三重県情報公開審査会 答申第94号
答申
1 審査会の結論
実施機関が本件異議申立ての対象となった別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)のうち「個人の氏名・住所・生年月日・職業」を非開示としたことは、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成12年3月22日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「ニホンジカの学術捕獲に関する一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成12年3月31日付けで行った部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
なお、実施機関が本件において非開示とした部分は、捕獲許可事務に係る名簿、従事者証の「氏名・住所・生年月日・職業」及び「積算単価」であり、うち「積算単価」については、実施機関が後日再検討し、異議申立人に対して資料提供により公開をした。
よって、本件異議申立ての対象は「個人の氏名・住所・生年月日・職業」の部分の非開示決定のみとなっている。
3 学術捕獲について
学術捕獲は、野生鳥獣と人間の共存を図ることを目的とした、特定鳥獣保護管理計画の策定に必要な基礎データを取得するため、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(以下「鳥獣保護法」という。)第12条の例外規定に基づき、県が実施したものである。
4 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第1号(個人情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
(1)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
捕獲許可事務に係る従事者の「氏名・生年月日・職業・住所」は個人に関する情報であって、これらを開示することにより特定の個人が識別され、又は識別され得るため、非開示が妥当である。
また、これらは条例第8条第1号ただし書きイ、ロに該当して開示すべき情報とは認められず、ただし書きハについても、これらを公にすること自体に公益性があるとは認められない。
なお、異議申立人は、「公金を使用して県民の共有財産であるニホンジカを大量捕殺するという行為は、すぐれて公益にかかわる事項であり、その情報の全てが開示されるべきである。」と主張している。しかし、今回の学術捕獲においては公金を使用しておらず、その点については説明し、理解を得ている。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から、実施機関の決定は、条例の解釈運用を誤っているというものである。
- ニホンジカの学術捕獲とは、「学術捕獲」の名を借りたメスジカの大量捕殺であり、平成12年3月18日の新聞報道がなければ、県民が知ることなく実行されていたものである。
- 県民の共有財産であるニホンジカを一部の林業家の利益のためだけに、県民の意見を徴することなく秘密裏に捕殺してしまうことは、自然環境を保全する役割を全く果たしていないのみか、自然の破壊者としての役割を果たしていることに他ならない。
- 本件は、三重県の生態系を保護し、持続的発展をしていくためにいかなるシステムの構築が必要であるのかという県の環境政策の根幹に関わる問題を提起しているもので、すぐれて公益に関わる事項であり、その情報すべてが公開されるべきである。
本来、捕獲を禁止されているニホンジカ(メス)に特別な捕獲許可を出したのであるから、従事者の責務を確保するためにも、従事者の「生年月日・職業」はともかくとして、「氏名・住所」については少なくとも公開されるべきである。
6 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第8条第1号(個人情報)に該当するので部分開示が妥当であると主張している。そこで、以下について判断する。
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
なお、本件異議申立ては、改正された三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42 号)の施行前になされた処分にかかるものであるため、改正前の条例に即して判断する。
(2)条例第8条第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。
その一方で、法令の定めるところにより何人でも閲覧できる情報、公表を目的としている情報及び許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報で公益上開示することが必要であると認められるものについては、開示することができることとしたものである。
(3)条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
実施機関が非開示としたニホンジカの学術捕獲の従事者の「氏名・住所・生年月日・職業」は個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るものであり、本号本文に該当することは明らかである。
これらが同号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイで規定している「法令の規定により、何人でも閲覧できるとされている情報」、ロで規定している「公表を目的として作成し、又は取得した情報」に該当して開示すべき情報とは認められない。
次にただし書きハで規定している「法令又は条例の規定に基づく許可、免許、届出等に際して作成し、又は取得した情報であって、公益上開示することが必要であると認められる情報」に該当するか否かについて検討する。
本件ただし書きの規定は、個人のプライバシーと公益とを比較衡量し、特定の個人が識別され、またはされ得る情報であっても、開示すべき公益を優先させる必要のある場合に限って開示するという趣旨である。確かに鳥獣保護法の例外規定に基づくニホンジカの学術捕獲そのものには、森林資源の保護と生態系の保護という双方の観点から公益性があり、学術捕獲に従事する者の責務を明確にするためにも、従事者の「住所・氏名」といった個人情報を含め、学術捕獲に関する全ての情報を公開すべきであるという異議申立人の主張も一定程度理解し得る。
しかしながら、本件事業の場合、実施機関からの協力依頼に応じた者が従事者として許可されたに過ぎず、学術捕獲の従事者の「氏名・住所・生年月日・職業」といった明らかに特定の個人が識別され得る個人情報を開示すべきとするほど、開示をすることで得られる公益があるとは認められず、ただし書きハにも該当しない。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
開示対象公文書
文書の名称 | 非開示とした部分 | 実施機関の非開示理由 | 審査会の判断 |
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鳥獣保護及狩猟ニ関スル 法律第12条の但し書きの規定に基づく許可申請について(第1回、第2回、第3回)のうち ①捕獲許可事務に係る名簿 ②従事者証 |
「氏名・住所・生年月日・職業」 | 8条1号 (個人情報) | 非開示 |
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
12. 4.12 | ・諮問書受理 |
12. 4.13 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
12. 5.19 | ・部分開示理由説明書受理 |
12. 5.23 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
12. 6.21 | ・口頭での意見陳述申出書受理 |
12.12.19 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 (第122回審査会)
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13. 2.20 | ・異議申立人の口頭意見陳述 ・審議 (第125回審査会)
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13. 3.13 | ・審議 ・答申 (第127回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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※会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
※会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
※委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学短期大学部教授 |
※委員 | 山口 志保 | 三重短期大学法経科助教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 丸山 康人 | 四日市大学経済学部教授 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
なお、本件事案については、※印を付した会長及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。