三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第28号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、審査請求人が平成29年10月4日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った、「海岸高潮対策事業堤防改良工事に関する文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成29年10月18日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 審査請求の理由
審査請求書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。本件部分開示決定は、非開示部分を開示しない理由がないにもかかわらず、非開示とした違法な処分であるから取り消されるべきである。
県の入札工事を受注した法人の下請関係が適正かどうか確認する必要があることから、下請通知関係の下請金額、単価、支払条件の情報の開示を求める。特に本件工事のような高度な技術を要しないような工事の下請金額については、市販されているソフトウェア等によってある程度の推測がなされており、すでに入札手続きも終わった案件であるので、法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる情報には該当せず、公開されるべきである。
4 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書は、海岸高潮対策工事を落札し施工した業者が県との間で結んだ契約の内容等について記載されている「契約関係書類」、それに伴い県が業者に支出した金額等がわかる「支払関係書類」、落札業者と、その下請業者の間の契約内容等を県に報告した「下請通知関係書類」、落札業者が、県にどのような施工を行ったか報告をする「工事施工管理関係書類」である。5 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。今回非開示とした監理技術者の生年月日、住所、学歴、本籍、印影、作業者の氏名、顔写真は、個人に関する情報であり、特定の個人が識別されうるものと認められるため、条例第7条第2号に該当し、非開示とした。
また法人の口座情報、振替又は送金先、預託金融機関名、下請金額、支払条件の情報は法人に関する情報であり当該法人の内部管理に関する情報であるため、条例第7条第3号に該当し、非開示とした。
さらに創意工夫(施工計画書、実績報告書)については、公文書部分開示決定通知書の「開示しない部分」及び「開示しない理由」が記載漏れとなっているが、三重県情報公開審査会答申第372号に基づき、法人の創意工夫を記載した当該文書は条例第7条第3号に該当し、同号ただし書きの情報には該当するとは認められないことから、非開示とした。
6 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第3号(法人情報)の意義について
本号は、自由主義経済社会においては、法人等の健全で適正な事業活動の自由を保障する必要があることから、事業活動に係る情報で、開示することにより、当該法人等の競争上の地位その他正当な利益が害されると認められるものが記録されている公文書は、非開示とすることができると定めたものである。
しかしながら、法人等に関する情報であっても、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体、健康又は財産を保護し、又は違法若しくは不当な事業活動によって生ずる影響から県民等の生活又は環境を保護するため公にすることが必要であると認められる情報及びこれらに準ずる情報で公益上公にすることが必要であると認められるものは、ただし書により、開示が義務づけられることになる。
(3) 条例第7条第3号(法人情報)の該当性について
審査請求人は意見陳述において、非開示部分の全てを開示すべきとの審査請求書の提出時における主張を変更し、下請通知関係書類の中の、下請金額、支払条件以外の非開示部分については争わないとしている。このため、「下請通知関係書類」のうち、「下請の請負金額」及び「支払条件」における非開示部分の本号該当性について判断する。
法人が他の法人といかなる金額及び条件で請け負うかどうかは、法人の営業に関する情報であり、これを開示することにより、当該法人の請負金額及び条件の前例となって今後の事業活動に支障をきたすなど、当該法人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる。よって当該非開示部分は、条例第7条第3号に該当する。
また審査請求人は請負関係という契約の適正性を確認するため、これらの情報については開示が妥当であると主張している。確かに請負契約の適正性の確認は公益上の要請があることを否定するものではないものの、一方これを公開されることによる法人の営業の秘密が明らかになることによる不利益と比較衡量した場合、本件非開示部分を公開することによる法人の不利益を上回って開示するまでの公益上の理由は認めがたい。したがって条例第7条第3号ただし書の情報に該当せず、非開示が妥当である。
(4)結論
よって、主文のとおり答申する。7 審査会の意見
当審査会の結論は以上のとおりであるが、本件事案については、実施機関の事務処理の一部に不適切な点が見受けられることから、審査会として次のとおり意見を申し述べる。開示請求を拒否する処分を行う場合の理由付記(条例第15条)については、開示請求者が拒否の理由を明確に認識し得るものであることが必要であると解されている。
本決定において、実施機関は、開示しない部分とその理由を一部記載していないことが認められる。どういった情報が非開示とされ、なぜ開示ができないのかを書面からは知り得ることができないため、実施機関の理由付記に不備があったと言わざるを得ない。
実施機関は、情報公開制度への信頼を確保するためにも、条例の適正な運用に努め、今後同様のことがないよう正確、慎重な対応をするよう努力することが望まれる。
8 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
29. 11.29 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
29. 12. 1 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
30. 3. 5 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
31. 3.13 | ・書面審理 ・審査請求人の口頭意見陳述 ・実施機関の補足説明 ・審議 (平成30年度第11回第2部会) |
31. 4.17 |
・審議 |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
坂口 知子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。