三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第30号
答申
1 審査会の結論
実施機関は本件審査請求の対象となった公文書のうち、当審査会が非開示妥当と判断した部分を除き、開示すべきである。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成30年10月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「三重県が保有する三重県地方卸売市場に関する文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成30年11月1日付けで行った公文書部分開示決定の取消しを求めるものである。
なお、実施機関は平成31年1月8日に当初決定の一部を変更し、非開示部分を一部開示したので、当審査会も変更後の公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の妥当性について審査するものとする。
3 審査請求の理由
審査請求書、反論書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。自分は三重県地方卸売市場に関して保有する文書の全てを請求したが、県は保有する文書を明確にせず、説明もしなかった。県は保有する文書名を個別に明らかにし、どのような性質の文書か説明するべきである。
三重県地方卸売市場で営業を行う卸売会社が平成28年に2社になったことにより、経営状況が悪化している。三重県が2社の営業を認可した際には、経営悪化が想定されたが、それに対する対応策が考えられていなかったのか、経営の健全性を保つために県が努力を払ったのか知る必要があり、開示請求を行った。しかしながら卸売会社を2社にしたことに関連する公文書について、ほぼ黒塗りになっている。卸売市場の健全性を保つことを目的に自分が知ろうとした事柄は公共性の高い事柄である。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。公文書の特定に当たっては、審査請求人と面談、電話等で請求内容を聞き取り、公文書の特定について確認したものである。
今回非開示とした情報は、個人に関する情報や、開示することにより法人の競争上の地位、ノウハウ、信用等の運営上の地位及びその他正当な利益を害すると認められる法人の内部管理に関する情報であることから非開示の決定を行っている。また、過去にも同様の卸売業務に関する届出書類一式の開示請求に対して部分開示決定を行っており、それと同様の判断をした。
今回の対象公文書は、地方卸売市場で営業を行う企業に対する内部情報、意見、推測に当たる部分が記載されており、当該法人又は事業を営む個人の名誉、社会的評価、社会活動の自由等が損なわれると認められ、当該法人の経営方針、経理、人事等内部管理に関する情報であり、開示することにより法人等又は事業を営む個人の事業活動が損なわれると認められる。
5 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)本件対象公文書及び非開示部分について
本件審査請求の対象となっている公文書は、地方卸売市場で卸売業を行おうとする際に実施機関へ提出された「業務許可申請書」と、地方卸売市場において卸売業者の業務を許可したことに対して実施機関へ提出された「意見書」(以下「本件対象公文書」という。)である。
「業務許可申請書」には、法人の印影、個人(役員)の印影、住所、家族構成、学歴、生年月日、年齢、職歴、賞罰が記載されているとともに、株主名簿及び株主構成、さらには事業計画書として売上の見込額、費用の算出基礎、品目、産地別の集荷計画、預金通帳の写し、他法人との契約内容、登記されていない定款が記載されている。「意見書」は、法人が県に提出した、卸売業者(別法人)が業務の許可を実施機関に提出した経緯とそれに対する要望が書かれた文書である。実施機関は、これらの情報は、条例第7条第2号及び第3号に該当すると主張しているため、当審査会において本件対象公文書を見分した結果を踏まえ、非開示情報該当性を検討する。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(4)条例第7条第2号(個人情報)の該当性について
ア 個人(役員)の印影、住所、家族構成、学歴、生年月日、年齢、職歴、賞罰
個人の印影は、氏名のみに止まらず、その形状には、印鑑の種類に関係なく、特定の個人に関する情報が含まれており、直接あるいは他の情報と組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報であり、本号本文に該当すると認められる。また住所、家族構成、学歴、生年月日、年齢、職歴、賞罰については個人に関する情報であり、特定の個人が識別され得る情報でもあり、本号本文に該当すると認められる。また、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当すると認められない。したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。なお、本件対象公文書の中で、役員の氏名についてはすでに開示が行われているところであるが、一部非開示になっている部分が見受けられるので、それらの部分は開示すべきであると判断する。イ 株主名簿及び株主構成
株主名簿のうち、商業登記簿で登記がされている役員以外の氏名、株主の所有株式数、金額については個人に関する情報であり、個人の財産状況に関する情報でもあるため、本号本文に該当すると認められる。また、本号ただし書イ及びロのいずれにも該当すると認められない。したがって、当該情報を非開示とした実施機関の判断は妥当である。(5) 条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(6) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
ア 売上の見込額、費用の算出基礎、品目、産地別の集荷計画、預金通帳の写し、他法人との契約内容、登記されていない定款
これらの情報は、法人の営業に関する情報であり、経営方針等内部管理に関する情報であって、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。しかしながら、取引を行う品目、産地については一般的な野菜、果実の名前、取引先の都道府県名が記載されているのみであり、これらの情報を開示しても当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められない。
以上のことから、集荷計画のうち、集荷する予定量、予定額については本号本文に該当し、同号ただし書イ、ロ又はハの情報には該当するとは認められないことから、非開示とすることが妥当であるが、「品目名」と「産地名」については、開示すべきであると判断する
イ 法人の印影について
本件対象公文書の法人の印影を開示することにより、直ちに印影偽造等を誘発する おそれがあるとは認められず、法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ があるとは言えないので、非開示とする理由はなく、開示すべきであると判断する。ウ 業務の許可を実施機関に提出した経緯とそれに対する要望が書かれた文書
本件対象公文書には、法人が提出した、他の卸売会社が業務許可申請を実施機関に提出した際の経緯と、それに対して対処を要望した内容が記載されている。法人の設立日のような客観的に公になっている事実や、一般的な記述については、これを開示することにより法人の競争上の地位その他正当な利益を害するとは認められないため開示が妥当であるが、法人がどのような経緯で業務許可を申請したのかという情報は、経営方針等の内部管理に関する情報であり、対処を要望した内容は意見書を提出した法人とは別の業務許可を受けた法人に直接関わる情報が含まれており、これらの部分を公にすることにより、業務許可を受けた法人に不利益が及び、法人の社会的評価の低下につながると考えられるので、条例本号本文に該当すると認められる。
また、審査請求人は、許可業者を1社から2社にするに際して、卸売市場の経営の健全性の確保について県が努力を払ったのか知るため、これらの情報については開示が妥当であると主張している。しかしながら三重県地方卸売市場条例において、卸売業者の数は2社までと定められており、条例に基づいて許可申請に対しての判断が行われている以上、本件非開示部分を公開することによる法人の不利益を上回って開示するまでの公益上の理由は認めがたい。したがって条例第7条第3号ただし書の情報に該当せず、非開示が妥当であると判断する。
(7) 結論
よって、主文のとおり答申する。6 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、審査会として次のとおり意見を申し述べる。本件事案は、公文書の特定にあたって審査請求人と実施機関の間で連絡をとっていた のにもかかわらず、意思疎通が十分図られなかったことが推察される。文書の特定につ いて、実施機関側には、公文書の特定に必要な情報を請求者に対して提供する努力義務 があり、請求者側には条例第6条第2項において「実施機関が公文書の特定を容易にで きるよう必要な協力をしなければならない」と規定されている。今後は公文書の特定が 適切に行えるよう、双方が協力するよう努められたい。
また、本決定等において、実施機関は、開示しない理由として「法人の内部管理に関する情報であり、開示することにより、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるため」と記載している。非開示情報が記録されているために開示請求に係る公文書の全部又は一部を開示しない場合の理由付記(条例第15条)については、単に条例上の根拠条項を示すだけでは足りず、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると解されており、非開示情報の内容が明らかにならない限度において、開示されることにより具体的に法人の競争上の地位その他正当な利益をどのように害するのかを、情報の類型ごとに全て明示をするべきである。したがって、本決定等において実施機関の理由付記に不備があったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努め、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
7 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 | |
---|---|---|
31. 1.24 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
|
31. 1.25 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 | |
31. 2.13 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
|
31. 2.27 | ・実施機関からの意見書の受理 | |
31. 4.17 |
・書面審理 |
|
1. 5.15 |
・審議 |
・
|
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
坂口 知子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。