三重県情報公開審査会 答申第68号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書(詳細は別紙1対象公文書参照)の部分開示決定を取消し、非開示部分(別紙1)を開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成10年6月25日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った「伊勢市矢持町内における産業廃棄物処理業者の申請に係る境界確認申請書に添付されている各土地所有者の委任状及び境界立会者名簿」の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成10年7月7日付けで行った部分開示決定を取消し、実施機関が非開示とした情報のうち、事業者が作成・取得した関係地域住民等の境界立会者名簿、境界確認申請書に添付の境界立会いに関する委任状及び境界確認書(以下「本件対象公文書」という。)の開示を求めるというものである。
なお、本件委任状(個人の住所、氏名、印影)については事業者の偽造疑惑が新聞報道(平成10年7月25日等)され、隣接地権者の一人が事業者を告訴し、刑事事件となっている。
3 実施機関の部分開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により本件対象公文書を部分開示決定したというものである。
- 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
条例第8条第1号を理由に非開示とした情報は、境界立会者名簿(個人の住所、氏名)、委任状及び境界確認書(個人の住所、氏名、印影)である。
これらは個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るので、条例第8条第1号(個人情報)に該当する。
また、これらは条例第8条第1号ただし書きイ、ロに該当して開示すべき情報とは認められず、ただし書きハについても、これらの情報は純粋に個人の私的な情報であり、公にされること自体に客観的かつ具体的な公益性があるとは認められないことからハにも該当せず非開示とした。
なお、委任状について、事業者の偽造疑惑の新聞報道(平成10年7月25日等)があり、隣接地権者の一人が事業者を告訴したので、それに伴い隣接地権者全員に対して、個人の署名、印影が本人のものであるか否かを照会(平成10年7月27日)し、回答を受けた。
異議申立て(平成10年7月29日)後の平成10年9月7日再度同様の開示請求(伊勢市矢持町における国有財産との境界確認に関する資料一切(H10.7.27に照会を出した経緯、照会状、回答、委任状、境界確認書))があり、委任状及び境界確認書については、偽造疑惑問題等を考慮し、委任状を提出した隣接地権者に対して、文書により開示してもよいか否かを照会した。そして、開示に同意した者については個人の住所、氏名及び印影を平成10年10月7日に開示し、開示に同意しなかった者については引き続き非開示とした。
このように原決定では、隣接地権者全員の情報を個人情報として非開示にしたが、その後の開示請求で開示に同意した者の情報については開示しており、残りの開示に同意しなかった者については、本人の明確な意思を尊重することからも非開示の必要性は高い。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書等で述べ、また、審査会で口頭意見陳述している異議申立ての主たる理由は次のように要約される。
- 本件対象公文書は偽造されたものである。
境界確認申請書に添付の委任状は、偽造されたものであり、我々は事業者を告訴した。法定外公共用財産の境界確定事務取扱要領第16条によると、重大な問題があるときは返戻するという手続きがある。つまり境界確認の実施が不適当であるときは、その理由を記載し境界確認申請返戻通知書により当該申請書を返戻するものとなっている。しかし、実施機関は返戻しないで保管し、事業者に補正させるための機会を与えており、適正な事務処理を行おうとしていない。 - 本件対象公文書は公益上開示すべきである。
実施機関は、境界立会者名簿(個人の住所、氏名)、委任状及び境界確認書(個人の住所、氏名、印影)は個人情報に該当するとして非開示にしているが、個人情報であっても、公益上必要な情報は開示されるべきである。
秋田県知事が「林地開発許可に関する水利権者の同意書」中の個人の住所、氏名及び印影を非開示とした決定について、仙台高等裁判所秋田支部判決(平成9年12月17日)は、非開示妥当の原判決を取消し、公益上の必要があるとして同意書の非開示を違法としている。
本件非開示情報は純粋な私的な事柄についてのものではなく、また、産業廃棄物処理施設の建設という周辺の環境に重大な影響を及ぼす行為に関するものであり、今後公共用財産の用途廃止や付け替えという公的な処分に至る一連の手続きであることを考えると、これらの手続きは公開の下に進められなければならない。
このように、公益上開示することが必要であると認められる情報であり、条例第8条第1号(個人情報)ただし書きハに該当する。
5 審査会の判断
本件対象公文書について、実施機関は、条例第8条第1号(個人情報)に該当するので部分開示にできると主張している。
実施機関の説明によると、委任状及び境界確認書(個人の住所、氏名、印影)については、異議申立て後再度開示請求があり、実施機関は偽造疑惑問題等を考慮し、隣接地権者に対して文書により開示してもよいか否かを照会している。そして、開示に同意した者については個人の住所、氏名及び印影を開示し、開示に同意しなかった者については引き続き非開示としたことが認められる。
よって、異議申立て後開示された情報については、異議申立人の権利は既に救済されているので、当審査会においては、引き続き非開示となっている情報(境界立会者名簿と開示に同意しなかった者の委任状及び境界確認書)について以下のとおり判断する。
- 基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。 - 条例第8条第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
境界立会者名簿、委任状及び境界確認書には、個人の住所、氏名及び印影が記載されている。これらは個人に関する情報であり、特定の個人が識別され、または識別され得る。
また、これらが同号ただし書きに該当するか否かについて検討すると、ただし書きイ、ロに該当して開示すべき情報とは認められない。
次にただし書きハに該当するか否かについて検討すると、今回の委任状等(個人の住所、氏名、印影)については、偽造疑惑があり新聞報道もされている。また、委任状を提出した隣接地権者の一人から事業者は告訴されており、既に刑事事件になっている。このような中で周辺地域住民が情報公開請求により、一連の過程をチェックしたいと考えるのは当然のことといえる。
本件情報は、里道や水路などの地元住民に密着した公共用財産を将来用途廃止や付け替えをするための前提となる境界確認立会い等をした人の名前に過ぎず、個人のプライバシー性は相対的に低いものと言わざるを得ない。
よって、実施機関が適正な行政手続の過程を示すことは公益性が高く、条例第8条第1号(個人情報)ただし書きハに該当する。 - 結論
よって、実施機関は本件異議申立ての対象となった公文書(別紙1)の部分開示決定を取消し、非開示部分を開示すべきである。
6.審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙2審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
対象公文書
文書の名称 〔非開示・部分開示とされた文書〕 |
非開示とされた情報のうち 開示を求められた情報 |
実施機関の非開示理由 | 審査会の判断 |
---|---|---|---|
(平成6年度) 境界立会結果のうち 1境界立会者名簿 |
個人の住所、氏名 | 8条第1号 | 開示 |
(平成6年度) 境界確認申請書のうち 2個人の委任状 |
個人の住所、氏名、印影 | 8条第1号 | 開示 |
3境界確認書 | 個人の住所、氏名、印影 | 8条第1号 | 開示 |
- なお、本件対象公文書の2及び3については、異議申立て後再度開示請求があり、実施機関が開示する際、開示に同意するか否かを照会し、開示に同意しなかった者の分である。
別紙2
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
10.8.7 | ・諮問書受理 |
10.8.11 | ・実施機関に対して部分開示理由説明書の提出依頼 |
10.8.28 | ・部分開示理由説明書受理 |
10.9.8 | ・異議申立人に対して部分開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
11.2.15 | ・書面審理 ・実施機関の部分開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第95回審査会)
|
11.3.9 | ・審議
(第96回審査会)
|
11.4.26 | ・審議 ・答申 (第97回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |