三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第26号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成30年6月28日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「三重県優生保護審査会の議事録や厚生省による通知など、旧優生保護法に基づく障がい者らへの強制不妊手術に関して現存する公文書」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、三重県知事(以下「実施機関」という。)が平成30年7月4日付けで行った公文書部分開示決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるものである。
3 旧優生保護法について
旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生防止と母性の生命健康の保護を目的として、優生手術などについて規定していた法律である。特定の疾患に罹っている者について、疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると医師が認めた場合には、当該医師は都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査の申請を行う。都道府県優生保護審査会は、審査のうえ優生手術を行うことの適否を決定し、その結果や優生手術を行うべき医師を、優生手術を受くべき者等に通知することとなっていた。
4 本件対象公文書について
本件審査請求の対象となっている公文書は、現存する全ての三重県優生保護審査会の開催通知や議事録、優生手術実施の適否決定、優生手術を実施する医師の指定等にかかる計91件の文書である。5 審査請求の理由
審査請求書における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。強制不妊手術対象者の年齢、病名、病状を非公開にすることによって、優生保護審査会においてどのような理由で手術対象者が選ばれたのかがわからなくなってしまう。強制不妊手術の実態を解明するためにも、年齢、病名、病状に関しては開示が必要である。
愛知県に同様の開示請求をした際は、手術対象者の年齢、病名、病状は公開された。他県で開示できると判断された箇所に関しては、三重県でも開示できると思われる。
三重県健康福祉部子ども・家庭局によってweb上で公開されている「旧優生保護法にかかる県調査概要」では、手術対象者の病状が4例掲載されている。調査報告書にて病状が明らかにされているのなら、開示文書内での病状の公開も可能ではないか。
6 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。強制不妊手術審査対象者の年齢、病名、病状は、個人に関する情報であり、当該情報と開示している優生手術を申請した医療機関名や優生手術を実施した医療機関名を組み合わせることにより、たとえ氏名を非開示にしても、特定の個人が識別され得ると認められるため、条例第7条第2号に該当し、同号ただし書の情報にも該当するとは認められないことから、非開示とした。
また、強制不妊手術審査対象者の病名、病状などカルテに近い情報は、個人の人格と密接に関係する情報であり、当該個人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり、本人の同意なしに第三者に流通させることは適切ではなく、たとえ個人識別性がない場合であっても、条例第7条第2号の「公にすることにより、なお個人の権利利益を害する恐れがあるもの」に該当するので、非開示とするべきである。
なお、旧優生保護法にかかる不妊手術については、実態解明の社会的要請が強いことから、三重県で独自の調査を行い、強制不妊手術審査対象者について、大まかな病名の区分とその件数、代表的な症例等を特定の個人が識別できない形で公表したところである。
7 審査会の判断
(1)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(2)条例第7条第2号(個人情報)の意義について
個人に関する情報であって特定の個人を識別し得るものについて、条例第7条第2号は、一定の場合を除き非開示情報としている。これは、個人に関するプライバシー等の人権保護を最大限に図ろうとする趣旨であり、プライバシー保護のために非開示とすることができる情報として、個人の識別が可能な情報(個人識別情報)を定めたものである。
しかし、形式的に個人の識別が可能であればすべて非開示となるとすると、プライバシー保護という本来の趣旨を越えて非開示の範囲が広くなりすぎるおそれがある。
そこで、条例は、個人識別情報を原則非開示とした上で、本号ただし書により、個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優越するため開示すべきもの等については、開示しなければならないこととしている。
(3) 条例第7条第2号(個人情報)本文の該当性について
実施機関が、本決定において本号に該当するとして非開示とした情報(以下「本件非開示部分」という。)は、旧優生保護審査会において優生手術の適否に係る審査の対象となった個人の年齢、病名、病状である。当該情報は、個人に関する情報であり、既に開示されている医療機関名と照合することにより、特定の個人が識別され得ることが認められる。また、個人の病名や病状に関する情報は、個人の人格と密接に関係する情報であり、当該個人がその流通をコントロールすることが可能であるべきであり、本人の同意なしに第三者に流通させることは適切ではなく、たとえ個人識別性がない場合であっても、本号の「公にすることにより、なお個人の権利利益を害する恐れがあるもの」に該当すると認められるので、本号本文に該当するといえる。
(4)条例第7条第2号(個人情報)ただし書イの該当性について
本号ただし書イは、本号本文で非開示情報とされている個人識別情報について、法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報については非開示から除くものとしている。その趣旨は、個人識別情報であっても、一般に公にされ、又は公にすることが予定されている情報であれば、非開示とすることにより保護すべき利益が存するとは考えがたいことや、たとえ個人のプライバシーを侵害する可能性のある情報が含まれたとしても受忍限度内にとどまるものと考えられることによるものと解される。審査請求人は、既に三重県が発表している「旧優生保護法にかかる県調査概要」において手術対象者の病状を一部掲載しているため、病状については公開が妥当であると主張している。しかし、「旧優生保護法にかかる県調査概要」には、すべての手術対象者の病状を記載しているわけではなく、また記載されている4例は、代表的な病状を個人が識別されないよう記載されたものであり、優生手術対象者の病状は公にされている情報であるとはいえない。したがって、本件非開示部分はただし書イに該当しないと判断する。
(5) 条例第7条第2号(個人情報)ただし書ロの該当性について
本号ただし書ロは、個人識別情報であっても公益上公にすることが必要であると認められるものについては公開の対象となる旨規定している。この規定は、個人識別情報であっても、人の生命、身体、健康、財産、生活又は環境を保護するため、公にすることが必要であると認められるものがあるが、その場合には、公益と一方これを公開されることによる個人のプライバシー侵害による不利益とを比較衡量した結果、なお公益の方が大とされたものを、条例第7条第2号の例外として公開の対象とする旨定めたものである。審査請求人は、強制不妊手術の実態を解明するためにも、年齢、病名、病状の開示は必要であると主張する。確かにこの点について、社会的要請があることは認めるものの、本件非開示部分は(3)で述べたように個人の人格と密接に関係する情報である。また、「旧優生保護法にかかる県調査概要」において、優生保護審査会の審査の概要、手術対象者の大まかな病名、病状などはすでに明らかにされており、本件非開示部分を公開することによる個人の不利益を上回って開示するまでの公益上の理由は認めがたい。したがって、本件非開示部分は、ただし書ロに該当しないと判断する。
以上から、本件非開示部分を非開示とした実施機関の判断は妥当である。
8 結論
よって、主文のとおり答申する。9 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
30. 9. 6 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30. 9. 7 | ・実施機関に対して、対象公文書の提出依頼 |
30. 6.20 | ・実施機関を経由して審査請求人からの反論書の受理 |
30. 10. 1 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
30. 10.12 |
・実施機関からの意見書の受理 |
30. 10.24 |
・書面審理 |
30. 11.28 |
・審議 (平成30年度第7回第2部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
---|---|
会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。