三重県個人情報保護審査会 答申第37号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非訂正決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年11月15日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「異議申立人に係る第三者からの問い合わせへの回答メール」の訂正請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年12月14日付けで行った非訂正決定の取消しを求めるというものである。
3 異議申立人の主張
異議申立人が訂正請求書、異議申立書及び意見書において主張している内容は、以下のように要約される。
教頭が回答メールで、①「○○さんのHP上のここの事柄に対し、とるべき対応は、各個人が、名誉毀損で訴訟を起こすしか、方法がありません。」と私○○が名誉毀損をしたと述べ、②「私や保護者、生徒、職員一同、○○さんが免職となり、ほっとしています。」などと誹謗し、③「○○さんのHPをごらんになり、矛盾やおかしいと思われることはないでしょうか。事実をねじ曲げ、○○さんが述べたいシナリオに従い、記述しているのにすぎないと思います。」と私○○が事実を捻じ曲げ、記述していると誹謗している。
④「HP上で取り上げられたここの人が、○○さんに対し名誉毀損で告訴するしか、方法はない」と私○○が名誉を毀損したと決め付け、⑤「書きたいと思うことを好き勝手に書き、不誠実、無責任な言動を繰り返してきた○○さんは現在免職処分に対し、裁判を起こそうとしています。」と私、○○が「不誠実」「無責任」と誹謗中傷している。
⑥これら①~⑤の○○への誹謗中傷、名誉毀損についてその根拠となる資料について開示請求したが、実施機関は不存在決定をしている。
しかしながら、①、③及び④の主張について根拠を異議申立人のホームページに求めている。当然、異議申立人のホームページ上には教頭の主張する根拠となるべき資料が存在しているはずである。また、⑤で教頭は、異議申立人が「書きたいと思うことを好き勝手に書き」と主張しているのであるから、当然、異議申立人が「好き勝手に書いた」資料は存在しているはずである。②で教頭は①、③、④及び⑤を根拠に「私や保護者、生徒、職員一同、○○さんが免職となり、ほっとしています。」と主張しているのであるから、当然それらの根拠となるべき資料は存在しなければならず、不存在というなら教頭の回答メールの主張は不条理である。したがって、教頭の回答メールは創作であり、虚偽の記述であって、直ちに訂正されなければならない。
ところが実施機関は、教頭が異議申立人と同時期に勤務し、当時の体験から総合的に判断したものであるから資料が存在しなくても矛盾とは言えず、個人情報を訂正しないと決定した。しかしながら、体験のみから回答メールの主張をしたというのであれば、それは総合的な判断ではない。「総合的な判断」とは体験のみからではなく、事実を証する書類を含めての判断である。また、異議申立人のホームページの記載に関して教頭は主張しているのであるから、当然に、その記載内容を知っていなければならなく、その上でホームページで示された事実の有無について判断できるのである。実施機関の決定は根本から矛盾を含むものであり、不条理を条理と無理に言い通そうとする矛盾に満ちたものである。
4 実施機関の主張
実施機関が非訂正決定通知書、理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
異議申立人は、教頭の主張に根拠となる資料が存在しないのは不条理として、そのメールの内容が虚偽であると指摘し、その訂正を求めている。しかしながら、同メールの内容は、教頭が異議申立人と同校に勤務した経験に基づいた総合的な判断であり、資料が存在しないことは矛盾とは言えず、その判断に基づいて記述されている。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった保有個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 個人情報の訂正請求権について
条例第30条は、「何人も、条例第26条第1項又は第27条第3項の規定により開示を受けた保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、当該保有個人情報を保有する実施機関に対し、その訂正(追加及び削除を含む。)を請求することができる。」旨を規定し、実施機関から開示を受けた自己に関する保有個人情報に事実の誤りがあると認めるときは、その訂正を請求することを権利として認めている。
(2) 訂正請求の手続きについて
条例第31条第1項は、「訂正請求をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を実施機関に提出しなければならない。」と規定し、同項第5号に「訂正請求の内容」をあげ、当該事項を訂正請求書に記載すべき事項と定めている。「訂正請求の内容」とは、訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容をいう。また、同条第2項は、「訂正請求をしようとする者は、実施機関に対し、当該訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等を提示しなければならない。」と規定している。
(3) 個人情報の訂正義務について
条例第32条は、「実施機関は、訂正請求があった場合において、必要な調査を行い、当該訂正請求の内容が事実と合致することが判明したときは、当該訂正請求に係る保有個人情報が次の各号のいずれかに該当するときを除き、当該保有個人情報を訂正しなければならない。」と規定し、同条第1号で「法令等の定めるところにより訂正をすることができないとされているとき」、同条第2号で「実施機関に訂正の権限がないとき」、同条第3号で「その他訂正しないことについて正当な理由があるとき」と定めている。
(4) 本件対象個人情報について
本件対象個人情報は、異議申立人に係る第三者からの問い合わせメールに対して平成15年5月19日及び平成15年5月20日に特定の県立学校の教頭が返信した回答メールである。
(5) 個人情報の非訂正の妥当性について
(2)で述べたとおり、条例第31条第1項により、訂正請求しようとする者は、「訂正請求の内容」(訂正が必要な箇所及び訂正すべき内容)を記載した訂正請求書を提出しなければならず、同条第2項により、「訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等」を提示しなければならないのであって、条例は、訂正請求しようとする者に、自ら正しいと思料する事実について主張し証明することを求めていると考えられる。
しかしながら、異議申立人は、本件異議申立に係る訂正請求書において、教頭の主張の根拠等の資料がないのはあまりにも不条理であり、回答メールは教頭の創作であり、虚偽の記述であるというのみで、訂正が必要な箇所を示しておらず、どのように訂正すべきかについても記載しておらず、また、訂正請求の内容が事実と合致することを証明する書類等が提示されたとも認められない。
したがって、本件訂正請求については手続上の要件に不備があるものとして非訂正決定を行うことが妥当であったと考えられる。実施機関は、教頭のメールの内容は、教頭が異議申立人と同校に勤務した経験に基づいた総合的な判断により記述したとして、非訂正決定を行ったものであるが、いずれにしても非訂正決定は妥当であると認められる。
(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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平成18年 7月12日 | ・ 諮問書の受理 |
平成18年 8月7日 | ・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
平成18年8月17日 | ・ 理由説明書の受理 |
平成18年 8月28日 | ・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、 意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成18年 9月1日 | ・ 意見書の受理 |
平成18年 9月6日 | ・ 実施機関に対して意見書(写)の送付 |
平成19年5月21日 | ・ 書面審理・ 実施機関の補足説明・ 審議(第46回個人情報保護審査会) |
平成19年 6月18日 | ・ 審議・ 答申(第47回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部准教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科准教授 |
委員 | 安田 千代 | 司法書士、行政書士 |