三重県個人情報保護審査会 答申第21号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った「請求者に係る第三者からの問い合わせの手紙、それらに対する回答メール等、回答メール中の記述の根拠となる資料」についての非開示決定は取り消し、開示、部分開示又は不存在の決定をすべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成17年5月2日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「請求者に係る第三者からの問い合わせの手紙、それらに対する回答メール等、回答メール中の記述の根拠となる資料」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成17年5月11日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
実施機関は、異議申立人が開示を求めている内容について、平成16年11月5日付け教委第20-445号及び教委第20-446号、平成17年4月19日付け教委第20-55号、同月28日付け教委第20-75号で、部分開示、不存在等を決定し、通知している。このように同一内容の開示請求を繰り返し行う異議申立人の行為は権利の濫用に当たるとして、非開示決定を行ったものである。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書及び意見書において主張している異議申立ての主たる理由は、以下のように要約される。
(1) 第三者からの問い合わせに対する実施機関の回答は十分なものでなかったにもかかわらず、多くの方々にHP全体をよく見ていただき、矛盾やおかしな点を分かっていただいたはずはないから、実施機関が既に開示したと主張する資料は、異議申立人が開示を求めている資料ではない。したがって、異議申立人は何ら権利の濫用をしていない。
(2) 実施機関は、本件回答メールのうちの他の記述の根拠等に関して異議申立人が別途平成17年9月2日付けで行った開示請求に対し、同年10月17日付け教委第20-341号で不存在決定を行っているから、権利の濫用を理由とした非開示決定は取り消されるべきである。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 権利濫用の法理について
権利の濫用とは「形式上権利の行使としての外形を備えるが、その具体的な状況と実際の結果に照らし、その権利の本来の目的内容を逸脱するために実質的には権利の行使として認めることができないと判断される行為」(内閣法制局法令用語研究会編「法律用語辞典」(有斐閣))とされている。権利の濫用に当たるか否かについては、具体的な場合によって異なるが、一般的には、権利行使に係る加害の意思・目的のほか、当該権利の性質・内容、その権利者個人の利益と義務者又は社会全体に及ぼす害悪など、諸般の事情を総合・比較衡量して、判断される。条例には権利の濫用を禁止するとの明文の規定はないが、条例に基づく開示請求等があった場合に、権利濫用に関する一般法理を適用して請求を拒否する余地がないわけではない。しかし、条例に明文の規定がない以上、その適用は慎重に行う必要がある。
(2) 本件非開示決定の妥当性について
以上を踏まえ、本件非開示決定における権利濫用法理の適用の妥当性を検討する。実施機関は、異議申立人が開示を求めた個人情報のうち、「請求者に係る第三者からの問い合わせの手紙、それらに対する回答メール等」については3回目の開示請求であり、「回答メール中の記述の根拠となる資料」については2回目の開示請求である旨主張している。また、実施機関は異議申立人に対して別途160件を超える開示決定等を行っており、その事務量は相当なものである旨も主張している。確かに、本件非開示決定に係る開示請求のうち「請求者に係る第三者からの問い合わせの手紙、それらに対する回答メール等」については、客観的に見れば平成16年9月18日付け開示請求や平成17年4月12日付け開示請求とほぼ同内容のものと認められる。このような開示請求のやり方は、実施機関の事務量をいたずらに増大させることは否めない。しかしながら、条例には複数回の開示請求を禁止する規定はない上に、実施機関においては既に同種の開示決定等を行っていることから、本件開示請求に係る開示決定等を行うために事務量が膨大になるとは考え難い。また、実施機関が主張するように他の開示請求等に係る事務量を勘案するとしても、条例第20条第2項(開示決定等の期限の延長)や第21条(開示決定等の期限の特例)の規定を適用して対応することも可能である。さらに、異議申立人の実施機関に対する加害意思などについては、実施機関からの主張もなく、異議申立書や意見書にもこれを示す記述は見当たらない。
したがって、当審査会としては、条例に明文の規定のない権利濫用法理を適用してまで開示請求を拒否すべき事情は見当たらないと言わざるを得ない。すなわち、実施機関においては、必要に応じて期限の延長や特例延長をしたうえで、開示、部分開示又は不存在の決定をすべきであったと考えられる。
(3) 結論よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1 審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
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平成17年 9月20日 | ・ 諮問書の受理 |
平成17年 9月27日 | ・ 実施機関に対して理由説明書の提出依頼 |
平成17年10月26日 | ・ 理由説明書の受理 |
平成17年10月27日 | ・ 異議申立人に対して理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び 口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成18年 2月 7日 | ・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 審議 (第31回個人情報保護審査会) |
平成18年 3月 7日 | ・ 審議 (第32回個人情報保護審査会) |
平成18年 4月10日 | ・ 審議 (第33回個人情報保護審査会) |
平成18年 5月22日 | ・ 答申 (第34回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
会長職務代理者 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 藤野 奈津子 | 三重短期大学法経科講師 |
委員 | 安田 千代 | 司法書士、行政書士 |