三重県情報公開審査会 答申第80号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示部分のうち、換地設計総括表を開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年7月28日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「中川駅周辺土地区画整理事業の仮換地の図面の写し及び関係書類」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が8月18日付けで行った決定のうち、別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)を非開示とした部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。(なお、開示請求の対象となった公文書は、嬉野町中川駅周辺土地区画整理組合(以下「組合」という。)が作成したものであり、同組合に意見を照会する必要があったため、実施機関は8月3日付けで決定期間延長の措置を執っている。)
なお、本件対象公文書は、土地区画整理法に規定する土地区画整理組合の適正な運営を図るために定められた三重県土地区画整理組合事務処理要領第12条の規定に基づき、組合が実施機関に提出したものであり、公文書部分開示決定通知書の備考欄には、「従前の状況がわかる図面(区域図)については、開示します。」との付記がされている。
3 本件事業について
本件事業は、近鉄伊勢中川駅周辺51.1ヘクタールを平成2年度から15年度にかけて区画整理するもので、平成11年12月現在99%の仮換地指定率となっている。なお、本換地は、事業完了の平成15年度までに終了する予定である。
4 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第3号(国等協力関係情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
本件対象公文書は、組合から実施機関に提出されたものであるが、土地区画整理の事業主体は組合であり、開示の可否について組合に対して意見照会をしたところ、組合から、6で後述する理由により「開示されると支障を生じる。」との回答を得た。実施機関としても、本件事業の円滑な推進を考慮すると、組合の意見には説得力があり、本件対象公文書を開示することにより組合との協力関係が著しく損なわれるおそれがある。
本決定における部分開示理由は、条例8条第3号(国等協力関係情報)であるが、本件対象公文書中には個人名及び法人名が記載されており、これは個人及び法人に関する情報である。よって、条例8条第1号(個人情報)及び第2号(法人情報)にも該当するので、部分開示理由の追加をする。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は条例の解釈運用を誤っている、というものである。
本件事業の換地処分は、一部の地権者に有利となるような優先換地が行われているという疑惑がある。組合の、「①当該公文書には個人情報が含まれており、プライバシー保護の必要があること、及び、②仮換地は本換地において変更されることもあり得るため、組合員への無用の混乱を防止する必要があること」との主張を理由に、実施機関は部分開示決定をしたが、仮に一部の地権者に優先的に換地が行われている事実があればプライバシー保護との理由は説得力を持たないし、仮換地が公正公平に実施されていれば地権者間に混乱を生じることはあり得ない。
実施機関及び組合は、本換地後は土地区画整理法に基づき関係書類の閲覧が可能であるというが、現実には、換地処分が確定していない現時点でも既に一部の土地の売買が行われており、本換地後では金銭による清算という手段でしか不利益となる地権者を救済できない。
仮換地に関する図書は、地権者に対して自己にかかる部分のみ本人に開示されているが、区域内の道路等の公共施設には補助金が投入されており、本件事業は公共性の高いものである。また、全地権者間の利害のバランスをとって進められるべきであることから、全体計画が公開されるのは当然のことである。本決定は、非開示の理由がないにもかかわらず情報を開示しない違法がある。
6 参考人の意見陳述要旨
当審査会は、審査のため必要と認め、組合に意見陳述のため審査会への出席を求めた。組合の意見を総合すると以下のとおりである。
事業区域内の土地については、個人及び法人の所有のものであり、個人及び法人の財産に関する事項であることから、個人情報及び法人情報に該当する。
仮換地処分の内容については、組合は地権者に対して本人に関する部分についてのみ開示している。最終的に換地処分が終了すれば、何人も法務局で閲覧をすることができるが、現時点は仮換地の段階であり、確定した情報とは言えず、本人以外の部分の情報を第三者が得ることになると、地権者間に不平不満など論議が広がり、事業そのものが円滑に進められなくおそれがある、いわば組合の意思形成過程の情報である。
仮換地処分については、前述のとおり本人に関する部分は地権者が知り得る状態にあり、当該処分に不服があれば、上級庁である三重県知事に対して行政不服審査法に基づく審査請求をすることが保障されている。さらに、本換地処分後は何人も内容を知ることができ、地権者相互間の従前地と従後地の変化に伴う権利の調整については、換地清算金という形で救済されることになっているので、異議申立人が主張する危惧は生じ得ない。
7 審査会の判断
本件対象公文書について、参考人である組合は、個人及び法人の情報であるとともに、組合としての意思形成過程にある情報であることから、非開示を求めたいと主張している。また、実施機関は組合からのこれらの主張を受けて、条例第8条第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第3号(国等協力関係情報)に該当するので部分開示が妥当である、と主張している。
なお、実施機関は本決定で第3号(国等協力関係情報)に該当するとして部分開示としたが、審査会での説明等で第1号(個人情報)及び第2号(法人情報)にも該当するとして部分開示理由を追加したいとしている。部分開示理由の付記が行政手続きの一環として条例上規定されているにもかかわらず、異議申立ての段階で部分開示理由の追加を無制限に認めると、非開示理由の付記を求めた条例の趣旨が没却され、信義に反する結果となる。したがって、異議申立人の攻撃防御の機会を実質的に奪うような理由の追加は許されないと解すべきである。
しかし、本件事案の場合、追加した理由についても十分異議申立人に意見陳述の機会が付与されているので、本件事案について再度異議申立てと再決定が繰り返されることなく、紛争の一回的解決が可能となり、迅速な最終決定に資すると考えられるので、これを認めるものとする。
そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。 - 第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 第2号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められる情報は、非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 第3号(国等協力関係情報)の意義について
本号は、県の行政が、国等との密接な関係のもとに執行されていることから、県と国等との協力関係、信頼関係を維持するため、開示することにより、これらの関係を損なうと認められる情報は、非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第3号(国等協力関係情報)の該当性について
組合は、個人及び法人の情報であるとともに、組合としての意思形成過程にある情報であることから、非開示を求めたいと主張している。また、実施機関は組合からのこれらの主張を受けて、条例第8条第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第3号(国等協力関係情報)を理由に別紙1の公文書を非開示としているので、これについて判断する。
ア 第1号(個人情報)及び第2号(法人情報)の該当性について
実施機関及び組合は、土地に関する情報は個人及び法人の財産権に関する情報であり、個人情報及び法人情報に該当すると主張しているが、実施機関は、本換地後は公開できるとしているとともに、一般的に土地の所有権に関する情報は法務局で何人も閲覧できるという現行制度に鑑みると、土地の所有権に関する情報は極めて 公共性が高く、プライバシー性の希薄な情報であり、また、公開することにより法人の事業活動に影響を与えるものでもないと考えられる。
したがって、実施機関及び組合が主張する、「仮換地処分の情報は個人情報、法人情報に該当し、本換地後は該当しなくなる」という理由は説得力がないと言わざるを得ない。
よって、第1号(個人情報)及び第2号(法人情報)には該当しないものと判断する。
イ 第3号(国等協力関係情報)の該当性について
実施機関は、組合に対して、開示の可否について意見照会をしたところ、「開示されると支障が生じる」との回答を得たことを理由に第3号に該当すると主張している。
本号に該当するか否かは、「単に組合の意に反するというだけでは信頼関係が損なわれるとはいえず、組合の非開示の要請に合理的な理由があるか否か」を判断する必要がある。
一般的に土地区画整理事業の実施にあたっては、地権者から種々の意見が出されることをおそれることなく、仮換地処分を含めた事業の進捗状況等についての情報を積極的に公開し、地権者の理解を得る努力が事業実施主体には望まれる。現行の土地区画整理法では、地権者に十分な情報提供がなされているとは必ずしも言い難く、仮に本件請求が地権者本人からなされたものであれば、異議申立人が主張するような一部の組合員に有利となるような優先換地が行われているという疑惑を払拭する意味からも、意思形成過程にある情報であっても積極的な情報提供をしていくことが望まれる。けだし、組合の意思は、組合員(地権者等)の意思を集約することによって形成される以上、その前提として組合員に十分な情報が提供されることは、当然というべきだからである。
しかし、本件異議申立人は、当該事業地の隣接地に居住する利害関係人であるとはいうものの、地権者本人ではない。このような地権者ではないものが、一般県民として情報公開を通じて本事業が適正かつ公正に運営されているかをチェックすることを否定するものではない。ただし、その場合にも本事業が主として権利者の利害を調整することによって目的を達成する以上、権利者の自治的な運営(利害調整)を阻害しないよう配慮しなければならない。
本件対象公文書のうち、「換地設計総括表」以外の文書は、もっぱら権利者の利害調整の対象となる情報であり、かつ組合の意思が確定的となっていない未成熟な情報である。したがって、本件事業の円滑な執行を考えれば、仮換地処分の段階である現時点で換地に係る情報を開示することは、円滑な事業の執行に影響を及ぼす、との組合の主張は理解し得る。
よって、組合の主張には合理的な理由があると認められることから、「換地設計総括表」以外の文書について実施機関が部分開示としたことは違法とはいえない。 - 結論
以上のとおり、異議申立人の請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり答申する。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
対象公文書 | 記載事項 | 実施機関の非開示理由 | 審査会の判断 |
---|---|---|---|
仮換地の指定区域表示図 | ・仮換地後の土地の指定区域及び所有者の氏名 | 1号、2号、3号 | 3号で非開示 |
換地設計総括表 | ・従前の土地の面積及び筆数 ・仮換地後の土地の面積及び筆数 ・所有者数 |
1号、2号、3号 | 開示 |
個人別仮換地集計表 | ・所有者の氏名 ・所有者毎の従前の土地の面積及び評定価額 ・所有者毎の仮換地後の土地の面積及び評定価額 ・換地率、減歩率 |
1号、2号、3号 | 3号で非開示 |
仮換地図 (適正換地率、換地率表示) |
・仮換地後の土地の指定区域及び所有者名 | 1号、2号、3号 | 3号で非開示 |
仮換地指定通知(写) | ・所有者あての文書 (従前の土地の地番、地目及び面積、仮換地後の指定位置及び面積) |
1号、2号、3号 | 3号で非開示 |
使用収益停止通知(写) | ・所有者あての文書 (従前の土地の地番、地目及び面積) |
1号、2号、3号 | 3号で非開示 |
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.9.9 | ・諮問書受理 |
11.9.9 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
11.9.17 | ・部分開示説明書受理 |
11.9.20 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.9.22 | ・意見書及び口頭での意見陳述申出書受理 |
11.10.1 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述 (第102回審査会)
|
11.11.8 | ・参考人の口頭意見陳述 ・審議 (第103回審査会)
|
11.12.20 | ・実施機関の部分開示理由補足説明の聴取 ・審議 (第104回審査会)
|
12.2.14 | ・審議 ・答申 (第105回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |