三重県情報公開審査会 答申第72号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成11年2月2日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った下記文書の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が下記(2)(3)の文書(以下「本件対象公文書I II」という。)を平成11年2月16日付けで非開示とする決定を行ったため、その取消しを求めるというものである。((1)の文書については同日付けで不存在通知が、(4)の文書については同日付けで開示決定がなされている。)
記
「尾鷲市内で操業中の産業廃棄物処理施設に対し、平成10年7月18日に実施したダイオキシン類の測定(廃ガス中)に関する一切の情報」
(1)何故対象施設となったか。
(2)測定の生データ、分析結果(以下「本件対象公文書I」という。)
(3)事後の指導と回答(以下「本件対象公文書II」という。)
(4)測定に要した公費の額など
なお、本件対象公文書Iは実態把握のために公金を支出して行った測定結果であり、また、本件対象公文書IIに該当する文書として、平成10年10月30日付けの事業者に対する指導文書が存在している。
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書I IIは条例第8条第5号(行政運営情報)に該当し、非開示が妥当というものである。
- 平成9年8月29日に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成9年政令第269号。以下「改正政令」という。)及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成9年厚生省令第65号。以下「改正省令」という。)が公布され、平成9年12月1日から施行されることとなり、産業廃棄物焼却施設から排出される排ガスについてダイオキシン類の規制がされることとなった。
当該規制は、一年間の猶予期間の後、平成10年12月1日から適用されることとなったが、その間に事業者は改正政令や改正省令の構造基準に適合するよう産業廃棄物焼却施設の改善等を行うこととなった。 - 実施機関としては、過去に産業廃棄物焼却施設から排出される排ガス等の実態を把握していなかったため、当該規制の適用に先立ち、今後の当該施設への指導の参考等とするため、県下の産業廃棄物焼却施設30施設を対象として、実態把握を目的に平成10年7月から8月の間に調査を実施したものである。
なお、当該調査の実施にあたっては、産業廃棄物焼却施設を規模別、処理方式別、地域別等に分類し、任意に抽出した事業所に対し、実態調査である旨説明のうえ、協力を求め実施した。
したがって、結果を開示することにより、今後、同種の事務事業について事業者の協力が得られなくなることから、将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれのある情報であり、条例第8条第5号(行政運営情報)に該当するものである。 - なお、平成10年12月1日以降に、更に80施設を対象に産業廃棄物処理施設から排出されるダイオキシン類の測定を行政検査として実施しているが、当該検査結果については他の行政検査結果と同様に全て開示することとしている。
(平成11年6月1日付けの新聞には、実施機関が80施設の産業廃棄物焼却施設のダイオキシン類測定結果を公表したことが報道されている。)
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の決定は条例の解釈運用を誤っている、というものである。
- 実施機関は、「当該調査の実施にあたっては、産業廃棄物焼却施設を規模別、処理方式別、地域別等に分類し、任意に抽出した事業所に対し、実態調査である旨説明のうえ、協力を求め実施した。したがって、結果を開示することにより、今後、同種の事務事業について事業者の協力が得られなくなることから、将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある。」と結論づけている。
しかしながら、その一方で「平成10年12月1日以降に、更に80施設を対象に産業廃棄物処理施設から排出されるダイオキシン類の測定を行政検査として実施しているが、当該検査結果については他の行政検査結果と同様に全て開示することとしている。」と言っている。
実施機関は非開示の理由を条例第8条第5号を根拠にしているが、平成10年12月1日以降の行政検査を開示するのであれば、「今後、同種の事務事業について事業者の協力を得られなくなる。」との理由は矛盾している。 - 本件ダイオキシン類濃度測定は、公金を支出してなされたものであって、その測定結果は、県民の共有財産である。
また、人の生命・身体に影響を及ぼすおそれのある有害物質に関わる環境情報を実施機関だけが独占しておく合理性はない。
以上のとおり、本決定は、非開示の理由がないにも拘わらず情報を開示しない違法がある。
5 審査会の判断
本件対象公文書I IIについて、実施機関は、条例第8条第5号に該当するので部分開示が妥当である、と主張している。そこで、以下について判断する。
- 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正又は適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。 - 第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示にできるというものである。 - 第5号(行政運営情報)の該当性について
実施機関は、第5号を理由に本件対象公文書I IIを非開示としているので、これについて判断する。
実施機関の説明(厚生省見解)によると、「排出ガス中のダイオキシン類の規制が適用となる平成10年12月1日までに行った、ダイオキシン類の測定業務については、都道府県知事には廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「法」という。)第19条に基づく立入権はあるが、調査権はない。」というものである。
しかし、法第18条は、都道府県知事に対して、「──この法律の施行に必要な限度において、──産業廃棄物処理施設の設置者に対し、──産業廃棄物処理施設の構造若しくは維持管理に関し、必要な報告を求める──」権限を授権している。この法の目的の一つに「生活環境の保全」が謳われている(同法第1条)ことからして、都道府県知事は、廃棄物処理施設の運用により住民の生活環境の保全に支障が出ることが予想される場合には、法第18条の定める調査権を発動して、産業廃棄物処理施設の設置者から必要な報告を求めることができるはずである。実施機関(厚生省の見解)は、ダイオキシンについての規制値が明確でない段階では、この法第18条に基づく調査権としてダイオキシンに関する調査を行えないと説明する。しかし、このような説明によれば、これまで危険性が明らかではなかった有害物質の排出が新たに問題となる場合に、規制の必要性を判断するための調査すらできない(任意調査としてしかできない)ということになり、その不合理は明らかである。法第18条の調査権は、住民の生活環境の保全のために「必要な限度で」、随時、発動されるべきであると考えられる。したがって、事業者の任意の協力を得て収集した本件調査結果を開示すると、今後同種の調査について事業者の協力を得られなくなることから「将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」との実施機関の説明は妥当ではない。もっとも、強制的な調査権の有無及びその発動についての解釈は別としても、行政が事業者の任意の協力を得て行政目的を達成することは、それ自体望ましいものである。また、水質測定等と異なり、大気の測定には相当の時間を要し、その間事業者の協力が不可欠であること、更に、調査に協力した事業者のデータを開示することが、調査対象とならなかったためデータが開示されない事業者との関係において不均衡となること等を考慮すると、実施機関が開示を躊躇することは理解できなくもない。しかしながら、本件情報は県民等の健康に直接影響を及ぼす可能性のある科学的な数値データであり、開示の公益性が高いものである。
法の趣旨、産業廃棄物処理事業者の社会的責任、実施機関の使命等を総合的に考慮すると、実施機関のいう支障が仮に生ずるおそれがあるとしても、それは本号にいう「著しい」支障に該当するとは認められない。
ダイオキシンの有毒性が社会の関心事となっており、その対策が世界的な課題となっている今日、その検査結果が良好であれば、県民等の環境への不安を払拭する上で、また、不良であれば、その情報を行政のみが独占せず県民等と共有し、その解決のため協働して取り組む上で、開示が必要であると考えられる。
よって、第5号(行政運営情報)には該当しないものと判断する。 - 結論
以上のとおり、異議申立人の請求は、理由があるからこれを認容し、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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11.3.5 | ・諮問書受理 |
3.15 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
3.30 | ・非開示理由説明書受理 |
4.5 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
4.9 | ・口頭意見陳述申出書受理 |
5.18 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第98回審査会)
|
6.21 | ・意義申立人の口頭意見陳述の聴衆 ・審議 ・答申 (第99回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会 長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |