三重県情報公開審査会 答申第81号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った本件異議申立ての対象となった公文書の部分開示決定のうち「聴取内容」に該当する部分を非開示としたことは妥当である。
2 異議申立ての趣旨
- 異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年7月29日付け、9月13日付け及び9月14日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「尾鷲市内における産業廃棄物処理施設に関する業務報告書」(以下「本件対象公文書」という。別紙1)の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成11年8月4日付け、9月22日付け及び9月24日付けで行った部分開示決定(以下「原決定」という。)の取消しを求めるというものである。
- 本件対象公文書は、廃棄物対策課及び紀北県民局生活環境部の職員が産業廃棄物処理業者の操業状況を監視するため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第19条第1項の規定に基づいて、産業廃棄物処理業者に対して行った立入検査に関するものであり、その内容は、大きく「現認事項(現地において確認した事項)」、「聴取内容(現地等で関係者から聴取した内容)」及び「指導内容(事業者に指導した内容)」に分けられる。このうち、原決定において実施機関が非開示としたのは、「指導内容」及び「聴取内容」であった。
- しかし、本件と同様の事案に関する当審査会の答申(平成11年11月8日付け答申第77号、78号及び79号。以下「前答申」という。)を受け、実施機関は、平成11年11月22日付け及び11月26日付けで原決定の一部取消し決定を行っており、「指導内容」の部分については、異議申立人に対して開示しているため、異議申立ての対象は「聴取内容」の部分のみとなっている。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第5号(行政運営情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
- 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
実施機関が非開示とした「聴取内容」は、以下の理由により条例第8条第5号(行政運営情報)に該当するものである。
「聴取内容」は、現場にて事業者から聴取した情報であり、実施機関が今後の指導方針等を検討、判断するうえで必要不可欠なものであるが、必ずしも真実であるとは判断しがたく、業務報告書作成後に真実か否かが確認される事項もある。
したがって、これらの不確定な情報を開示することにより、結果的に第三者に誤った情報を提供する場合もあり、関係当事者との信頼関係が損なわれ、今後必要な情報を収集することができなくなるおそれがある。
さらに、当該事業者は、実施機関の行政指導に従い事業を実施しており、前答申で述べられているような事業者との信頼関係を悪化させてまで開示する「特段の事情」は認められないと判断される。
一方、これらの「聴取内容」を全面的に開示することは、立入検査の具体的態様を規制対象者(本件事業者及び他の処理業者)にも明らかにすることになることから、行政指導の有効な実施の妨げとなる。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で述べ、また、審査会で口頭意見陳述している異議申立ての主たる理由は次のように要約される。
- 本件産業廃棄物処理施設について
本件産業廃棄物処理施設は、住民による3年有余の監視記録によれば、廃棄物処理法の構造基準を満たさず、また、煙突以外から燃焼ガスを排出してはならないという維持管理基準に反して、有害物質を含む未処理の生ガスを間断なく排出している。よって、同施設での焼却処理が不完全燃焼していないか危惧される。 - 実施機関の対応について
異議申立人等は、実施機関にこれらの事実を何度となく指摘し、違法行為の是正を要請してきた。実施機関は立入検査を行い、事業者に指導等していることは業務日誌の中で確認できる。しかし我々が現地で目撃しているものと指導されていることが違い、実施機関の行政指導には実効性がない状態となっている。 - 本件対象公文書について
本件事業者は、水源地でこれらの汚染物質等を排出しており、下流域に生活する住民の飲み水を汚染する恐れがある。よって、本件対象公文書は、人の生命・身体・健康に関わる情報であり、また、開示することにより、事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生じるおそれがある情報ではない。
業務日誌の中で記載されている指導内容と現場の実態が違うので、事業者が何を発言しているのかを確認できるよう聴取内容についても開示すべきである。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第8条第5号(行政運営情報)に該当するので部分開示にできると主張している。そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も、非開示とすることが できるとするものである。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
「聴取内容」について、実施機関は、現場での不確定な事項を開示することにより、結果的に第三者に誤った情報を提供する場合があり、関係当事者との信頼関係が損なわれるおそれがあると主張しているが、不確定な情報であると説明したうえで開示すれば、誤解による無用の混乱を避けることができるので、実施機関のこの主張 は説得的ではない。
一方、実施機関には、立入調査権は認められているものの、事業者及び関係者に供述を強要することまではできないため、聴き取り調査には対象者の協力が不可欠と言わざるを得ない。したがって、「聴取内容」を開示することにより、事業者や関係者との信頼関係を損ね、事業者の反発や警戒心を招き、将来の効果的な聴取調査が困難となるおそれや、将来関係者から有効な情報提供を得ることが困難となるおそれも否定できない。したがって、「『聴取内容』の開示が、将来の同種の事務事業の適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」との実施機関の主張は理解できなくはない。
しかしながら、将来にわたり、事業者が行政指導等に適正に対応することが期待できないなど、実施機関の将来の情報収集活動に何ら影響を及ぼさないと認められるような特段の事情がある場合には、この限りではない。そこで、本件事案について、この特段の事情があるか否かについて判断する。
本件事案の場合、本件事業者は聴取調査等にも協力的で、有効な情報収集が行われていると実施機関は審査会において説明している。また、審査会が対象公文書をインカメラで審理したところ、実施機関の主張するとおり、本件事業者は実施機関の聴取調査等へ適正に対応していると見受けられる。
よって、本件事案については、上記特段の事情は認められないので、非開示が妥当である。 - 結論
よって、冒頭の「1 審査会の結論」のように判断する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
開示請求対象公文書
・平成11年7月29日請求分(紀北県民局生活環境部)
平成11年4月12日 | 業務報告書 |
平成11年5月18日 | 業務報告書 |
平成11年5月25日 | 業務報告書 |
平成11年7月7日 | 業務報告書 |
平成11年7月16日 | 業務報告書 |
・平成11年9月13日請求分(廃棄物対策課)
平成11年1月22日 | 業務報告書 |
平成11年3月1日 | 業務報告書 |
平成11年3月17日 | 業務報告書 |
平成11年4月12日 | 業務報告書 |
平成11年5月19日 | 業務報告書 |
平成11年6月29日 | 業務報告書 |
平成11年7月28日 | 業務報告書 |
平成11年8月13日 | 業務報告書 |
平成11年8月25日 | 業務報告書 |
・平成11年9月14日請求分(紀北県民局生活環境部)
平成11年8月20日 | 業務報告書 |
平成11年8月20日 | 業務報告書 |
平成11年8月23日 | 業務報告書 |
平成11年8月26日 | 業務報告書 |
平成11年9月1日 | 業務報告書 |
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.10.8 | ・諮問書受理 |
11.10.8 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
11.10.19 | ・部分開示理由説明書受理 |
11.10.19 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.12.13 | ・部分開示理由説明書の変更受理 |
11.12.13 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書の変更(写)の送付、 意見書の提出依頼 |
12.2.14 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 (第105回審査会)
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12.3.9 | ・審議 ・答申 (第106回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |