり、当該里道が地区住民の生活に影響を及ぼす可能性があることから、公益上開示すべきであると判断したものであり、以下で述べる「個人の印影」にかかる部分を除いて、実施機関の本決定について誤りがあったとは認められない。
なお、異議申立人は、本件対象公文書そのものが部分的にであれ開示されてしまうと、別途係争中の裁判に開示された書類等が提出され、裁判の長期化を招くおそれがある旨、開示された場合の弊害を危惧している。しかし、そもそも情報公開制度は、その請求の目的を問わない制度であり、開示された情報を適正に使用する限り、使用に関する制限は設けられていない。仮に開示請求者が、開示された情報を裁判所に提出することがあっても、このような例は珍しくなく、制度の趣旨からみて適正な使用の範囲内であることは明らかである。したがって、この点についての異議申立人の主張を認めることはできない。
ただし、本件対象公文書中に押印された「個人の印影」については、条例第7条第2号に規定する個人に関する情報であり、また、条例第10条に該当し公にすることが必要であると認められる情報には該当しないため、開示する必要性は認められない。
また、実施機関が開示する旨の決定をした部分のうち、「確約書」については、里道の用途廃止に関する異議申立人の個別の事情が記載されているものであり、条例第7条第2号に規定する個人情報に該当し、公益上公にすることが必要であると認められる情報には該当しない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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13.5.15 | ・諮問書の受理 |
13.5.16 | ・実施機関に対して開示理由説明書の提出依頼 |
13.5.29 | ・開示理由説明書の受理 ・異議申立人に対して開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13.7. 6 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の開示理由説明の聴取 ・審議 (第134回審査会)
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13.8. 3 | ・審議 ・答申 (第136回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。