三重県情報公開審査会 答申第96号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年7月27日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。)に基づき行った「特定の法人の県税(延滞金)の徴収に関する情報及び県税の高額滞納法人並びにその徴収状況がわかる一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成12年8月8日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 本件対象公文書について
実施機関が開示請求に対して特定した公文書は以下のとおりであり、①及び②については開示しており、本件異議申立ての対象となった公文書は非開示とした③及び④である。
①平成12年度三重県行政機構図
②平成元~12年度三重県職員録(個人情報(住所、電話番号等)を除く)
③滞納整理カード
④ 高額滞納者(一般税50万円以上・自動車税30万円以上)整理状況調
4 実施機関の非開示在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書は条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)、第6 号 (事務事業情報)及び地方公務員法第34条第1項に該当するとして非開示決定が妥当というものである。
なお、第6号(事務事業情報)については、原決定の時点では、非開示理由としていなかったが、同号にも該当するとして非開 示理由の追加をする。
- 条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
本件対象公文書には、個人の滞納者の氏名、住所及び滞納税額に関する情報が記載されており、これらは個人に関する情報であり、特定の個人が識別され、また、識別され得る情報である。 - 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
本件対象公文書には、法人等の団体及び事業を営む個人の滞納者の名称、所在地及び滞納税額に関する情報が記載されており、これらは法人に関する情報であり、これらの情報を開示することにより法人等の団体及び事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある。 - 条例第7条第6号(事務事業情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されている滞納者の情報を開示することによって、納税者の納税意欲や滞納者に対する県税事務所等の納税しょうように影響を与えるなど、円滑な事務の遂行に著しい支障を及ぼし、今後の同種の事業の適正な遂行に著しい支障が生ずるおそれがある。 - 地方公務員法第34条第1項(秘密)の該当性について
本件対象公文書に記載されている情報は、地方公務員法第34条第1項の「秘密」に該当するため。つまり、税務上知り得た納税者の秘密を目的外に使用することは、プライバシーの侵害となるものであり、納税者の秘密が外部に漏れて、その利益が害されるおそれがあるため、地方公務員法第34条第1項で守秘義務が規定されている。この「秘密」の定義については、開示することにより行政の円滑な遂行に支障が生じるものであり、個人のプライバシーのみを保護するものではなく、公務の遂行を保護する面もある。
なお、当該守秘義務については、自治省(現在の総務省)税務局長通知「地方税に関する事務に従事する職員の秘密義務について(昭和49年11月19日付け自治府第159号)(以下「自治省通知」という。)」で各都道府県知事あてに通知されており、それに基づき非開示とした。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- 大口滞納法人の滞納が、政治家がらみや暴力団がらみであるならば、実施機関が公平な徴収事務を実施していない疑いも出てくるため、県税の公平な徴収事務を監督するためにも、是非とも公開されなければならない公益上開示すべき情報である。
- 情報が一切非公開にされれば、県税の徴収事務に関する住民監査請求は、具体的金額の指摘もできず、有名無実と化してしまう。これでは、ガラス張りの県税の徴収事務が実施されているとは到底言い難く、真っ暗のカーテンの中で情実に基づく不公平な徴収事務が実施されていると疑いを県民に抱きかねさせないものである。
- 地方自治法第242条(いわゆる住民監査請求)の規定の中に、公金の賦課、徴収若しくは財産の管理を怠る事実があるときは、監査請求ができるとあり、まさしく税金の徴収などに対するものである。よって、一体どういった法人が税金を納めていないのか住民は知る必要がある。法人名が特定できない状態では、別途住民訴訟ができない。非開示となれば、住民が監視する手段としての住民監査請求、住民訴訟制度が骨抜きになってしまう。
- 個人の滞納者に関する情報については非開示もやむを得ないが、大口滞納法人に関する情報については、開示すべきである。納税しない法人を、競争上の地位や正当な利益を害するとして非開示とすることに疑問を感じる。
法人名を秘匿する必要があるというのであれば、法人名を伏せてそれ以外の情報を開示することも可能である。本件事案のような全面非開示決定は、県民の税金を扱うものでありながら、公平性が担保されていることすら県民に説明しようもない極めて横暴な決定であると言わざるを得ない。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第7条第2号(個人情報)、第3号(法人情報)、第6号(事務事業情報)及び地方公務員法第34条第1項に該当するため非開示が適当であると主張している。
なお、実施機関は、原決定で第2号、第3号及び地方公務員法第34条第1項に該当するとして非開示としたが、審査会での説明等で第6号(事務事業情報)にも該当するとして非開示理由を追加したいとしている。本来、非開示理由の付記が行政手続きの一環として条例上規定されているにもかかわらず、異議申立ての段階で追加を無制限に認めると、非開示理由の付記を求めた条例の趣旨が没却され、信義に反する結果となる。したがって、異議申立人の攻撃防御の機会を実質的に奪うような理由の追加は許されないと解すべきである。しかし、本件事案の場合、追加した理由についても十分異議申立人に意見陳述の機会が付与されているので、本件事案について再度異議申立てと再決定が繰り返されることなく紛争の一回的解決が可能となり、迅速な最終決定に資すると考えられるので、これを認めるものとする。
そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。 - 条例第7条第2号(個人情報)の該当性の判断について
本件対象公文書には、個人の滞納者に関する情報が記載されており、この部分について、実施機関は原決定で条例第7条第2号(個人情報)に該当するとして非開示としている。しかしながら、審査会での異議申立人の口頭意見陳述において異議申立人が当該部分(個人の滞納者に関する情報)については、異議申立てを取り下げる旨の陳述があったため、審査会としては、本件対象公文書における同号の該当性については判断しないこととする。 - 地方公務員法第34条第1項の適用について
実施機関は、本件対象公文書に記載されている滞納者の情報は地方公務員法第34条第1項の規定する「秘密」に該当し非開示とすることが適当であると主張している。すなわち実地機関の主張によれば、仮に条例第7号各号に規定する非開示情報に該当しないとしても、同法の「秘密」に該当する以上、非開示とすべきであるということになる。
しかし、そもそも本条例は公文書の公開を原則としており、条例上非公開と判断されるもの以外の情報は、開示しなければならないのに、これに従って開示したことが同法の守秘義務違反になる可能性があるとすれば、同条例を否定することにもつながる重大な問題である。
同法制定時には、情報公開条例等全くなく、これを想定した規定となっていないため、この点の明文の規定は欠くものの、同法第34条第1項は「職員は職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。」と「職員個人」の漏洩行為を禁止した規定であり、「実施機関」が条例に基き適法に開示することまで禁じたものではない、と解すべきである。
したがって、非開示とすべきか否かは条例第7条各号に規定する非開示情報に該当するか否かを判断すべきであって、これと別個に同法の適用を判断する必要なく、これを根拠とした非開示決定は妥当ではない。 - 第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることを定めたものである。
法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報、及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、常に開示が義務づけられることになる。 - 第3号(法人情報)の該当性について 本件対象公文書には、法人等の団体及び事業を営む個人の滞納者の名称、所在地及び滞納税額に関する情報が記載されており、これらは法人に関する情報であり、これらの情報を開示することにより法人等の団体及び事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると実施機関は主張している。
一方、異議申立人は、大口滞納法人の滞納については、納税しない法人を競争上の地位や正当な利益を害するとして非開示とすることに疑問を感じるとし、また、県民が県税の公平な徴収事務を監督するためにも、是非とも公開されなければならない公益上開示すべき情報であると主張している。
確かに本来、租税は納期限内に納めるべきものであり、それを怠った者(滞納者)の競争上の地位等を保護することに疑問を抱くことは理解できなくはない。しかし、滞納者の滞納する行為は、種々の要因により発生するものであり、滞納法人を直ちに悪質な法人であると断ずることはできない。
一方、懸命に再建を図ろうとしている企業(法人)にとっては、滞納の事実が判明すると、取引条件の変更を求められたり、取引を停止されるなどの致命的ともいえるような重大な不利益をもたらす可能性が十分にある。
したがって、本件対象公文書のうち、滞納者が特定できる部分については、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると判断できるため、第3号(法人情報)に該当する。また、県税の公平な徴収事務がなされているかを審査する必要があることは理解できるものの、情報公開条例は、広く何人に対しても開示する制度である以上、審査目的のために限定された開示というわけにもいかず、当該法人の関係者等にも広く開示され、その場合には上記のような重大な不利益をもたらす可能性があることに鑑みると、これを上回るほどの公益性も考えられず、同号ただし書きハにも該当しない。 - 第6号(事務事業情報)の意義について
本号は、県の説明責任や県民の県政参加の観点からは、本来、行政遂行に関わる情報は情報公開の対象にされなければならないが、情報の性格や事務・事業の性質によっては、公開することにより、当該事務・事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるものがある。これらについては、非公開とせざるを得ないので、その旨を規定している。 - 第6号(事務事業情報)の該当性について
本件対象公文書に記載されている滞納者の情報を開示することによって、納税者の納税意欲や滞納者に対する県税事務所等の納税しょうように影響を与えるなど、円滑な事務の遂行に著しい支障を及ぼし、今後の同種の事業の適正な遂行に著しい支障が生ずるおそれがある、と実施機関は主張する。また、税務に従事する職員は、個人のプライバシー性の高い情報や、法人の一般には知り得ない内部事情を聴取したうえで、滞納整理業務を行っており、当該情報を開示することにより、当事者等との信頼関係を損ね、反発や警戒心を招き、将来の効果的な聴取が困難となるおそれや、納税者の納税意欲を阻害するおそれがあることは否定できない。
しかしながら、納税は国民の義務であり、最終的には、強制徴収権限も認められていることからすると、滞納者の意思に必要以上に配慮し、円滑な事務の遂行に支障を及ぼす旨の実施機関の主張は、採用できない。 - 結果
以上のとおり対象公文書のうち、滞納者が特定され、又は特定され得る情報については前記第3号により、非開示とするのが妥当である。また、その他の情報についても対象公文書中に滞納者が特定され、又は特定され得る情報が混在し、個々の情報を組み合わせることによって特定が可能な情報もあり滞納者が特定できない情報だけを抽出することも困難である。
よって、対象公文書は③及び④全体を非開示とさせざるを得ず、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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12. 9. 6 | ・諮問書の受理 |
12. 9. 7 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
12. 9.19 | ・非開示理由説明書の受理 |
12. 9.20 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
12. 9.29 | ・口頭での意見陳述申出書の受理 |
13. 2.23 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第126回審査会)
|
13. 3.23 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取(第2回目) ・審議 (第128回審査会)
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13. 4.20 | ・審議 ・答申 (第129回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
※委員 | 丸山 康人 | 四日市大学経済学部教授 |
※委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において主に調査審議を行った。