三重県情報公開審査会 答申第76号
答申
1 審査会の結論
本件異議申立ての対象となった公文書を実施機関が作成、管理していない以上、実施機関が行った不存在を理由とする非開示決定は、妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成10年12月25日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った下記の公文書の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成11年1月7日付けで行った開示決定(文書3については開示決定。文書1及び文書2については、決定通知書の備考欄に「文書が存在していません。」と記載されている。以下「本決定」という。)を取消し、文書1及び文書2(以下「本件対象公文書」という。)の開示を求める、というものである。
記
芦浜原発に関する次の書類(冷却期間1年前(平成8年7月)から)
- 県職員(出先を含む。)が出席した調査、会議(出席要請文を含む。)・・文書1
- 報告書、復命書 ・・文書2
- 出張命令簿 ・・文書3
3 芦浜原子力発電所立地問題
- 経緯
芦浜原子力発電所立地問題については、南島町が平成9年3月7日「芦浜原子力発電所建設計画の冷却期間をもうけ早期決着」を求める請願を提出し、県議会において3月21日これを採択したのを受けて、7月8日、南島町、紀勢町等の協力のもと、平成11年末を期限とする冷却期間に入った。
冷却期間中において、県は、県エネルギー問題調査会を設置し、原子力発電を含むエネルギー問題全般について調査、検討し、その状況を広く県民に情報提供するとともに、南島町長、紀勢町長、南勢志摩県民局長等をメンバーとする地域振興研究会を設置し、両町が主体となって、如何なる地域振興策が必要か検討を行うほか、当面、担当職員を現地に赴かせるなどすることとされている。 - 現地等への出張状況
エネルギー政策については、平成8年度及び9年度は企画振興部地域振興課、南勢志摩県民局南勢志摩振興事務所において、平成10年度は総合企画局政策調整課、南勢県民局企画振興部において所管されており、これらの事務所に勤務する職員がこの問題を担当していた。
情報公開請求対象期間(平成8年7月~平成10年12月)における担当職員等の南島町及び紀勢町等(以下「現地等」という。)への出張日数は、文書3によると、平成8年度79日、平成9年度49日、平成10年度64日である。
なお、異議申立人の開示請求後、担当職員の現地への出張は激減している。
4 実施機関の非開示(不存在)理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は不存在であり、本決定は妥当である、というものである。
- 三重県職員の服務に関する訓令(以下「訓令」という。)は、出張復命に関し第17条で「職員は、出張を命じられ、旅行を完了したときは、速やかに文書をもってその要領を復命しなければならない。ただし、簡易な用務については、口頭で復命することができる。」と規定している。
- 従来から県内への出張については、復命書を作成しないことを前提としているわけではなく、個々の案件について簡易なものについては、口頭で復命している。
本件の場合、簡易なものであったため、訓令第17条の但書により口頭復命を行っており、このため、本件対象公文書は作成しておらず、不存在である。 - 本件に関しては、「出張について復命書等が一切存在しないのは、これらの出張がカラ出張であり、県費の違法な支出があった。」として、別途平成11年2月25日に異議申立人から住民監査請求が提起されたが、平成11年4月30日付けの三重県監査委員による監査結果において「・・・今後、重要事案について一定期間内に数多くの出張を行う場合、個々の出張については簡易な用務で口頭復命をもって足りるものであるとしても、適宜、適切に、出張の内容、成果等を整理し、記録しておくなど、県民の県政に対する信頼及び行政の的確な継続の確保に留意して、その事務処理に万全を期するよう努められたい。」との付言もあり、これらを踏まえ、平成11年度から出張の記録を残すよう、より一層の適正な執行に努めている。
5 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は条例の解釈運用を誤っている、というものである。
- 実施機関の芦浜原子力発電所立地問題担当者は、この問題に係る冷却期間開始1年前の平成8年7月から平成10年12月にかけて二百回近くにわたり現地への出張を行っているが、本件対象公文書は一切存在しないとのことである。
- 冷却期間中であるとはいえ、芦浜原発は重要なプロジェクトであり、知事は当初から「地元の合意を前提に推進」の方針を示していることから、地元の情報収集、合意形成に向けた努力をしている筈である。そして、施策の適否や手法の決定には、その情報や地元との意見交換の積み上げがあってこそ可能であり、その間の記録が一切不存在ということはあり得ない。
また、実施機関は、平成10年度にエネルギー担当審議監の設置をはじめ、大幅な組織強化をしている。 - 新聞報道によれば、総合企画局長は「平成9年3月に県議会で冷却期間設置請願が可決されており、以後は、大きな懸案事項もなく、ただ、県エネルギー調査会等の日程調整などのためだけに現地にいっている。だから報告書を作成するほどの活動はしていなかったはず。」(平成11年2月2日産経新聞)との趣旨の発言をしているが、カラ出張ならともかく、誰に会ったかさえも記録に留める必要もない程どうでもよいことに何度も現地に行っているとは考えられない。
「・・・冷却期間・・・、以後は、・・・」という総合企画局長の発言は、現に冷却期間以前の1年間についても記録がないのだから矛盾する。情報隠しとしか考えられない。もし、復命書や報告書を作らずに「メモ」をもって処理し、政策決定の情報にしているなら、「メモ」も当然公文書として扱わなければ条例の趣旨に反するし、「住民との情報の共有」はあり得ない。
6 審査会の判断
- 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正又は適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。 - 本件対象公文書の不存在について
審査会における口頭意見陳述において、実施機関は「職員の出張の用件が事務連絡、新退任の挨拶、将来の事務円滑化のための表敬訪問等に過ぎず、訓令第17条但書の『簡易な用務』に該当するため、口頭の復命を行ってきたものであり、異議申立人が開示を求める文書は作成しておらず、存在しない。」旨主張している。
しかしながら、宿泊を伴わない県内出張とはいえほぼ丸1日を要する出張であったこと、冷却期間中とはいえ県民間に対立のある芦浜原発問題に関する出張であったこと、本問題が報道された後は極端に出張回数が減少していること、『簡易な用務』に過ぎないとしているのに口頭復命の内容を異議申立人に伝えようとしていないこと等を総合すると、『簡易な用務』に過ぎないとして、復命書、報告書、その他一切の文書を作成しなかったとする実施機関の主張は、如何にも不自然である。
もし仮に、実施機関の主張通りであるとすれば、継続性のある重要な事業について、今後の事務を推進するに当たり過去の経緯を把握する必要からも、また、職員の転勤に伴う事務引継ぎ等を円滑に進めるためにも、多数の出張について一切の復命書が作成されなかったことは、事務処理の怠慢と言わざるを得ない。
ただ、当審査会には、実施機関からの聴き取り調査以外に公文書の存否を確認する手段はないため、実施機関の説明が如何に不自然であっても、実施機関が公文書の存在を認めない以上、異議申立人の請求を認めることはできない。 - 結論
よって、主文のとおり答申する。
7 提言
当審査会の結論は以上のとおりであるが、県民にとって重要な情報を文書化せず、若しくは文書化してもこれを秘し、情報公開の請求の対象から除外することのないよう、各実施機関は十分に留意し、今後情報公開をより一層推進する必要がある。
県民と情報を共有し、もって県民の県政に対する理解と信頼を確保せんとする条例の趣旨に鑑みると、実施機関が取得した情報は公開請求の対象となるよう書面化される必要が認められること、取分け幾許かの出張旅費が県民等の納めた税金から支出されていることを考慮すると、納税者に行政活動を説明するためには、少なくとも出張の結果を記した復命書については「簡易な用務については口頭で復命することができる。」(訓令第17条但書)という規定を安易に適用することなく、原則文書による復命を行うなど、適切な事務処理を行うことが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.3.1 | ・諮問書受理 |
3.1 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
3.16 | ・非開示理由説明書受理 |
3.16 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
4.6 | ・口頭意見陳述申出書の受理 |
8.2 | ・書面審理 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第100回審査会)
|
8.30 | ・審議 ・答申 (第101回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |