三重県個人情報保護審査会 答申第11号
答申
1 審査会の結論
実施機関は、本件異議申立ての対象となった個人情報のうち、審査会が三重県個人情報保護条例第16条第2号に 該当すると判断した部分を除き、開示すべきである。
2 異議申立ての趣旨
異議申立ての趣旨は、異議申立人が平成16年8月3日付けで三重県個人情報保護条例(平成14年三重県条例第1号 。以下「条例」という。)に基づき行った「請求者本人の授業・発表を撮影したビデオテープ」の開示請求に対し、三重県教育委員会(以下「実施機関」という。)が平成16年9月15日付けで行った非開示決定の取消しを求める というものである。
3 実施機関の非開示理由説明
実施機関が理由説明書及び口頭による理由説明において主張している内容は、以下のように要約される。
(1) 条例第16条第2号(開示請求者以外の個人情報)に該当
開示請求のあったビデオテープには指導力向上支援研修を受講していた異議申立人以外の他の研修教員や生徒に 関する情報が含まれている。これらは当然異議申立人が知り得るものであるが、仮にこれらのビデオテープの複製を異議申立人に交付した場合、当該情報が第三者に知られる可能性は否定できない。その結果、映像や呼名によって他の研修教員や生徒が特定され、当該個人の権利利益を害するおそれがある。
(2) 条例第17条(部分開示)による非開示
ビデオテープに含まれる異議申立人以外の研修教員と生徒の姿や呼名を非開示とし、異議申立人本人の音声と姿 のみを開示することとして編集を試みたが、開示できる部分と開示できない部分を手作業で区分するのに相当の時 間がかかり、開示のための画像編集の技術と設備に限界があるため断念した。次に外部委託を検討し、専門業者から仮見積もりを取ったところ、相当の費用が必要であることがわかった。このため、条例第26条の規定に基づい て請求者にその費用負担を打診したところ、同意を得られなかったため、非開示決定をせざるを得なかった。
4 異議申立ての理由
異議申立人が異議申立書、意見書及び口頭による意見陳述で主張している異議申立ての主たる理由は、以下のように要約される。
(1) 開示を求めるビデオテープは、研修期間中には研修教員からの要望に応じて視聴又は複製が認められていたものである。ビデオカメラは、他の研修教員や生徒の背後に固定され、正面からは撮影されておらず、また、呼名は名字のみであり、これをもって個人が特定されるとまでは言えない。
そもそも、他の研修教員や生徒については異議申立人が知り得る立場にあることが明らかであるので、当該個人の権利利益を侵害するおそれはない。
(2) 仮にビデオテープの一部を非開示にする場合であっても、テレビ画面の一部を紙で覆ったうえで、ビデオテープを再生しているところをビデオカメラで撮影すれば、画面は紙で覆ってあるので非開示部分を隠すことができる。呼名については、テレビの停止ボタンで簡単に非開示にすることが可能である。
5 審査会の判断
当審査会は、異議申立ての対象となった個人情報並びに異議申立人及び実施機関の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
(1) 本件対象個人情報について
本件異議申立てに係る対象個人情報は、指導力向上支援研修として行われた10分間スピーチ、模擬授業、検証 授業、所属校での研究授業等の研修の様子を撮影したビデオテープのうち、他の研修教員及び生徒に係る映像及び 音声である。
(2) 条例第16条第2号(開示請求者以外の個人情報)の該当性について
条例第16条第2号は、「開示請求者(当該開示請求者が代理人の場合は、本人をいう。)以外の個人に関する情 報(事業を営む個人の当該事業に関するものを除く。)であって、開示することにより、当該個人の権利利益を侵 害するおそれがあるもの」は、非開示とすることができることを定めたものである。
指導力向上支援研修を撮影したビデオテープには、異議申立人以外の他の研修教員及び生徒に関する情報が含まれている。これらの情報について個別に検討し、以下のように判断する。
ア 他の研修教員に関する情報について
実施機関が非開示とした内容は、指導力向上支援研修を受講した異議申立人以外の他の研修教員の顔、後ろ姿、発言、呼名、黒板上の氏名等である。
実施機関は当該研修の受講者名を公表しておらず、また、これらの情報は他人に知られたくないと感じる程度の高いものである。
他の研修教員の情報については、当然異議申立人が知り得るものではあるが、ビデオテープの複製を異議申立人に交付した場合、当該情報が異議申立人以外の第三者に知られ、他の研修教員の権利利益を侵害するおそれがあると認められる。
したがって、実施機関が非開示とした情報のうち、他の研修教員の顔(識別可能であるもの)、呼名、黒板上の氏名については、個人が識別され得るので、条例第16条第2号に該当すると認められるが、それ以外の部分については、個人が特定されるわけではないので、条例第16条第2号に該当すると認められない。
イ 生徒に関する情報について
実施機関が非開示とした内容は、生徒の顔、後ろ姿、発言、呼名等である。
当該生徒に関する情報については、異議申立人が知り得るものであり、ビデオテープの複製を異議申立人に交付した場合、仮に当該情報が異議申立人以外の第三者に知られるところになったとしても、社会通念上、学校での授業風景を撮影したビデオテープに生徒の情報が含まれていることをもって当該生徒の権利利益の侵害に当たるとは言えず、条例第16条第2号に該当するとは認められない。
(3) 条例第17条(部分開示)の判断について
条例第17条は、「実施機関は、開示請求に係る個人情報の一部に非開示情報が記録されている場合において、非開示情報に係る部分を容易に区分して除くことができるときは、当該非開示情報に係る部分以外の部分を開示しなければならない。」と定めたものである。
実施機関は、非開示情報に係る部分とそれ以外の部分を区分するのに相当の時間がかかり、開示のための画像編集の技術と設備に限界があるため非開示にせざるを得なかったと主張している。
しかしながら、非開示部分を消去する方法として、例えば、実施機関において、ビデオデッキを用いてビデオテープ内の非開示情報が含まれる部分を上書き録画するなどによって、非開示情報が含まれる部分を容易に区分して除くことができるものと認められる。
したがって、実施機関が主張するような相当の時間や技術的困難を伴うとは認められず、実施機関が行った非開示決定は妥当でない。
(4) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1 審査会の処理経過
年月日 | 処理内容 |
---|---|
平成16年 11月12日 | ・諮問書の受理 |
平成16年 11月18日 | ・実施機関に対して非開示理由説明書の提出依頼 |
平成16年 12月14日 | ・非開示理由説明書の受理 |
平成16年 12月24日 | ・異議申立人に対して非開示理由説明書(写)の送付、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
平成17年 1月20日 | ・意見書及び口頭意見陳述申出書の受理 |
平成17年 1月26日 | ・書面審理 (第21回個人情報保護審査会) |
平成17年 1月31日 | ・実施機関に対して意見書(写)の送付 |
平成17年 2月18日 | ・審議 ・実施機関の補足説明 ・異議申立人の意見陳述 (第22回個人情報保護審査会) |
平成17年 3月24日 | ・審議 ・答申 (第23回個人情報保護審査会) |
三重県個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 | 役職等 |
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会長 | 曽和 俊文 | 関西学院大学法科大学院教授 |
会長職務代理者 | 浅尾 光弘 | 弁護士 |
委員 | 稲葉 一将 | 愛知学院大学法学部講師 |
委員 | 豊島 明子 | 三重大学人文学部助教授 |
委員 | 松井 真理子 | 四日市大学総合政策学部助教授 |