三重県情報公開審査会 答申第55号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった公文書の非開示決定を取消し、下記(2)③の本件対象公文書1を開示すべきである。
また、決裁後、下記(2)④の本件対象公文書2を開示することを要望する。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成9年12月16日付けで三重県情報公開条例(昭和62年三重県条例第34号。以下「条例」という。)に基づき行った、下記(1)に関する公文書の開示請求に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。なお、本答申においては、公務を遂行する個人としての知事は「知事」とし、条例の「実施機関」と区別することとする。)が平成10年1月19日付けで行った非開示決定(1月5日付けで決定期間延長の措置が執られている。)の取消しを求めるというものである。
なお、本件請求は、異議申立人が先に「知事の公務日程」の開示を求めた事案に対し、実施機関が非開示決定をしたため、(経緯は平成10年10月2日付け答申第54号を参照。)それよりも限定的な請求としてなされたものである。
本件請求に対して、実施機関は文書の特定をしていないが、審査会における実施機関の非開示理由説明及び異議申立人の口頭意見陳述から、これに該当する文書を、「本件開示請求に対応するため、秘書課(現在は知事室)が県庁の各課に照会を行った結果、回答を得て平成10年1月19日付けで起案し、異議申立人に開示を予定していた下記(2)の文書(以下「本件対象公文書1、2」という。)」であると仮定して、判断を進めることとする。
記
(1)異議申立人が開示を請求した公文書の内容
①北川正恭知事が就任以来出席した懇談会、座談会等に関する一切の情報
(名称は問わず、外部団体(民間団体)及び個人との接触・交流)
②北川正恭知事が就任以来公務時間中に出席した冠婚葬祭に関する一切の情報
(公私の別をどのようにしているのかが分かる情報)
(2)実施機関(秘書課)が起案した文書
公文書開示請求に対する回答について(知事の出席した懇談会、座談会、公務時間中に出席した冠婚葬)のうち
③各課作成(回答)の文書 ……本件対象公文書1
④異議申立人あての秘書課長名による回答文書(鑑文)
(本件対象公文書2に対する回答が記載されている。)……本件対象公文書2
3 実施機関の非開示理由説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本件対象公文書は非開示が妥当というものである。
(1)本件対象公文書1の非開示について
- 秘書課保有の「日程調整表」(平成9年11月20日付け秘第128号で非開示決定済)の記載内容と相似する部分が多く、日程調整表についての非開示理由が本件公文書にも該当するため。
- 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
本件公文書には、知事の面談の相手方が記載されており、相手方が個人である部分は、これを開示すると、特定の個人が識別され、又は識別され得ることとなり、条例第8条第1号に該当する。 - 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
本件公文書には、県又は国の事務事業に係る意思形成過程において、知事が調整、打合せ等を行った件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、行政内部の自由な意見又は情報の交換が妨げられ、あるいは無用の混乱を招く等、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第4号に該当する。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
本件公文書は、知事が事務事業を遂行するうえで行った交渉、渉外等の件名、相手方等が記載されており、これを開示することにより、その内容が類推され、関係当事者との信頼関係が損なわれ、事務事業の実施に必要な理解・協力を得ることができなくなったり、今後、必要な情報を収集することができなくなる等、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を生ずるおそれがあり、条例第8条第5号に該当する。
(2)本件対象公文書4の非開示について
日程調整表についての非開示理由が本件公文書にも該当するため。
4 異議申立ての理由
異議申立人の主張を総合すると、実施機関の処分は次に掲げる理由から、条例の解釈運用を誤っている、というものである。
(1)本件請求は、異議申立人が先に開示請求をして全面非開示の処分となったため、異議申立人が「知事が出席した会議とか会合、公表されている知事日程等、限定的な知事日程」の情報を求めたものであり、これについては開示できるものがあるとして、秘書課が各課に問い合わせをして実態を調べたものであり、開示できる公文書はある筈である。
異議申立人も、開示の方向で準備がなされていると知らされていたが、先の非開示決定に対する取消訴訟を提起した途端に非開示となった。
これは、実施機関が弁護士と相談の結果、訴訟への影響を懸念の結果、作業を中断して、限定的な知事日程についても、非開示としたものと思われるが、このような扱いは理不尽である。
(2)本件対象公文書1、2の非開示について
- 条例第8条第1号(個人情報)の該当性について
実施機関は、面談の相手方が個人であるというが、知事と公的に面談しているのは肩書を有している人物であって、肩書として記載されている団体の代表者との面談に他ならない。これは個人情報ではなく、その実質は法人情報である。これらを 個人情報であるとして、非開示にするのは違法である。
また、近時下級審においてではあるが、プライバシー性の問題にならない事案について、個人の役職・氏名の開示を命じる判決(仙台地裁 H8.7.29、大阪地裁 H9. 3.25等)が出ており、個人情報との理由の下に一切の個人名等を非開示とするのは妥当ではない。 - 条例第8条第4号(意思形成過程情報)の該当性について
調整、打合せ等の意思形成過程情報は、一定の時限的秘密性を有する情報であって、意思形成が終了すれば公開の対象となる情報であるから、仮に意思形成過程情報があるとしても、その全てを非開示にするのは違法である。
しかも、開示を求めているのは、調整、打合せ等の意思形成過程の内容ではなくて、外形的事実(何時、何処で、誰と打ち合わせたのか)であるのだから、意思形 成過程情報に該当しないのであって、調整、打合せ等の外形的事実まで意思形成過 程情報であるとした扱いは違法である。
実施機関は、相手方の開示によって、「その内容が類推されるおそれがある」というが、具体的な弊害の主張・立証はないから、そのような抽象的理由で非開示としたのは違法である。 - 条例第8条第5号(行政運営情報)の該当性について
交渉、渉外等の行政運営情報も意思形成過程情報と同様、一定の時限的秘密性を有する情報であって、事務事業が完了すれば、開示の対象となる情報であるから、仮に行政運営情報があるとしても、その全てを非開示にするのは違法である。
しかも、開示を求めているのは、交渉、渉外等の内容ではなくて、外形的事実(何時、何処で、誰と交渉したのか)であって、行政運営情報に該当しない。交渉等の外形的事実まで行政運営情報であるとした扱いは違法である。
実施機関は、相手方の開示によって、「その内容が類推されるおそれがある」というが、具体的な弊害の主張・立証はないから、そのような抽象的理由で非開示としたのは違法である。 - 実施機関が公務の公益性を否定してまでも、これを全面的に秘匿しなければならない合理的理由はない。県民に秘匿しなければならないような都合の悪い日程があるのであろうか。主権者である県民には、知事の公務日程を知る権利がある。
公務多忙を理由に、異議申立人との面談を拒否している以上、その公務日程を明らかにする必要がある。
常識的に考えても、知事の日程が、面談(個人情報)、調整・打合せ(意思形成過程情報)、交渉・渉外(行政運営情報)につきるものではなく、各種の大会へ挨拶のための出席、諸外国への訪問等に多くの時間が費やされていることは周知の事実であり、その全てを公開できないとする性質のものではないことは、誰の目にも明らかである。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方について
条例の制定目的は、県民の公文書開示を求める権利を明らかにするとともに、県民の県政に対する理解と信頼を深め、開かれた県政を一層推進するというものである。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれるなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示項目を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下について判断する。
(2)本件対象公文書1について
実施機関は、本件対象公文書1は条例第8条第1号、第4号及び第5号に該当するので、非開示にできると主張している。
そこで、各号に該当するか否かについて判断する。
- 非開示事由各号の意義について
- 第1号(個人情報)の意義について
本号は、基本的人権を尊重する立場から、個人のプライバシーは最大限保護する必要があること、また、個人のプライバシーの概念は法的に未成熟でもあり、その範囲も個人によって異なり、類型化することが困難であることから、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができる旨を定めたものである。 - 第4号(意思形成過程情報)の意義について
本号は、行政における内部的な審議、検討、調査研究等が円滑に行われることを確保する観点から定めたものである。
行政における審議等に関する情報の中には、決裁等の手続は終了していても、行政としての最終的な意思決定に至らない未確定な情報が多く含まれている。これらの情報がそのまま開示されると、行政内部の自由な意見交換が阻害されるなどのおそれがあるので、このような情報については、非開示とするものである。
また、最終的な意思決定に至った後においても、その過程における情報を開示することにより、将来の同種の審議等に支障を及ぼす場合には、このような情報も非開示とするものである。 - 第5号(行政運営情報)について
本号は、事務事業の内容及び性質からみて、開示することにより、当該事務事業の目的を失い、又は公正若しくは適正な執行ができなくなるおそれのある情報は、非開示とすることができると定めたものである。
また、反復的又は継続的な事務事業については、当該事務事業執行後であっても、当該情報を開示することにより、将来の同種の事務事業の目的が達成できなくなるもの又は将来の同種の事務事業の公正若しくは適正な執行に著しい支障を及ぼすものがあるので、これらに係る情報が記録されている公文書も非開示とするものである。
- 第1号(個人情報)の意義について
- 各号の該当性について
- 第1号の該当性について
本件における知事の面談等は、それが知事の職務としてなされるものであっても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。第1号は既に述べたとおり、個人のプライバシー保護のため、個人に関する情報であって特定の個人が識別される情報は、原則として非開示とすることができるとしているものであり、その面談等が一般に公表・披露されることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきである。
したがって、日程調整表のうち私人である相手方に係るものは、相手方が識別できるようなものであれば、原則として、同号により非開示にできる文書に該当するというべきである。
しかしながら、本件文書は異議申立人に提供するため、実施機関(秘書課以外の各課)が作成し(この段階で決裁があったものとして、公文書性が認められる。)、秘書課に提出したものであり、知事室長(現在は総合企画局長)による最終の決裁は得ていないものの、秘書課長による決裁までは得ており、公表が予定されていたものとみるべきである。
よって、第1号には該当しないというべきである。 - 第4号の該当性について
日程調整表のうち会議・会合等が記録された文書について、当該会議・会合等が第4号所定の審議、検討、調査研究等の事務に関して行われる場合であっても、日程調整表にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において、非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
よって、第4号には該当しないというべきである。 - 第5号の該当性について
日程調整表のうち会議・会合等が記録された文書について、当該会議・会合等が 第5号所定の交渉、渉外、争訟等の事務に関して行われる場合であっても、日程調整表にはその詳細な内容は記載されていないため、同文書が開示されても、特段の事情がない限り、当該又は将来の同種の事務事業の公正又は適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。また、本件においては、実施機関において開示による「著しい支障」の具体的な主張・立証はなく、また、当審査会において、非開示とされた文書をインカメラで審査したところ、この特段の事情を認め難い。
なお、実施機関は口頭意見陳述の際に、公務日程を開示すれば、面談を執拗に強要してくることが予想されたり、知事との面談を断られた者が苦情を述べることとなると述べている。住民の意思を尊重する民主主義の下では、利害関係を有する者からの種々の要求・要望は、当然に予想されるところであるが、むしろ、住民からの政策提言、陳情・請願、選挙を通じての意思表明等による行政への住民参加は積極的に推進すべき性質のものであり、知事の公務日程を明らかにすることは、主権者たる住民に選ばれた自治体の長の公務遂行状況の一端を説明することとなり、公益性が高いと認められる。
よって、第5号には該当しないというべきである。
- 第1号の該当性について
(3)本件対象公文書2について
本件対象公文書2は先に述べたとおり、知事室長(現総合企画局長)による最終の決裁は得ておらず、現時点では条例第2条第2項所定の対象公文書とは認め難い。
ただし、本件文書には条例第8条第1号、第4号及び第5号に該当する事項は記載されていない。
よって、当審査会としては、決裁後、開示することを要望する。
(4)結論
実施機関は、本件対象公文書1を開示すべきである。
また、決裁後、本件対象公文書2を開示することを要望する。
6 当審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
10.2.9 | ・諮問書受理 |
10.2.18 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
10.3.10 | ・非開示理由説明書受理 |
10.3.16 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
10.3.19 | ・異議申立人の口頭意見陳述申出書受理 |
10.8.19 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・異議申立人の口頭意見陳述の聴取 ・審議 (第88回審査会)
|
10.9.9 | ・実施機関の非開示理由説明の聴取 ・審議 (第89回審査会)
|
10.10.2 | ・審議 ・答申 (第90回審査会)
|
三重県情報公開審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 岡本 祐次 | 三重短期大学法経科教授 |
会長職務代理者 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法学部教授 |
委員 | 渡辺 澄子 | 松阪大学女子短期大学部教授 |
委員 | 室木 徹亮 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |