三重県個人情報保護審査会 答申第40号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成19年2月8日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「平成○年○月○日及び平成○年○月○日松阪警察署に提出した被害届(加害者不明)(器物損壊罪)」の開示請求に対し、三重県警察本部長(以下「実施機関」という。)が平成19年2月15日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明
実施機関が非開示理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
刑事訴訟法第53条の2第2項は、「訴訟に関する書類」については、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」という。)の第4章(開示請求権等)の規定は適用しない旨を規定しており、条例も保護法が適用除外としている部分について同様に適用除外としている。
被害届は、犯罪捜査規範(国家公安委員会規則)第61条に、犯罪による被害の届出をする場合に作成する旨規定され、捜査の端緒として位置づけられている。
また、「訴訟に関する書類」とは、平成5年9月8日の神戸地裁判決(ママ)で「被疑事件・被告事件に関して作成された書類をいい、裁判所又は裁判官の保管している書類に限らず、検察官、司法警察員、弁護人その他第三者の保管しているものも含む。」とされている。
このことから本件保有個人情報が記載された被害届は、審査請求人が器物損壊被疑事件(加害者不明)として三重県松阪警察署に届け出て、警察官が作成し、松阪警察署が保有している文書、すなわち被疑事件に関して作成された「訴訟に関する書類」に該当するものである。
以上のことから、審査請求人が求める保有個人情報が記載された被害届は、刑事訴訟法第53条の2第2項に定める「訴訟に関する書類」に該当し、条例第64条第3項の規定により、開示請求権が適用除外とされているため非開示としたものである。
4 審査請求人の主張
審査請求人が審査請求書、意見書及び口頭意見陳述において主張している内容は、以下のように要約される。
(1) 審査請求に係る処分はつぎのとおり違法不当である。
ア 日本行政2007年4月号P41には(9)(ロ)において告訴は捜査の端緒とあり、被害届は含まれていない。
イ 被害届には自分が述べたことを記載されたものであり加害者不詳のため他人の権利を侵害することはない。
ウ 告訴に切り替えるため基礎資料として開示を求めているので正確な内容を開示するのが個人情報保護法の趣旨に合致する。
(2) 実施機関の非開示理由説明書では、刑事事件終結後においては何人も訴訟記録の閲覧を認めとあるが、犯人不詳では刑事事件となることが無く、過去の松阪署の捜査能力からみればその可能性は0に近い。また、平成5年9月8日神戸地裁判決で被疑事件を含むとされているとあるが、その訴訟は告訴するために被害届を開示するように求めたものであるかどうか疑問が残る。
5 審査会の判断
当審査会は、審査請求人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 条例第64条(適用除外)について
条例第64条第3項は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)第4章の規定の適用を受けないこととされる保有個人情報については、条例に基づく開示請求等の規定の適用を除外することを定めたものである。
刑事訴訟法第53条の2第2項は、「訴訟に関する書類」については、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律第4章(開示請求権等)の規定は適用しない旨を規定している。したがって、「訴訟に関する書類」については、条例に基づく開示請求等の規定の適用が除外されることとなる。
(2) 本件対象個人情報について
本件対象個人情報は、審査請求人が平成○年○月○日及び平成○年○月○日松阪警察署に提出した被害届である。
(3) 本件対象個人情報の条例第64条(適用除外)該当性について
審査請求人は、告訴は捜査の端緒であるが、被害届は捜査の端緒に含まれないと主張する。
しかし、捜査の端緒とは、捜査機関が捜査を開始するに当たって、犯罪があると思料する手がかりをいい、告訴に限らず被害届も含め、さまざまなものがあるとされている。
被害届とは、犯罪による被害の事実を公務員に申告するため提出する書面であって、犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)でその様式が定められており(同規範別記様式第6号)、届出人の住居、氏名、被害の年月日時、被害の場所、被害の模様などを記載するものであり、その作成に当たっては被害者等が記入して届け出る場合のほか、警察官が代書し、届出人がその内容を確認して署名、押印する場合がある。
刑事訴訟法第53条の2第2項でいう「訴訟に関する書類」については、それを定義した規定はないが、平成16年1月16日大阪地裁判決(平成14年(行ウ)156号)によると、「訴訟に関する書類」とは、「書類の性質・内容の如何を問わず、被疑事件・被告事件に関して作成された書類をいい、裁判所ないし裁判官の保管する書類に限らず、検察官・弁護人・司法警察員その他の者が保管しているものも含まれると解するのが相当である。」と判示されており、これらによると被害届も被疑事件・被告事件に関して作成された書類に該当すると認められる。
本件対象個人情報である被害届は、実施機関の説明によると、審査請求人が松阪警察署に届け出て、警察官が作成し、松阪警察署が保有しているとのことであり、訴訟に関する書類には、裁判所ないし裁判官の保管する書類に限らず、本件のように警察署で保管されているものも含まれると解されることから、本件被害届は刑事訴訟法第53条の2第2項に定める「訴訟に関する書類」に該当すると認められる。また、被疑者不明等で事件が検察庁に送致されていない場合であっても、その後の事情の変化により、被疑者が判明し、事件の送致に伴い被害届が検察庁に送られ起訴される可能性があると認められる。
したがって、条例第64条の規定に基づく適用除外として非開示とした本決定は妥当であると認められる。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成19年 5月11日 | ・ 諮問書の受理 |
平成19年 5月22日 | ・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
平成19年 6月5日 | ・ 理由説明書の受理 |
平成19年 6月8日 | ・ 審査請求人に対して理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成19年 6月19日 | ・ 意見書の受理 |
平成19年 6月21日 | ・ 実施機関に対して意見書(写)の送付 |
平成19年11月26日 | ・ 書面審理・ 実施機関の補足説明・ 審査請求人の口頭意見陳述 ・ 審議(第52回個人情報保護審査会) |
平成19年 12月17日 | ・ 審議(第53回個人情報保護審査会) |
平成20年 1月28日 | ・ 審議(第54回個人情報保護審査会) |
平成20年 2月18日 | ・ 審議・ 答申(第55回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
---|---|---|
会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
委員 | 安田 千代 | 司法書士、行政書士 |