三重県個人情報保護審査会 答申第12号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った非開示決定は妥当である。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年11月15日に三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号。以下「条例」という。)に基づき行った「勤務評定の5年間分と付属する文書すべて」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成16年11月26日付けで行った非開示決定の取消しを求めるというものである。
3 実施機関の非開示理由説明
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
(1) 条例第16条第6号(事務事業情報)に該当
勤務評定は、三重県市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則(昭和33年4月30日三重県教育委員会規則第21号。以下「規則」という。)第8条第3項で非公開とすることが規定されており、校長はこれを前提として、公正な判断に基づいたありのままの評定を行っている。仮にこれが開示されると、今後、校長が勤務評定を行う場合、被評定者との対立関係を避けるため、寛大な評価や機械的に一律の評価をしてしまうことも考えられる。このような場合には、人事管理上信頼できる資料が作成されないおそれがあり、条例第16条第6号(事務事業情報)に該当することから非開示とした。
(2) 条例第16条第7号(評価等情報)に該当
校長は非公開を前提として、公正な判断に基づいたありのままの評定を行っている。その内容は職員の人格評価と密接に関連したものであり、仮にこれが開示されると、被評定者が校長による評価を率直に受け止めることが難しい場合も十分に考えられ、校長と被評定者との間に対立関係を生じさせる可能性がある。さらには、今後、校長が勤務評定を行う場合、被評定者との対立関係を避けるため、被評定者に不利な記載をすることを避けるようになることも考えられる。このような場合には、本来ありのままを正確に評定しなければならない勤務評定制度が形骸化、空洞化し、勤務評定制度本来の目的を達成できなくなるおそれがあり、条例第16条第7号(評価等情報)に該当することから非開示とした。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書において主張している異議申立ての主たる理由は、以下のように要約される。
(1) 実施機関は、公正な判断に基づいたありのままの評価をしていると主張するが、公正かどうかは誰が判断するのか。当事者の声も聞かずにありのままの評価はできない。
(2) 開示することにより、本人に不利益な評価を避け、一律評価になって制度が形骸化するというのは、評価する側が受け入れられない評価をするからである。双方向で評価を行うことにより、校長も自分自身の評価が適切かどうか分かるし、本人も評価内容がわかれば自分の努力で直すところもわかる。校長が一方的に評価し、本人への指導もないまま待遇などに結びつくというのはおかしい。
(3) 条例第16条第6号及び第7号では、「当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの」、「当該事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められるもの」を非開示にできるのであり、勤務評定が開示された場合、事務の適正な遂行に著しい支障や困難を及ぼすとは思わない。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 本件対象個人情報について
勤務評定書の保存期間は、規則第8条第2項の規定により、新たに勤務評定書が提出されるまでの期間及びその期間の経過後1年までとされていることから、本件異議申立てに係る対象個人情報は、異議申立人の2003年及び2004年の勤務評定書に記載された 同人の個人情報であると認められる。
(2) 条例第16条第6号(事務事業情報)の該当性について
条例第16条第6号は、「県、国又は県以外の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって、開示することにより、次に 掲げるおそれ(略)その他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすおそれがあるもの」は、非開示とすることができることを定めたものである。
勤務評定は規則第1条第2項において、「職員の勤務の実績とその実績を通じて見られた能力、性格及び適性とを分析、総合して行い、職員に対する指導、監督及び研修の指針と人事行政の参考とに資し、もつて教育の効果の向上を期することを目的とする」ものと され、規則第5条第2項において、「評定者は、評定の目的を十分理解し、あらゆる角度から公平に観察して、正確な評定を行うようにしなければならない」とされている。
評価制度については、異議申立人が主張するように、一方的に評価されるのではなく、評価内容について被評価者と話し合い、必要な指導を行うことにより、かえって職員の勤労意欲を高め、教育の効果の向上に資するという考えも理解できる。現に、実施機関においても、校長と職員との面談を通じた評価や指導を行うといった新しい評価制度の検討や一部試行を進めている。
しかしながら、現行の勤務評定制度は、被評定者に開示されないことを前提として校長が率直な評価を行うものであり、これが開示されるとなると、今後、校長が勤務評定を行う場合に被評定者との関係に配慮して、寛大な評価や一律の評価に陥る可能性を否定できない。このような事態になれば人事管理上信頼できる資料が作成されなくなり、ひいては勤務評定に基づく公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると認められる。したがって条例第16条第6号ニに該当すると認められる。
(3) 条例第16条第7号(評価等情報)の該当性について
条例第16条第7号は、「個人の指導、診断、判定、評価等に関する情報であって、開示することにより、当該事務の適正な遂行を著しく困難にすると認められるもの」は、非開示とすることができることを定めたものである。
非開示を前提とした現行の勤務評定制度において、勤務評定が開示されるとなると、今後、校長が勤務評定を行う場合に被評定者との関係に配慮して、寛大な評価や一律の評価に陥る可能性を否定できない。このような事態になれば、本来ありのままを正確に評定しなければならない勤務評定制度が形骸化、空洞化し、当該制度の適正な遂行を著しく困難にすると認められる。したがって条例第16条第7号に該当すると認められる。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1 審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成16年12月21日 | ・ 諮問書の受理 |
平成16年12月24日 | ・ 実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
平成17年 2月 17日 | ・ 非開示理由説明書の受理 |
平成17年 2月23日 | ・ 異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成17年 6月23日 | ・ 書面審理 ・ 実施機関の補足説明 ・ 異議申立人の口頭意見陳述 ・ 審議 (第24回個人情報保護審査会) |
平成17年 7月28日 | ・ 審議 (第25回個人情報保護審査会) |
平成17年 8月23日 | ・ 審議 ・ 答申 (第26回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
委員 | 樹神 成 | 三重大学人文学部教授 |
委員 | 寺川 史朗 | 三重大学人文学部助教授 |
会長職務代理者 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 松井 真理子 | 四日市大学総合政策学部教授 |