三重県個人情報保護審査会 答申第41号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年11月3日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の裁判に関して被告三重県らが平成○年○月○日付けで裁判所に提出した答弁書」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年12月6日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書、異議申立書及び意見書において主張している内容は、以下のように要約される。
- 被告らが平成○年○月○日付けで裁判所に提出した答弁書の、「テープを再生してみると、会議の内容とともにオーバーな演技めいた声も録音されていたため、被告○○において、原告が無断で録音していたことを会議の出席者に事情を説明するまで一時預かることにし、新しいテープを返しておくことに決めた。」と記述されている部分の訂正を求める。
- 訂正請求書に添付した録音テープの反訳書は事件直後の被告らと異議申立人との会話であるが、被告らはテープを再生するまでもなく、異議申立人に「テープを返さない。」と言っている。異議申立人は「皆さんの前で聴いてみましょう。」と言っているのに、被告らはそれを行わなかった。新しいテープを返しておく云々の話は一切出てきておらず、答弁書の記述内容とはまったく異なっている。
- 実施機関は「見解の相違である。」として訂正を行わなかったが、事実と異なることを録音テープという客観的な資料によって証明しているのであるから、「見解の相違」などではない。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立人から訂正請求があった答弁書等これらの書類については、訴訟上の主張であるから、訴訟の相手方当事者が見解に相違があるからといって、当該訴訟とは全く別の制度である個人情報保護制度を曲解して、その主張の訂正を求めることは、同制度の対象外であり、認められるものではない。
裁判制度で時間と労力をかけて事実を明らかにしようとしているものを個人情報保護条例の制度を使って同じようなことをすることは制度上無駄や矛盾がある。
個人情報保護条例の制度を適用したとしても、裁判所に提出する答弁書等は主張なので訂正請求になじまない。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった保有個人情報並びに異議申立人が提出した「訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類」、異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 保有個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
「事実の誤り」とは、氏名、住所、年齢、職歴、資格等の客観的な正誤の判定になじむ事項に誤りがあることをいい、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については、訂正請求の対象とすることはできないため、評価等に関する個人情報の訂正については、訂正を拒否することになる。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 保有個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象保有個人情報について
本件対象保有個人情報は、被告三重県らが平成○年○月○日付けで裁判所に提出した答弁書のうち、3の(1)に記載した部分である。
(5) 保有個人情報の非訂正の妥当性について
(1)で述べたとおり、保有個人情報の訂正請求権は客観的な正誤の判定になじむ事項の誤りについて認められるものであって、個人に対する評価、判断等のように客観的な正誤の判定になじまない事項については訂正請求の対象とすることはできないものである。ただし、一見評価に関する事項であると思われる場合であっても、事実に関する情報が含まれる場合があるので、十分精査した上で判断する必要がある。
異議申立人は、答弁書の「テープを再生してみると、会議の内容とともにオーバーな演技めいた声も録音されていたため、被告○○において、原告が無断で録音していたことを会議の出席者に事情を説明するまで一時預かることにし、新しいテープを返しておくことに決めた。」との記述は録音テープの反訳書の内容とは異なるとして、訂正を求めている。しかしながら、当該記述は被告○○の主観的な判断についての記述であって、客観的な正誤の判定になじむものではなく、訂正請求の対象とならないものとして非訂正決定を行うべきものであると考えられる。
実施機関は、答弁書は訴訟上の主張であるから、訴訟の相手方当事者が見解に相違があるからといって、当該訴訟とは全く別の制度である個人情報保護制度を曲解して、その主張の訂正をもとめることは、同制度の対象外であり、認められるものではないとして非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理 内容 |
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平成18年 7月 5日 | ・ 諮問書の受理 |
平成18年 8月7日 | ・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
平成18年 8月17日 | ・ 理由説明書の受理 |
平成18年 8月28日 | ・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成18年 8月31日 | ・ 意見書の受理 |
平成18年 9月6日 | ・ 実施機関に対して意見書(写)の送付 |
平成19年7月23日 | ・ 書面審理・ 実施機関の補足説明・ 審議(第48回個人情報保護審査会) |
平成19年 8月20日 | ・ 審議(第49回個人情報保護審査会) |
平成19年 9月20日 | ・ 審議(第50回個人情報保護審査会) |
平成19年10月22日 | ・ 審議(第51回個人情報保護審査会) |
平成19年11月26日 | ・ 審議(第52回個人情報保護審査会) |
平成19年12月17日 | ・ 審議(第53回個人情報保護審査会) |
平成20年1月28日 | ・ 審議(第54回個人情報保護審査会) |
平成20年2月18日 | ・ 審議(第55回個人情報保護審査会) |
平成20年3月17日 | ・ 審議(第56回個人情報保護審査会) |
平成20年4月25日 | ・ 審議(第57回個人情報保護審査会) |
平成20年5月26日 | ・ 審議(第58回個人情報保護審査会) |
平成20年6月30日 | ・ 審議・ 答申(第59回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
委員 | 安田 千代 | 司法書士、行政書士 |