三重県情報公開・個人情報保護審査会 答申第25号
答申
1 審査会の結論
実施機関が行った決定は、妥当である。
2 審査請求の趣旨
審査請求の趣旨は、開示請求者が平成30年4月23日付けで三重県情報公開条例(平成11年三重県条例第42号。以下「条例」という。)に基づき行った「特定の者を代表者とする特定宗教団体の宗教法人の設立に関する手続の有無がわかる文書(所轄庁との事前協議、設立発起人会の開催、公告、規則の認証申請、認証書の交付、宗教法人設立登記、宗教法人設立届提出などの有無)」についての開示請求(以下「本請求」という。)に対し、平成30年5月7日付けで三重県知事(以下「実施機関」という。)が行った公文書の存否を明らかにしない決定(以下「本決定」という。)の取消しを求めるというものである。
3 審査請求の理由
審査請求書、反論書、審査会に提出された意見書及び意見陳述における審査請求人の主張を要約すると、概ね次のとおりである。
特定の者を代表者とする特定宗教団体に対しては、これまでに多くの判決等が出され、当該宗教団体の行為の違法性が確認されている。違法行為を行っている当該宗教団体には、法的保護に値する利益は存しない。
実施機関が、当該宗教団体を「権利能力なき社団であるかの判断ができない。」としていることも、本件情報を個人情報扱いしていることも重大な誤りである。
本決定は、三重県情報公開条例の解釈を誤り、存否応答拒否理由がないにもかかわらずした違法な処分であり、処分庁の裁量の範囲を超え又はその裁量権を濫用したものとして違法な処分であるから、取り消されるべきである。
4 実施機関の説明要旨
実施機関の主張を総合すると、次の理由により、本決定が妥当というものである。特定の者を代表者とする特定宗教団体が権利能力なき社団の要件を満たしていると仮定した場合、宗教法人設立に関する手続の文書が存在しているにもかかわらず、長期にわたって法人が設立されない場合は、当該宗教団体に何らかの不備があり、宗教法人の設立が認められなかったと一般に推測されることになる。
何らかの不備がある宗教団体に対して宗教団体の周辺の住民から懐疑の目が向けられるおそれは否定できず、所轄庁との事前協議から宗教法人設立までの各段階の進捗状況が開示されれば宗教法人設立への反対運動につながる場合も想定される。したがって条例第7条第3号(法人情報)に該当する。
特定の者を代表者とする特定宗教団体が権利能力なき社団の要件を満たしていない場合、特定の者は事業を営む個人にあたらない可能性が否定できず、条例第7条第2号(個人情報)に該当する。
5 審査会の判断
(1)審査会委員の回避について
本審査会は別紙1のとおり4人の委員で組織されているが、本事案の審査に関し、片山委員から、「審査請求に係る特定宗教団体と従前に訴訟で関わっており、本事案の審査に携わるのは適当でなく、辞退したい。」旨、回避の申し出があった。
審査会としても、審査請求人等から審査の公正・中立性に疑義を受けないようにとの配慮から、審査会委員の総意により、この申し出を適当と認めた。
したがって、同委員は本事案の審査には全く関与していない。
(2)基本的な考え方
条例の目的は、県民の知る権利を尊重し、公文書の開示を請求する権利につき定めること等により、県の保有する情報の一層の公開を図り、もって県の諸活動を県民に説明する責務が全うされるようにするとともに、県民による参加の下、県民と県との協働により、公正で民主的な県政の推進に資することを目的としている。条例は、原則公開を理念としているが、公文書を開示することにより、請求者以外の者の権利利益が侵害されたり、行政の公正かつ適正な執行が損なわれたりするなど県民全体の利益を害することのないよう、原則公開の例外として限定列挙した非開示事由を定めている。
当審査会は、情報公開の理念を尊重し、条例を厳正に解釈して、以下のとおり判断する。
(3)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の意義について
公文書の開示請求があった場合、条例は、原則開示の理念のもとに解釈・運用されなければならないが、条例第11条は、開示請求に対し、当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該公文書の存否を示さないで、当該公文書の開示をしないことができるとしている。そして、「当該開示請求に係る公文書の存否を答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る公文書の存否自体の情報が条例第7条各号の規定により保護すべき情報に当たる場合をいう。
(4)条例第11条(公文書の存否に関する情報)の該当性について
本請求は、特定の者を代表者とする特定宗教団体が宗教法人設立の手続を行ったかどうかわかる文書を求めて行った開示請求である。当該文書の存否について、実施機関は、特定宗教団体が権利能力無き社団であれば条例第7条第3号の法人情報に該当し、権利能力無き社団でなければ条例第7条第2号の個人情報に該当すると主張しているので、まず宗教法人を設立しようとする者が権利能力無き社団に該当するかどうかについて検討し、次に宗教法人設立手続の有無を明らかにすることが、条例に規定する非開示情報を開示することになるか否かについて、検討する。ア 宗教法人を設立しようとする者について
権利能力無き社団とは、一定の目的をもった人の集団である社団としての実態は備えているものの、法人格は有さず、権利義務の帰属主体となることができない団体をいい、町内会や同好会、設立中の会社などがこれに当たる。宗教団体は、宗教法人法(昭和26年法律第126号。以下「法」という。)第2条で、「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的とする(中略)団体」と定義され、法第4条で「宗教団体は、この法律により、法人となることができる。」と規定している。そして、宗教法人を設立しようとする者は、設立しようとする宗教法人の目的、名称、所在地等を記載した規則を作成し、その他の書類を添えて認証申請書を所轄庁に提出し、所轄庁の認証を受ける旨規定されている。
実施機関は、申請に対し、法第2条に規定する宗教団体かどうか等の要件を備えているかを審査する。宗教団体の要件を備えていると認めたときは、その規則を認証する旨の決定を行うが、宗教団体の要件を備えていないと認めるときは、規則を認証することができない旨の決定を行うことになり、その場合は、当該申請者は、権利能力なき社団の可能性もあると、実施機関は主張する。
しかし、申請者は法人格を取得することを目的に申請を行っているのであるから、個人が申請を行うということは考えにくく、一定の目的をもった人の集団であるが法人格を有しない団体、すなわち権利能力無き社団が申請を行うと考えるのが自然である。
そして、条例第7条第3号の「法人その他の団体」には権利能力無き社団等も含まれると解されることから、当該申請を行ったか否かについては、条例第7条第2号(個人情報)ではなく、条例第7条第3号(法人情報)の非開示情報を明らかにするか否かという観点から審理するのが適当である。
イ 条例第7条第3号(法人情報)について
本件存否情報は、特定宗教団体が,宗教法人格を取得するために、規則認証申請の手続を行ったか否かという情報であることから、このような情報は、信教の自由の原則に内在する宗教団体結成の自由及びその活動の自由に関わる情報であると認められる。規則の認証の手続については、法第12条第3項において、宗教法人を設立しようとする者は、認証申請の少なくとも1月前に信者その他の利害関係人に対して当該規則案の要旨を公告しなければならないとされ、当該公告の方法については、同条第2項において、信者その他の利害関係人に周知させるに適当な方法でするものとされている。公告は、宗教法人の自主性の尊重と民主的運営を保障する精神から出たものであり、法人が重要な行為をする場合に、信者その他の利害関係人の承知のうえで行われ、少数者の独断で信者等の利益が損なわれることのないよう要請している制度である。
そうすると、法第12条第3項における公告は、一般の者に広く周知させるためのものではなく、信者その他の利害関係人という限定された者に周知させるためのものと考えられるため、法人を設立しようとすることを知り得る者は限られており、規則認証申請の手続を行ったか否かの情報は,特定宗教団体とその関係者において管理される情報としての性格を有するものであるといえる。よって、当該情報が、その性質自体から公のものであるとか、広く知られる状態に置かれているものであるということはできない。
そのため、当該情報は、当該規則の認証前にあっては、これを公にすると、特定宗教団体の管理運営に関わりを有しない第三者によって、当該団体の自由な宗教活動を妨害するための材料や自立的な運営に干渉するための材料として使われ、ひいては認証申請を取り下げさせるなど、信教の自由を害するおそれがあると認められる。
したがって、当該文書の存否を答えるだけで、条例第7条第3号に規定する非開示情報を開示することとなるため、実施機関が条例第11条の規定に基づき当該公文書の存否を示さないで非開示としたことは妥当である。
(5)審査請求人のその他の主張
審査請求人はその他、これまで多くの判決等で行為の違法性が確認されている特定宗教団体には、法的保護に値する利益は存しないとして、開示を主張するが、(4)で述べたとおり、当該文書の存否は、条例第7条第3号に規定する非開示情報に該当する以上、審査会の判断を左右するものではない。(6) 結論
よって、主文のとおり答申する。
6 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙1審査会の処理経過のとおりである。
別紙1
審査会の処理経過
年 月 日 | 処理内容 |
---|---|
30. 6. 6 |
・諮問書及び弁明書の受理 |
30. 6.29 | ・実施機関を経由して審査請求人からの反論書の受理 |
30. 7.20 | ・実施機関に対して、意見書の提出依頼 ・審査請求人に対して、意見書の提出依頼及び口頭意見陳述の希望の有無の確認 |
30. 8.20 | ・審査請求人からの意見書の受理 |
30. 8.22 |
・書面審理 |
30. 9.11 |
・審議 (平成30年度第5回第2部会) |
30. 10.24 |
・審議 (平成30年度第6回第2部会) |
三重県情報公開・個人情報保護審査会委員
職名 | 氏名 |
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会長 (第一部会部会長) |
髙橋 秀治 |
※会長職務代理者 (第二部会部会長) |
岩﨑 恭彦 |
委員 | 内野 広大 |
委員 |
川本 一子 |
委員 | 藤本 真理 |
※委員 | 片山 眞洋 |
※委員 | 木村 ちはる |
※委員 |
村井 美代子 |
なお、本件事案については、※印を付した会長職務代理者及び委員によって構成される部会において調査審議を行った。