三重県個人情報保護審査会 答申第38号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年10月23日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の裁判に関して裁判所に提出されたすべての書類」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年11月22日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書、異議申立書及び意見書において主張している内容は、以下のように要約される。
実施機関は、次の①及び②の開示請求に対して同一の資料を開示した。
①「平成○年○月○日の特定の県立学校の強盗事件の際、異議申立人が腕神経叢損傷を負って翌日から入院しているが実施機関は異議申立人の入院を「以前からあった病気によるもの」と裁判で主張している。実施機関がかかる主張の根拠としている書類のすべて」
②「平成○年○月○日の特定の県立学校の強盗事件の際、異議申立人が腕神経叢損傷を負ったが、実施機関は裁判で、異議申立人が「平成○年○月には腕神経叢損傷を負っていなかった。」と主張している。実施機関がかかる主張の根拠としている書類のすべて」
①及び②は相反する主張であり、同一の資料を根拠として示すことは不条理であることから、訂正請求を行った。
しかしながら、実施機関は、実施機関の主張であるから同一の資料とすることに不都合はないとして非訂正決定を行ったが、もとより相反する矛盾した主張を行っており、その主張は不条理である。
4 実施機関の主張
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
- 当該個人情報開示請求に係る2件の実施機関の主張は、裁判上の主張であり、非訂正決定当時は係争中であった。したがって、これら2件の開示請求に対して実施機関の主張している内容の妥当性を示すものとして、当該裁判にかかる全ての資料を開示することに不都合はない。
- 異議申立人は、実施機関が、「以前からあった病気によるもの」という主張と、「平成○年○月には腕神経叢損傷を負っていなかった。」という主張をしており、この2つの主張は矛盾していると主張しているが、開示した文書に、この文言そのものが一字一句同じというものはない。実施機関は平成○年○月○日の事件そのものがないという認識で、そこで怪我は起こりようがないという主張であり、仮に怪我が残っていたとしても事件がないのであるから、当該事件によるものではなく、以前からあった怪我であるというのが主張であって、矛盾はない。
- そもそも、裁判の争点となっていることについて、異議申立人が、個人情報保護条例の手続きにおいて裁判と同じように主張して訂正を求めることは、個人情報保護条例の制度になじまないものであって、受け入れることはできない。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった保有個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象個人情報について
本件対象個人情報は、特定の裁判に関して裁判所に提出されたすべての書類(答弁書、準備書面、証拠申し立て書等)である。
(5) 個人情報の非訂正の妥当性について
(2)で述べたとおり、条例第31条第1項により、訂正請求しようとする者は、「訂正請求の内容」(訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容)を記載した訂正請求書を提出しなければならないとされている。
しかしながら、異議申立人は、本件異議申立に係る訂正請求書において、開示請求した2つの根拠資料は矛盾し、相反する内容であるから同一の資料とすることは不条理であるというのみで、具体的に訂正が必要な箇所を示しておらず、どのように訂正すべきかについても記載していない。
したがって、本件訂正請求については手続上の要件に不備があるものとして非訂正決定を行うことが妥当であったと考えられる。実施機関は、2件の開示請求に対して実施機関の主張している内容の妥当性を示すものとして、当該裁判にかかる全ての資料を開示することに不都合はないとして、非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
なお、異議申立人が主張する矛盾について、本件対象個人情報を確認したところ、実施機関が説明するとおり、実施機関が裁判で行ったとする「以前からあった病気によるもの」という主張は、「仮に、原告主張のごとき「後遺症障害」が存在するとしても」などという仮定での主張であって、実施機関の2つの主張が矛盾するものとは認められない。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成18年 7月12日 | ・ 諮問書の受理 |
平成18年 8月7日 | ・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
平成18年8月17日 | ・ 理由説明書の受理 |
平成18年 8月28日 | ・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成18年 9月1日 | ・ 意見書の受理 |
平成18年 9月6日 | ・ 実施機関に対して意見書(写)の送付 |
平成19年5月21日 | ・ 書面審理・ 実施機関の補足説明・ 審議(第46回個人情報保護審査会) |
平成19年 6月18日 | ・ 審議・ 答申(第47回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
委員 | 安田 千代 | 司法書士、行政書士 |