三重県情報公開審査会 答申第75号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった別紙1の公文書の部分開示決定のうち、別紙2で審査会が開示と判断した部分については、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成10年11月5日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「上野市内に造成中のゴルフ場の事業遂行の確実性(資金面)に関する一切の情報」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成10年11月18日付けで行った別紙1の公文書(以下「本件対象公文書」という。)の部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消を求めるというものである。
なお、本件対象公文書は、ゴルフ場の開発を計画した事業者が、開発許可を受けるため実施機関に提出した許可申請書及び変更許可申請書等のうち、資金計画に関する文書である。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は条例第8条第2号(法人情報)に該当し、部分開示が妥当というものである。
- 「3.事業計画書 (2)事業規模 ニ・事業費内訳」のうち、費目細別の金額は、事業者の任意の協力に基づいて、工事内容の適切な把握等のために提出されたもので あり、第三者(特に工事入札に参加する工事施工者)にこの情報が知られると、工事 入札を行う上で、事業者に不利益を与えると認められる。
- 「資金証明書 残高証明書集計表」のうち、残高は、法令及び他の条例の規定により何人でも取得することができる情報ではなく、開示することにより、事業者の事業 活動に対し、競争上の地位その他正当な利益を害することが明らかである。
- 「資金証明書 残高証明書」のうち、科目(取引の種類、種別、種目)、口座番号(店番 口座番号)、残高(金額)及び適用欄も(2)と同様である。
- 「資金計画書 2 年度別資金計画」のうち、借入金の借入先も、(2)及び (3)と同様である。これらを開示することが、事業活動によって生ずる危害から他人の生命、身体を保護するために必要であるとも、また、違法又は著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するために必要であるとも認められない等、法人内部の情報を開示する根拠にはならず、公益性確保の観点からの開示には該当しない。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は条例の解釈運用を誤っている、というものである。
- 異議申立人は、同ゴルフ場近辺に居住する住民である。
- 最高裁判所平成9年1月28日第3小法廷判決は、都市計画法第33条第1項第7号に基づき、崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者には、開発許可の取消を求める原告適格があると判示している。
- 本件ゴルフ場は、砂防指定地に造成されるもので防災工事が必要不可欠なところであり、同地域では過去に水害も起きている。
- 異議申立人はゴルフ場の開発区域周辺に山林を所有しているが、ゴルフ場の開発により、それまで利用していた道路(里道と市道)が廃止されたため、同山林に行くには、ゴルフ場開発業者が付け替えた道路(後に上野市に市道として移管される。)を利用せざるを得なくなった。しかるに、この道路は、のり面が何箇所かで崩落している。
- 本件ゴルフ場は、平成8年3月には、工事を中断している。(その後、小額の災害保全工事はしているものの、造成工事は行っていない。)その理由は資金が枯渇したからである。ゴルフ場開発業者には、開発を続けていくだけの資金がない。
- 異議申立人らにとっては、ゴルフ場開発業者の事業遂行能力、とりわけ防災工事の事業遂行能力や、付け替え市道の安全性の確保に関する工事の実施能力は、重大な利害関係を有する情報であって、現地をいつまでも半永久的に、工事中断のまま放置されることは許されない。
- 当初の計画と相違して開発行為が中断され、その結果、災害等が生じるおそれがある開発計画については、事業資金がディスクロージャーされることが公益に合致する。
- また、「都市計画法による開発許可制度の運用について」(昭和54年7月25日建設 省計民発第17号、民間宅地指導室長通達3)、昭和28年12月 9日付法制局一発第 112 号内閣法制局第1部長回答によると、「───与えられた許可の本旨を没却するような状況(開発行為を行う意思ないしは能力の欠如等)が生じていれば許可の根拠を失うに至ったものとして、条理上当然にこれを取消す権限を有するものと解すべきである。」との解説がなされている。
- 異議申立人が開発許可の取消の原告適格を有する者であることは明らかであり、開発事業者には、許可の取消事由もあるのだから、本件非開示情報は、2号(法人情報)に該当するとしても、ただし書のイ、ロ、ハに該当するものであり、開示されるべき情報である。
5 異議申立ての理由に対する実施機関の反論
最高裁判所判決が原告適格があると判示しているのは、開発区域内の土地から崖崩れ等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者について
- であるが、異議申立人は、ゴルフ場開発に伴い開発区域内の土地から崖崩れ等による直接的な被害を受ける場所に居住しているわけではないので、異議申立人に原告適格があるとは言えない。
- 過去の水害に対しては既に県が災害復旧工事を行っていること、また、本件ゴルフ場は、都市計画法に規定された要件を具備した上で、開発許可を受けていること等、今後、本件ゴルフ場開発を原因とする災害は考えにくい。
- 付け替え市道については、道路管理者である上野市が既に完了検査を行い、所定の手続により供用開始が行われており、通行の安全性に問題はない。
- 事業者の融資元である金融機関の破綻に伴う事業計画の見直しを理由に、平成8年11月25日から10年3月31日まで工事が中止されていたが、10年4月1日に工事は再開されている。
- 調整池・仮設沈砂池等の防災施設は施工済であり、付け替え市道も供用開始されている。また、実施機関は事業者に対し四半期毎に工事施工状況報告書の提出を求め、梅雨・台風等の大雨が予想される時期の前には現地調査も行い、工事の実施状況の把握に努めており、必要に応じて事業者の指導も行っている。
- 異議申立人には開発許可の取消を求める原告適格がなく、また、本件非開示情報は2号(法人情報)に該当し、ただし書のイ、ロ、ハのいずれにもに該当しないものである。
6 審査会の判断
実施機関は、本件対象公文書は条例第8条第2号に該当するので部分開示が妥当である、と主張している。そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正又は適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。 - 第2号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるものが記録されている公文書は非開示とすることができると定めたものである。
また、本号ただし書は、企業等の社会的責任及び公益性確保の観点から、法人等又は個人の事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体及び健康を保護し、又は違法若しくは著しく不当な事業活動によって生ずる支障から県民の生活を保護するため、開示することが必要であると認められる情報が記録されている公文書は、本号本文に該当する場合であっても、開示することができるという趣旨である。 - 第2号(法人情報)の該当性について
(1)異議申立人の地位
異議申立人は、一般県民とは異なり、自らが特別な利害関係を有し、開発許可の取消を求めるにつき、原告適格を有する旨を主張、開示の必要性を強調している。
しかしながら、本審査会は、開発許可の是非やその取消を求める原告適格の有無を判断する立場にない。また、条例は、請求の目的を問わず、関係者に限らず県民一般に情報公開請求を認めた制度である以上、開示・非開示の決定にあたっては、異議申立人の個々の事情や地位を考慮することなく、一般県民の立場で行った公開請求であると把握し、条例上の非開示事由の該当性を判断すべきである。以下、この前提に立って検討を進める。(2)本件ゴルフ場の状況
実施機関の説明によると、本件ゴルフ場に係る開発許可申請は平成3年4月30日に提出され、平成4年11月30日に許可がなされている。したがって、許可後、本件部分開示決定(平成10年11月18日)までには約6年が経過していることになる。
一方、当初の事業計画書によると、事業者は工事着工後2年間で工事を完了する予定である旨の記載があるが、この6年間の工事の進捗状況は約3割とされており、当初の計画や他のゴルフ場の造成工事と比較し、著しく遅延している。また、三重県下において、造成工事に着手後、一時中断等により、工事の遅延しているゴルフ場は他に例がないとのことである。(3) 資金計画
本来、一般に法人等の特定の事業に関する収支計画及び資金計画は、当該事業に関する財務計画であって、法人等は内部情報として管理しており、外部に公表されることを欲しないものであり、それが開示されると当該法人等の資金調達力や経営戦略が明らかとなる情報である。したがって、これらの情報が開示されると当該法人等の競争上の地位を害し、法人等に著しい不利益を与えるものであるということができる。しかしながら、上記2で述べたような事情のもとでは、異議申立人の特殊な地位を考慮するまでもなく、一般県民にとっても、自然環境の保全等の観点から、ゴルフ場完成の成否は社会的な関心事となり、その主たる要因である資金計画等は、本号ただし書きハ(イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上開示することが必要であると認められるもの)に該当すると認められる余地がある。
以下、個々の情報について判断する。3-1 「3.事業計画書 (2)事業規模 ニ・事業費内訳」のうち、費目細別の金額
これは、平成3年4月時点の計画であり、様式も概略的なものである。本決定時点(平成10年11月18日)迄には7年半余の時の経過があり、開示されたとしても、事業者に不利益が生じるとは考えられない。
よって、本号には該当しない。3-2 「資金証明書 残高証明書集計表」のうち、残高
これは、事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。しかし、それは平成2年9月30日時点という過去のものであり、また、上記2及び3で述べた事情を考慮すると、本号ただし書ハに該当するものとして開示すべきである。3-3 「資金証明書 残高証明書」のうち、科目(取引の種類、種別、種目)及び残高(金額)
これらは、事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。しかし、それは平成2年9月30日時点という過去のものであり、また、上記2及び3で述べた事情を考慮すると、本号ただし書ハに該当するものとして開示すべきである。3-4 「資金証明書 残高証明書」のうち、口座番号(店番 口座番号)及び適用欄
これらは、事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。また、本号ただし書イ、ロ、ハのいずれにも該当しない。3-5 「資金計画書 2 年度別資金計画」のうち、借入金の借入先
これは、事業者の金融機関との具体的取引関係及び資金関係に関する情報であるから、企業上の秘密に属する情報であり、本号に該当するということができる。しかし、上記2及び3で述べた事情を考慮すると、本号ただし書ハに該当するものとして開示すべきである。 - 結論
以上のとおり、異議申立人の請求は、その一部について理由があるからこれを認容し、主文のとおり答申する。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙3審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
本件対象公文書
(平成3年度)
都市計画法附則第4項の規定に基づく「開発行為許可申請書」(平成3年6月4日受付)及びゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱第8の規定に基づく「開発事業設計協議申出書」(平成3年6月4日受付)のうち事業計画書及び資金証明書────── 文書1
(平成7~10年度)
工事施工状況報告書 ────── 文書2
(平成10年度)
都市計画法第35条の2の規定に基づく「開発行為変更許可申請書」(平成10年8月7日受付)及びゴルフ場等の開発事業に関する指導要綱第8の規定に基づく「開発事業設計協議変更申出書」(平成10年8月7日受付)のうち資金計画書────── 文書3
別紙2
実施機関が非開示とした情報 | 審査会の判断と根拠 | |||
---|---|---|---|---|
文書1 | 3.事業計画書 (2)事業規模ニ・事業内訳のうち |
費目細別の金額 | 開示 | 2号に該当せず。 |
資金証明書 残高証明書集計表のうち |
残高 | 開示 | 2号ただし書きハに該当。 | |
資金証明書 残高証明書のうち |
科目(取引の種類、種別、種目) | 開示 | 2号ただし書きハに該当。 | |
口座番号(店番口座番号) | 非開示 | 2号に該当。ただし書きに該当せず。 | ||
残高(金額) | 開示 | 2号ただし書きハに該当。 | ||
摘要欄 | 非開示 | 2号に該当。ただし書きに該当せず。 | ||
文書3 | 資金計画書2 年度別資金計画のうち |
借入金の借入先 | 開示 | 2号ただし書きハに該当。 |
別紙3
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
11.1.20 | ・諮問書受理 |
1.25 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
2.1 | ・部分開示理由説明書受理 |
2.16 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
3.9 | ・部分開示理由説明書(写)に対する異議申立人の意見書受理 |
3.9 | ・実施機関に対して異議申立人の意見書(写)を送付 |
4.26 | ・実施機関の部分開示理由説明の聴取(1回目) ・審議 (第97回審査会)
|
5.18 | ・実施機関の部分開示理由説明の聴取(2回目) ・審議 (第98回審査会)
|
5.19 | ・異議申立人に対して意見書に対する実施機関の回答書を送付 |
6.21 | ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第99回審査会)
|
8.2 | ・答申
(第100回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会 長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |