三重県情報公開審査会 答申第63号
答申
1.審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、個人情報(個人の履歴に関する事項及び携帯電話の番号)を除き開示すべきである。
2.異議申立ての趣旨
異議申立人は平成10年3月18日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき「平成10年6月における県知事の予定がわかる文書」(以下「本件対象公文書」という。)の開示請求を行ったが、これに対し、三重県知事(以下「実施機関」という。なお、本答申においては、公務を遂行する個人としての知事は「知事」とし、条例の「実施機関」と区別することとする。)は4月1日付けで非開示決定(以下「本決定」という。)を行った。
異議申立ての趣旨は、本決定を取消して部分開示とするとの決定を求める、というものである。
なお、公開請求に対して、実施機関は文書の特定をしていないが、別の異議申立人が本件と同様に知事の公務日程の開示を求めて異議申立てを行った事件に対する当審査会の判断(平成10年10月2日付け第54号で答申済)を引用し、これに該当する文書を日程調整表であるとして、判断を進めることとする。
3.異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、実施機関の本決定は次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
知事の面談・調整・打合せ・交渉・渉外等の相手方の氏名や名称、件名及び場所等を開示することが条例第8条第1号(個人情報)、第4号(意思形成過程情報)及び第5号(行政運営情報)に該当するのであれば、それらを除いて開示すべきである。全面非開示としたことは条例第8条第1号、第4号及び第5号の適用を誤った恣意的な決定である。
4.実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、実施機関は当初、下記の理由により、本件対象公文書を非開示としたものである。
(1)条例第8条第1号(個人情報)に該当
日程調整表には、知事の面談の相手方が記載されており、相手方が個人である部分は、これを開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得ることとなり、条例第8条第1号に該当する。
(2)条例第8条第4号(意思形成過程情報)に該当
日程調整表には、県又は国の事務事業に係る意思形成過程において、知事が調整、打合せ等を行う予定の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられ、あるいは無用の混乱を招く等、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。
(3)条例第8条第5号(行政運営情報)に該当
日程調整表には、知事が事務事業を遂行するうえで行う交渉、渉外等の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなる等、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。
なお、実施機関は、別の異議申立人が行った類似の事案に関して当審査会が「実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書(知事の今後の公務日程及び過去1年間の公務日程に係る文書)の非開示決定を取消し、個人情報(日程調整表のうち、一般に公表・披露されることが予定されていない面談等における個人の氏名・履歴事項等個人に関する情報)を除き開示すべきである。」と答申した(上記答申第54号)ことを受け、既に日程調整表の開示を行っていることから、本決定についても、個人情報を除き開示するとの意見を、審査会の期日において陳述している。
5.審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。
条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)対象公文書(日程調整表)の特定について
実施機関の説明によると、実施機関は文書を特定せず本決定を行ったため、異議申立人の開示請求時(平成10年3月18日)に存在していた本件異議申立ての審査対象となるべき日程調整表は不明であるとして、開示請求時以降において発生した6月中の全日程調整表を対象公文書として特定し、審査会に提出した。
文書を特定せず本決定を行ったことは、県民の県政に対する理解と信頼を深めるという条例の趣旨から強く非難されるところではあるが、現時点において、実施機関に対しその特定を強く求めることには大きな意義は認められないため、当審査会は、開示請求時には存在しなかったと思われる文書についても、便宜上審査の対象に含めることとする。
(3)非開示の理由について
4(実施機関の非開示理由説明要旨)に述べたとおり、実施機関が当初主張していた非開示理由のうち、第4号及び第5号については、判断する必要はない。
一方、実施機関は、日程調整表のうち個人に関する情報については第8条第1号に該当するので、非開示にできると主張している。
そこで、第1号に該当するか否かについて判断する。
- 第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 本件文書の第1号該当性について
知事の面談等の相手方の氏名が、一般的に個人のプライバシー保護のため非開示とされるべきであるか否かについては、俄に判断の難しい問題ではある。しかし、実施機関は本件に関し相手方氏名の非開示については強く主張しておらず、また、知事の公務遂行に対する県民の関心が高い今日、特段の事情のない限り、積極的な情報開示は県民の理解を得るという意味で公益性が高いものと考えられる。当審査会において、本件対象公文書をインカメラで審査したところ、県行政に関係の深い人物との公的な面談ばかりであり、開示しても個人のプライバシー保護に欠けるような特段の事情は認められない。
なお、本件対象公文書には、個人の履歴に関する事項、携帯電話の番号が記載されているが、これらは純粋に個人のプライバシーに関する情報であり、1号の但し書イ、ロ、ハのいずれにも該当しないので、非開示が相当である。
(4)結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった本決定を取消し、個人情報(個人の履歴に関する事項及び携帯電話の番号)を除き開示すべきである。
6.当審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
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年月日 | 処理内容 |
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10.6.3 | ・諮問書受理 |
10.6.5 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
10.6.15 | ・非開示理由説明書受理 |
10.6.22 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.7.13 | ・異議申立人の口頭意見陳述申出書受理 |
10.12.8 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第93回審査会)
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11.1.12 | ・審議 ・答申 (第94回審査会)
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三重県情報公開審査会委員
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職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 早川 忠宏 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |