三重県情報公開審査会 答申第101号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書(以下「本件対象公文書」という。)のうち、当審査会が別紙1に示すとおり開示すべきであるとした部分を開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年12月25日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「津市内の農道(里道)の境界確定及び用途廃止後通行できなくなった経緯が分かる一切の情報」との開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成13年1月9日付けで行った決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、実施機関は、当初全ての公文書を開示する際に使用する開示決定通知書の様式により異議申立人あて通知をしたが、開示当日非開示部分があることを説明のうえ、開示をした。異議申立人に対し行った開示決定の通知行為は事務的な誤りによるものであって、事実上は部分開示決定であった、と実施機関は説明している。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を部分開示決定したというものである。
(1) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
条例第7条第2号を理由に非開示とした情報は、「個人の住所・氏名」、「個人の印影」、「特定の個人であると識別できる写真」、「印鑑登録証明書」、「個人名義の委任状」、「個人名義の確約書」、「不動産売買契約書」、「上申書」である。
これらは、いずれも開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報である。
(2) 条例第7条第2号ただし書きの該当性について
ア.今回非開示とした情報は、いずれも「法令若しくは条例の規定により公にされ、又は公にすることが予定されている情報」にはあたらないことは明らかである。また、当該個人はその個人情報が他人に公表されることは通常予定していないもので、「慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」にもあたらず、本号ただし書きイには該当しない。
イ.一般の個人が自身の所有土地の財産管理のために申請をし、行われた田と田の間に存する里道という認定外道路の境界立会に係る書類、小規模住宅団地の開発に伴う里道の用途廃止に係る書類の開示のもつ公益性は、相対的に低いものと言わざるを得ない。個人が公表を望まない個人のプライバシーに関する情報が一旦、他人に知られてしまえば、それを元の状態に戻すことは困難であることを踏まえて、開示の公益性と個人のプライバシーに関する情報の開示により特定識別される個人の不利益を比較衡量した場合、本件の場合、開示することの公益が開示による個人の不利益よりも大きいとは到底いえないことは明らかである。よって、非開示とした情報は「人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため公にすることが必要であるとは言い難く、本号ただし書きロにも該当しない。
(3) 平成11年には、委任状・境界確認書の個人の住所・氏名・印影の全部開示を行うべきであるとする情報公開審査会の答申(三重県情報公開審査会答申第66~68号)を受けて全面開示を実施した前例があるが、これは、委任状等の書類の偽造疑惑や告訴による刑事事件への発展等特殊な事情のあった事例であり、この前例があるからといって、一律に全ての開示請求において、個人の住所・氏名・印影の全部開示が行われるものとすべきでなく、個々の事案を勘案して判断すべきものと考える。
本件の場合は、前例のような特殊事情のある事例ではなく、開示の公益性が個人情報の開示による不利益の危険性よりも大きいとは認められないものと判断して、本決定をしたものである。
(4) なお、当該決定は部分開示決定であり、本来は「公文書部分開示決定通知書(施行規則第3号様式)」で通知すべきであったにもかかわらず、過誤により「公文書開示決定通知書(施行規則第2号様式)」で通知したものであり、開示日当日に通知文書の過誤があったこと並びに実際の行政処分は部分開示決定であることを説明している。したがって、異議申立人が主張する全面開示決定はそもそも当初より存在せず、実施機関の行政処分行為は部分開示決定であった。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
(1) 実施機関は、非開示部分は個人情報に該当すると主張しているが、全部の開示決定をしておきながら、開示日当日においてその一部を非開示としたのは矛盾きわまる違法な処分である。
(2) 本件里道の用途廃止は、異議申立人の知らない間に同人の同意をとることもなく断行されたものである。その結果、不便な一方通行を強いられることとなった。異議申立人が、用途廃止された里道の自由通行権を侵害されたことについてその真相を知りたいのは、権利者として当然のことであり、誰が同意をしたか、誰が同意をしていないのかは、本件用途廃止が適法に行われたか否かを検証する資料として欠くことができないものであり、用途廃止の手続きの適法性のチェックという公益上の要請を満たすものである。
(3) 過去の同趣旨の開示請求において、全ての情報が開示されているにもかかわらず、本件のような里道に関して、境界確認や用途廃止の手続書類中の個人の同意書や写真の中の個人の映像までが非開示となっているのは、過去の非開示の誤りの繰り返しであり、明らかに誤った決定である。
5 審査会の判断
本件対象公文書については、実施機関は条例第7条第2号(個人情報)に該当するため本決定が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1) 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
なお、異議申立人は、実施機関が一旦は全部の開示決定をしておきながら、開示日当日においてその一部を非開示としたのは矛盾きわまる違法な処分であるとして、処分行為そのものの違法性を主張している。異議申立人に対し行った開示決定の通知行為は、明らかに事務的な誤りであり、情報公開制度の信頼性確保のためにも、今後このような不適切な事務処理が繰り返されることのないよう、実施機関に対しては猛省が求められるが、当審査会としては、異議申立人に対して実際に公開されなかった部分があったことから、実施機関の本決定は事実上の部分開示決定であったものとみなし、実施機関が開示をしなかった部分が条例に即して適当であるか否かを判断することとする。
(2) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
本号は、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨の規定であり、プライバシー保護のための非開示条項として、個人の識別が可能な情報か否かによると定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。そこで、個人識別情報を原則非開示とした上で、個人の権利利益を侵害せず非開示にする必要のないもの、及び個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきものをただし書で例外的事項として列挙する個人識別情報型を採用している。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
実施機関が本決定において非開示としたのは、「個人の住所・氏名」、「個人の印影」、「特定の個人であると識別できる写真」、「印鑑登録証明書」、「個人名義の委任状」、「個人名義の確約書」、「不動産売買契約書」、「上申書」である。
これらの情報は、特定の個人が識別され、又は識別され得ることになる個人に関する情報であることは明らかであり、本号本文に該当する。
また、本号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイに該当して開示すべき情報とは認められない。
次にただし書きロに該当するか否かについて検討する。
本件対象公文書中に記載の個人情報のもつ公益性は、相対的に低いものと言わざるを得ず、開示の公益性と個人のプライバシーに関する情報の開示により特定識別される個人の不利益を比較衡量した場合、本件事案の場合、開示することの公益が開示による個人の不利益よりも大きいとは到底言えない、と実施機関は主張している。
確かに、「特定の個人が識別され得るもの」を個人情報として原則非開示としている本規定からすると、実施機関が非開示とした情報は、極めて識別性が高く、個人情報として保護すべき必要性が高いようにも解される。
しかし本来、本規定が保護しようとしているのは、個人のプライバシーであるが、同概念が未成熟で類型化することが困難であるため、識別可能なものを広く個人情報として、とりあえず保護の対象にしたものである。したがって、識別性が高いからといって、必ずしもプライバシー性が高いとはいえない。
本件情報は、識別性は非常に高いものであるが、開示されることにより、境界確定、里道の用途廃止手続き等に関与したことが判明するだけであり、それだけでは、一般にプライバシー性が高く、特に保護すべき情報であるとは到底いえない。
そして、異議申立人が主張するとおり、誰が同意をしているのか、誰が同意をしていないのかについてその真相を知りたいのは、権利者として当然のことであり、本件用途廃止が適法に行われたか否かを確認するという意味から公益性があるということは否定できない。
したがって、本号ただし書きロの規定が適用される可能性があるので、以下、個々の情報について、これを検討する。
「個人の住所・氏名」は、異議申立人が主張するとおり、本件用途廃止、境界確定が適法に行われたか否かを確認するうえで、誰が同意をなし、誰が同意をしていないのかを知るためには欠くことのできない情報であるといえる。したがって、開示することの公益が優越するため開示すべきものと判断される。
前述のとおり、本件用途廃止、境界確定に関与した「個人の住所・氏名」を開示すべきであると判断する以上、境界立会の際に撮影された「特定の個人であると識別できる写真」、境界立会を第三者に委任した「個人名義の委任状」についても、以下で述べる「個人の印影」を除いては非開示とすべき理由がない。
一方、「個人名義の確約書(戸籍謄本を含む。)」、「不動産売買契約書」、「上申書」については、関係者から当該個人が用途廃止、境界確定に関与する正当性を示すために提出されたものであり、その内容は、各々の関係者の個別の事情が記載されている。これらの情報は、個人に関する情報であり、ただし書きロに該当し公にすることが必要であると認められる情報には該当しない。ただし、「上申書」に添付されている閉鎖登記簿謄本は、法務局において誰もが閲覧できる文書であり、非開示とすべき理由はない。
また、本件対象公文書中に押印された「個人の印影」、「印鑑登録証明書」及び境界確認申請書に記載の「個人の連絡先」についても、個人に関する情報であり、また、ただし書きロに該当し公にすることが必要であると認められる情報には該当しないため、非開示が妥当である。よって、当審査会が別紙1に示すとおり開示すべきであるとした部分を開示すべきである。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1-1
※左右にフリックすると表がスライドします。
開示請求の対象となった公文書 | 実施機関の本決定 | 審査会の判断 | |||
---|---|---|---|---|---|
開示 | 部分開示 | 非開示 | 実施機関が非開示とした部分 | ||
1.境界明示(平成10年度)境界明示(境界確定報告書)※内訳は下記のとおり | |||||
境界確定報告書 | ● | 個人の住所・氏名 | 開示 | ||
境界確定書 | ● | 個人の住所・氏名・印影(実印含む。以下同様) | 印影を除き開示 | ||
位置図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
公図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
境界確認図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
印鑑登録証明書 | ● | 本決定妥当 | |||
境界確定に関する確約書(戸籍謄本添付) | ● | 本決定妥当 | |||
境界明示現地立会調書 | ● | 個人の住所・氏名 | 開示 | ||
境界立会者名簿 | ● | 個人の住所・氏名(請求人本人・官公庁職員以外) | 開示 | ||
写真 | ● | 個人の写っている部分(請求人本人部分以外) | 開示 | ||
境界立会調査事項 | ○ | ||||
境界確認申請書 | ● | 申請者住所・氏名・連絡先・印影 | 連絡先及び印影を除き開示 | ||
位置図 | ○ | ||||
公図 | ○ | ||||
公図メモ | ○ | ||||
登記簿調査表 | ○ | ||||
隣接土地所有者一覧表 | ○ | ||||
登記簿謄本 | ○ | ||||
2.境界明示(平成3年度)境界明示(境界確認報告書)※内訳は下記のとおり | |||||
境界確認報告書 | ○ | ||||
境界確認書(H3.6.13付け) | ● | 個人の住所・氏名・印影 | 印影を除き開示 | ||
確定図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
境界確認書(H2.9.18付け) | ● | 個人の住所・氏名・印影 | 印影を除き開示 | ||
確定図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
印鑑登録証明書 | ● | 本決定妥当 | |||
委任状(個人名義のもの) | ● | 印影を除き開示 | |||
境界確認証明書 | ● | 個人の住所・氏名・印影 | 印影を除き開示 | ||
地積測量図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
境界確認証明書 | ● | 個人の住所・氏名・印影 | 印影を除き開示 |
別紙1-2
※左右にフリックすると表がスライドします。
開示請求の対象となった公文書 | 実施機関の本決定 | 審査会の判断 | |||
---|---|---|---|---|---|
開示 | 部分開示 | 非開示 | 実施機関が非開示とした部分 | ||
地積測量図 | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 | ||
境界明示現地立会調書 | ● | 個人の氏名 | 開示 | ||
写真方向図 | ○ | ||||
写真 | ● | 個人の写っている部分 | 開示 | ||
境界立会調査事項 | ○ | ||||
境界確認申請書 | ○ | ||||
位置図 | ○ | ||||
地形図 | ○ | ||||
登記簿調査表 | ○ | ||||
登記簿謄本 | ○ | ||||
不動産売買契約書 | ● | 本決定妥当 | |||
写真 | ○ | ||||
上申書(閉鎖登記簿謄本添付) | ● | 本決定妥当(ただし閉鎖登記簿謄本は開示) | |||
公図(旧図) | ○ | ||||
3.(平成3年度)開発に伴う公共用財産の用途廃止について※内訳は下記のとおり | |||||
開発に伴う公共用財産の用途廃止について | ○ | ||||
用途廃止について | ○ | ||||
引継通知書 | ○ | ||||
調査書 | ○ | ||||
公図 | ○ | ||||
隣接土地所有者一覧表 | ○ | ||||
公共用財産用途廃止申請書 | ○ | ||||
津市の副申 | ○ | ||||
同意書 | ● | 個人の氏名・印影 | 印影を除き開示 | ||
位置図 | ○ | ||||
地形図 | ○ | ||||
土地利用計画平面図・用途廃止新旧対照図 | ○ | ||||
地積測量図 | ○ | ||||
写真 | ○ | ||||
登記簿調査表 | ○ | ||||
境界確認証明書 | ● | 個人の住所・氏名・印影 | 印影を除き開示 | ||
確定図(地積測量図) | ● | 印影(割印) | 本決定妥当 |
別紙2
審査会の処理経過
※左右にフリックすると表がスライドします。
年月日 | 処理内容 |
---|---|
13. 1.26 | ・諮問書の受理 |
13. 1.31 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
13. 2.23 | ・非開示理由説明書の受理 |
13. 2.27 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
13. 3. 5 | ・意見書及び口頭での意見陳述申出書の受理 |
13. 3. 6 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
13. 5.22 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第131回審査会) |
13. 5.25 | ・異議申立人からの追加意見書の受理 |
13. 5.29 | ・実施機関に対して追加意見書(写)の送付 |
13. 6. 1 | ・審議 (第132回審査会) |
13. 6.18 | ・実施機関からの追加意見書の受理 ・異議申立人に対して追加意見書(写)の送付 |
13. 6.19 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第133回審査会) |
13. 7. 6 | ・実施機関の補足説明 ・審議 (第134回審査会) |
13. 7.17 | ・審議 ・答申 (第135回審査会) |
三重県情報公開審査会委員
※左右にフリックすると表がスライドします。
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学総合政策学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |