三重県情報公開審査会 答申第69号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書(詳細は別紙1対象文書参照。)の不存在通知を取消し、非開示とした情報のうち、支出関係書類については全てを開示し、議事録については次の部分を除く部分を開示すべきである。
- 平成10年3月23日の議事録のうち、企業の職員採用計画に関する発言部分
- 平成10年4月17日の議事録のうち、企業の職員採用計画に関する発言部分
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成10年10月1日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県競技力向上対策本部関係会議の議事録及び同会議開催に要した支出関係書類」(以下「本件対象文書」という。別紙1)の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)の補助機関である体育保健課長が、10月12日付けで行った不存在通知の取消しを求めるというものである。
なお、本県では、開示請求対象文書が不存在の場合は、実施機関の補助機関である課長名等により不存在通知を送付することが、三重県情報公開事務取扱要綱により定められており、本件不存在通知はこれによったものである。
当審査会では、本件不存在通知を不存在を理由とする非開示決定と把握して、判断することとする。
3 実施機関の文書不存在理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により原処分は妥当である、というものである。
- 本件対象文書の公文書性について
本件対象文書は、三重県競技力向上対策本部(以下「対策本部」という。)に属する文書であり、実施機関に属する公文書ではない。また、対策本部は、条例の実施機関ではない。
対策本部の事務局は、三重県教育委員会事務局体育保健課にあり、同本部事務局職員は、同課の職員と一部重複しているが、財団法人三重県体育協会職員も含まれており、同課職員の意思のみで事務が遂行されているわけではない。また、同本部は任意団体であるが、法人でいう理事にあたる本部員18人中、本部長は三重県教育委員会教育長であり、その他に現職教員4人が含まれているものの、同委員会と無関係の本部員が殆どを占めており、その意思決定は同委員会の意思と同一の方向性を持つとは限らない。
そのため、例えば、同課の職員が作成した議事録とはいえ、同人が自由意思で作成できるわけでなく、各本部員の意思の表れであるから、それは実施機関の文書とはいえず、実施機関が開示することはできない。議事録以外の文書についても、本来本部員会が遂行する事項について、事務的な事項を事務局に任されて行った結果の文書であるため、同様に条例上の公文書とはいえない。 - 第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第5号(行政運営情報)への該当性について
議事録等の意思形成過程を表す文書を開示した場合、各競技団体又は競技者個人の不利益に係る内容も多分に含んでいるため、プライバシーに抵触し、各団体や個人に不利益を与えることが予想される。その上、非公開で進めていた競技力向上のための対策又は作戦等が明るみに出ることにより、対外的に競技力向上に著しい支障を来たし、本来の事業目的遂行の妨げになることが考えられる。
よって、第1号、第2号及び第5号に該当する。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、次に掲げる理由から実施機関の処分は条例の解釈運用を誤っている、というものである。
- 本件対象文書の公文書性について
対策本部の事務局は三重県教育委員会事務局体育保健課にあり、同課の職員は勤務時間中に対策本部の仕事をしているはずであり、それならそれは公務であり、同課の職員が作成、取得した文書は公文書に該当するはずである。
また、県の予算を費消して実施されている事業でありながら、その支出関係書類が条例上の公文書でないというのは、県民として納得できない。 - 第8条第1号(個人情報)、第2号(法人情報)及び第5号(行政運営情報)への該当性について
対象文書の情報を個々に判断しての非開示決定ならともかく、非開示に該当する情報のあることを以て、漫然と対象文書全体を非開示とするのは、原則公開という条例の趣旨を没却するもので、誤った解釈である。
富山県では競技力向上対策に関する予算や議事録等をインターネット等で提供しているし、高知県でも原則全面公開する等、今後国体や大きな競技大会を開催する県では積極的な情報提供がなされており、実施機関が非開示とした全ての情報が競技力向上対策の実質的な秘密性に該当するものとは到底考えられない。
毎年2億円以上の県予算を費消しながら、情報の開示を行わず、県民による競技力向上対策のチェックを認めないのでは、県民からは恣意的な行政執行であると言わざるを得ない。
本件対象文書の情報は第1号、第2号及び第5号のいずれにも該当しない。
5.審査会の判断
- 基本的な考え方について
条例の目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進する、というものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、対象文書をインカメラで審査し、以下のとおり判断する。 - 本件対象文書の公文書性について
実施機関は、「本件対象文書は、三重県競技力向上対策本部員の意思を表す文書であるから、公文書でない。」と主張している。しかしながら、条例第2条第2号が、「『公文書』とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(中略)であって、実施機関において管理しているものをいう。」と規定しているこのことからすれば、実施機関以外の意思を表す文書であっても公文書となる場合がある。条例第2条第2号は、実施機関以外からの取得文書も対象公文書となるという趣旨だからである。
作成文書も取得文書も共に公文書となることからすれば、本件対象文書には公文書性が認められ、それ以上に、職務上作成した文書とみるか、取得した文書とみるかには本件の判断にあたっての実益はない。しかしながら、当審査会は、以下の理由で本件対象文書は実施機関の作成した文書である、と判断する。
実施機関は、実施機関の職員が職務上作成した文書ではないと主張しているが、一方で、本件対象文書は体育保健課の職員が作成していること、同職員は対策本部に派遣されているわけではなく、職員は同課で勤務時間中に作成し、同課で管理していることを認めている。
対策本部は県と密接な関係を有する団体であり、年間2億円以上の事業費が県の予算から支出され、また、実施機関の職員が勤務時間中に事務を行い、その事業は対策本部及び県の事業として、言わば重畳的に行われている実態から判断すると、実施機関の職員が作成した文書とみるべきである。 - 非開示情報の意義について
- 第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシ-は最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシ-の概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報が記録されている公文書は、原則として、開示しないことができると定めたものである。 - 第2号(法人情報)の意義について
本号は、自由経済社会においては、法人等又は事業を営む個人の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等又は個人の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、開示しないことができると定めたものである。 - 第5号(行政運営情報)の意義について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、開示しないことができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も開示しないことができるというものである。
- 第1号(個人情報)の意義について
- 非開示情報への該当性について
- 支出関係書類について
先ず、支出関係書類について判断する。
・第1号、第2号及び第5号への該当性について
支出関係書類としては、会議の開催に要した会議室使用料、飲物代、弁当代等の債権者からの請求書及び支出負担行為書があるが、これらには出席者名、会議の概要等の記載はなく、これらから看取しうる情報は会議の開催時、場所、所要金額のみであり、言わば会議開催の外形的事実に過ぎない。
競技力向上のため、県の職員が事務を執行し、県の予算が費消され、事業が適正かつ公正に営まれているか否か等について、一般県民が情報公開を通じて適正にチェックできるよう、担保されることは県民の県政に対する信頼を得る上で大きな意義がある一方、実施機関の非開示理由は、いずれも抽象的な蓋然性の域を出ておらず、これらを開示しても、第1号(個人のプライバシー)、第2号(法人の正当な利益)及び第5号(事務事業の公正又は適正な執行)に抵触するとは到底認められない。
よって、支出関係書類については、全てを開示すべきである。 - 議事録について
次に、議事録について判断する。
・第1号への該当性について
議事録には委員等関係者の氏名と発言内容が記載されているが、会議は県の競技力向上を目指すという目的のために開催されており、公的な場における公的な発言であり、個人の私的なプライバシ-に関する情報が記載されたものはなく、開示することにより、第1号の趣旨を逸脱するものとは認められない。
・第5号への該当性について
また、具体的な発言内容の開示により、実施機関の主張する「非公開で進めていた競技力向上のための対策又は作戦等が明るみに出ることにより、対外的に競技力向上に支障を来たし、本来の事業目的遂行の妨げになる」ような具体的な情報の記載があるものとは認め難く、また、この点に関し実施機関からは説得的な補足説明もなされなかった。
・第2号への該当性について
既述のとおり、発言内容は県の競技力向上に関するものであり、基本的に第2号の適用が問題となる余地は少ないが、発言内容のうち2箇所(平成10年3月23日と平成10年4月17日の議事録)に、委員が勤務する民間企業の職員採用計画に触れた件が見受けられた。
企業の職員採用計画は、法人の内部管理に関する情報であって開示することにより、法人等の事業活動が損なわれると認められる一方、但し書イ、ロ、ハに該当し開示することが必要であるとは認め難い。
以上のとおり、議事録には第1号及び第5号に該当する情報は認められないが、上記の企業の職員採用計画に関する発言部分については第2号に該当し、非開示とすることが妥当であると認められる。
- 支出関係書類について
- 結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の不存在通知を取消し、非開示とした情報のうち、支出関係書類については全てを 開示し、議事録については次の部分を除く部分を開示すべきである。
・平成10年3月23日の議事録のうち、企業の職員採用計画に関する発言部分
・平成10年4月17日の議事録のうち、企業の職員採用計画に関する発言部分
6.審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2(審査会の処理経過)のとおりである。
7.審査会としての提言
本事案に関し、実施機関は原処分として不存在通知を行っている。これは、三重県情報公開事務取扱要綱によるものであり、これまで情報公開条例を運用してきた多くの自治体の通常の事務処理の手法ではあるが、近年、行政手続法(平成5年法律第88号)及び三重県行政手続条例(平成8年三重県条例第1号。以下「行政手続条例」という。)が制定・施行される等、各種の申請に対しては、明確な行政処分が行われることが求められている。
現在、県では情報公開懇話会を設置し、より良い情報公開制度のあり方について検討されている模様であるが、当審査会としても、かかる不存在通知が行政処分であることを明確にするため、今後は補助機関(課長等)名による通知行為でなく、実施機関名による不存在を理由とする非開示処分とし、また、教示についても行う等、行政手続条例の趣旨に沿った運用となるよう改善を望みたい。
別紙1
対象文書
※左右にフリックすると表がスライドします。
会議の日 | 会議の名称 | 文書の種類 | |
---|---|---|---|
平成9年4月4日 | 総務委員会 | 左記の会議開催に係る議事録及び支出関係書類 (支出負担行為書及び請求書) |
|
4月14日 | 本部員会 | ||
4月17日 | 少年強化委員会 | ||
4月17日 | 成年強化委員会 | ||
6月11日 | 総務委員会 | ||
7月10日 | 少年強化委員会 | ||
8月27日 | 総務委員会 | ||
9月4日 | 少年強化委員会 | ||
10月14日 | 総務委員会 | ||
平成10年2月6日 | 総務委員会 | ||
3月23日 | 少年・成年強化委員会 | ※一部非開示妥当 | |
3月30日 | 総務委員会 | ||
4月17日 | 本部員会 | ※一部非開示妥当 | |
6月25日 | 総務委員会 | ||
9月4日 | 総務委員会 |
別紙2
審査会の処理経過
※左右にフリックすると表がスライドします。
年月日 | 処理内容 |
---|---|
10.10.23 | ・諮問書受理 |
11.2 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
11.25 | ・非開示理由説明書受理 |
11.25 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.3.9 | ・書面審理 ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第96回審査会)
|
4.26 | ・審議 ・答申 (第97回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
※左右にフリックすると表がスライドします。
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |